話数単位で選ぶ、2016年TVアニメ10選

今年のアニメを振り返る意味も兼ね、今回もこちらの企画に参加させて頂きます。

・2015年1月1日~12月31日までに放送されたTVアニメ(再放送を除く)から選定。

・1作品につき上限1話。

・順位は付けない。

集計ブログ様:「話数単位で選ぶ、2016年TVアニメ10選」参加サイト一覧: 新米小僧の見習日記

選出基準の方は例年と同じく特に面白かったもの、感動させてくれた挿話を選定させて頂きました。それ以外は上記のルール通り、順不同、選出順等に他意はありません。敬称略で表記している箇所もありますが、その辺りはご容赦を。

 

 

無彩限のファントムワールド 11話 「ちびっ子晴彦くん」

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脚本:吉田玲子 絵コンテ:石立太一 演出:石立太一 作画監督:植野千世子

 

京都アニメーションの家族観。そんな枠組みのなか、石立太一さんで思い出されるのは『CLANNAD』14話。一ノ瀬ことみの回を彷彿とさせる要素も本話ではあったように感じます。レイアウトの中心に人物置くのではなく画面に余白を持たせていたのが印象的。他にも引きや窓越しにカメラを置くことで、より母親や家族の温かさというものを表現しながら見守るための視線を大事にしていたように思います。舞先輩の母親としての立ち姿には感動を覚えますし、むしろこの挿話を軸にすれば本作は彼女の成長記としても捉えることが出来るのだから面白いですね。柔らかい表情、舞先輩を母親として描こうとする優しいタッチなど、舞お母さんの母性と巧みな演出が沁みる本当に素敵な挿話だったと思います。

 


 

この素晴らしい世界に祝福を! 9話 「この素晴らしい店に祝福を!」

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脚本:朱白あおい 絵コンテ:亜嵐墨石 演出:久保太郎 総作画監督菊田幸一 作画監督:中澤勇一、木下ゆうき、清水勝祐

 

骨盤周りの肉づけと駆動が変態過ぎます。一々股間に手を当てる。身体を撫で回す。まるでなにもつけてないかのように胸が揺れる。その全てが本作の醍醐味です。ただ性欲にひた走りながら観るのも善し、菊田さんの作画を堪能して観るのも善しで、こんなにも観返し涯のある挿話も中々ないのではないかと思います。影づけ、線の妙味もあり、性欲、食欲に加え作画欲まで満たされるまさに至極の挿話だと思います。出来れば二期もこんなノリでお願いしたいところですが、果たして。

 


 

GO!プリンセスプリキュア 48話 「迫る絶望…!絶体絶命のプリンセス!」

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脚本:香村純子 コンテ:佐々木憲世 演出:岩井隆央 作画監督:渡邊巧大

 

プリキュア最後の闘いの前哨を描いた本話ですが、作画監督である渡邊巧大さんの魅力が存分に引き出された回になっていたと思います。瞳がくりっとしていて、睫毛部分の線が太く非常に可愛らしい表情のデザイン。最近だとタイガーマスクW4話(これも候補でした)でその良さが存分に生かされていました。アクションも凄いんですが、どちらかと言えば表情寄りの作画が素晴らしく、最終戦を前に控えたはるかたちや絶望へ必死に抵抗するゆいたちの決意を克明に描いてくれました。演出的にも敵幹部であったシャットが抱く葛藤の見せ方が本当に巧く、カットバック的に逐一彼の表情が差し込まれるので凄く緊張感があります。寝返るシャット。観ていると自然に彼への愛が強まるのもこの回の強みですね。

 


 

ポケットモンスターXY&Z 16話 「マスタークラスの試練! どうするセレナ!?」

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脚本:面出明美 絵コンテ:高橋知也 演出:高橋知也 作画監督:松田真路 作画監督補佐:松永香苗小山知洋

 

マスタークラスを賭けた最後の闘いに挑むセレナの渾身のパフォーマンスが力強いアニメーションで表現された素晴らしい回。Aパートでは特に競技前の緊張感が描かれていましたが、彼女の優しさ溢れるポケモンとの触れ合いに身を浸していると、Bパートからは怒涛の演技。躍動感溢れるステップシークエンスを回り込み風に描き、さらにその周囲をポケモンが駆け回るというハイカロリーな作画を素晴らしいクオリティで実現しています。感動の余り呆然と見蕩れ涙を目尻に溜めながら観ていましたし、私にとって作画で感動するってこういうことでもあるんです。彼女たちの最高のパフォーマンスに応えるため最高のリソースを割く。エフェクトの活力。縦横無尽のカメラワーク。その後はただただ演技に魅了されていたような気がします。序盤、ヤンチャムが金田ポーズっぽいのをやるのも自然と涙を誘ったり。試合後の見せ方、構図、撮影処理なんかも凄く良かったですね。

 


 

キズナイーバー 7話 「七分の一の痛みの、そのまた七倍の正体に触れる戦い」

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脚本:岡田麿里 コンテ:宮島善博、小林寛 演出:宮島善博 作画監督長谷川哲也、岩崎将大

 

本作の登場人物である牧穂乃果に焦点を当てた、旧友との回想劇と彼女のこれからを巧みな演出で力強く描いた傑作回。決して心だけで通じ合うことは出来ないのだということを訴えた本作にあって、「それでも私たちはきっと何処かで繋がっているのだ」という希望的観測にも似た言葉を投げ掛けてくれた辺りは鋭く胸に突き刺さりました。傘や雨、眼鏡といったモチーフを使い示唆的に彼女の閉塞性や心の弱さを描いてくれたのも、とても情感に訴えかけるものがあり良かったと思います。分割、フレーム内フレーム、影分断など彼女たちの心情にリンクさせようとする演出も冴え渡り、コンテ段階での作り込みも伺える強さがありました。繊細なタッチの作画も相まり非常にエモーショナル。最後には背動まで。本当に感情的で凄まじい挿話です。

参考記事:赤い傘、心の壁、牧穂乃果曰く / 『キズナイーバー』 7話 - Parad_ism

 


 

アイカツスターズ! 35話  「選ばれし星たち」

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脚本:柿原優子 コンテ:米田光宏 演出:米田光宏 作画監督:三橋桜子

 

自分自身の行方に悩みを抱えていたゆめの心情を追った素晴らしい挿話。この話単体ではまだゆめの決心に区切りはつきませんが、彼女の強い想いと、彼女を支える人たちの強い願いが映像として鮮明に表現されていて何度観ても涙腺を刺激されます。海辺でのローラとのやり取りも大変素晴らしいです。余りにも美しい横構図からの想定線越えなど、米田光宏さんらしい今話の感傷的な演出は氏が担当されたその他のゆめ回(どれも傑作回)を凌ぐ凄まじい極まりっぷりだったと思います。序盤からレイアウトも凄い切れ切れで、観ていると嬉しさと苦しさの混じった溜息がつい口を突いてしまいます。虹野ゆめに米田光宏あり。スタッフ的にその辺りは以降も引き続き気にしながら観ていきたいところです。

 


 

フリップフラッパーズ 6話 「ピュアプレイ」

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脚本:綾奈ゆにこ コンテ:立川譲 演出:博史池畠 作画監督:田中志穂、鶴窪久子

 

心象世界を描くかのようなピュアイリュージョンの最たる表現。色合いを活かし幻想的な空間を創り上げるのは以前の話でもやっていましたが、それらを生かした二極の感情表現は非常に切実な心の変遷を描き切っていたように思います。誰の心象風景なのかというのを最後まで直接的に描かないのも叙述的で胸に迫るものがあります。苦しい世界の中になんらかの希望を見出す立川さんのドラマチックな見せ方と、それを受け最大限の表現を追求してくれた池畠さんのタッグにより最高のフィルムになったのではと思います。立川譲さんコンテ回と分かった上でこの挿話を観ると、SAO7話を思い出すところなんかもあったりして懐かしいです。

 


 

バーナード嬢曰く。 9話 「バス停」

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シナリオ:内堀優一 コンテ:空久保美貴 演出:空久保美貴 作画監督:なつのはむと

 

読書家あるあると自虐ネタを構成の軸としていた本作ですが、ここにきて急速にフィルムを感情に寄せてきたことにまず驚きました。寒風に靡く髪とマフラー、スカートのプリーツ。悴んだ指先からはどこか孤独さとアンニュイな雰囲気が漂い、文学少女のステレオタイプ的なシルエットをそこに強く浮かび上がらせてくれます。けれど、誰かと好きなことについて語らう時間の幸福もある。オタクであることに自覚的であるからこそ我々は自分の世界に浸り、時にその世界について良き友人と言葉を交し合うのです。馴れ合いでもなければ、付き合いでもない。好きなことについてあなたと話す時間が楽しいから。そのことを改めてこの挿話には教えてもらったような気がしています。

 


 

舟を編む 6話 「共振」

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脚本:根元歳三 コンテ:長屋誠志郎 演出:長屋誠志郎 作画監督:浅野直之

 

徹底した仕草、感情芝居にエモーショナルなカット。存在感の強いレイアウト。全てが高次元で噛み合ったまさに本年度最高峰の挿話です。言葉に対し真摯に向き合う馬締と、その直向きさが宿る恋文に彼の誠実さを感じ取った香具矢さんが出した応えには涙が止め処なく零れてしまいました。同僚の西岡が初めて周囲に見せた感情の起伏、希少な香具矢さんの茶目っ気ある赤面など、表情を含めた彼らの一挙手一投足からはもはや一秒すらも目を離すことができません。それこそアバン、エンディングへの入り方まで含めこれ程までに感動したのは、これまで生きてきた中でもそう多くはないでしょう。まさに年に何度出会えるかどうか。生涯語り継いでいきたい名話です。

 

また本話を担当された長屋さんは同じく同作で活躍されていた稲津辰宣さんと同時期に数年前原画デビューされた方。監督の黒柳トシマサさんの監修も入ってはいるのでしょうが、それにしても長屋さんの担当された回は総じて素晴らしい挿話ばかりでした。以降、注目していきたい方筆頭です。

参考記事:『舟を編む』6話の芝居と共振 - Parad_ism

 


 

響け!ユーフォニアム2 10話 「ほうかごオブリガート

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脚本:花田十輝 コンテ:山村卓也 演出:山村卓也 作画監督池田和美

 

久美子の姉である麻美子とのやり取り、あすか先輩に向け投げ掛けられた熱の込もる言葉。黒沢さんの演技もさることながら、久美子たちの感情や言葉を出来るだけ強く相手に伝えられるよう下支えされた演出とカメラワークが本当に秀逸で、その余りに強烈な情感の持っていき方と秀麗な映像美にただただ私は涙を流すことしか出来ませんでした。モチーフを巧みに使いつつ、全てを開放的に語る訳ではない京都アニメーションらしいフィルム。劇的な撮影の効果も相まって、非常にセンチな心持ちになってしまいます。色々な経験を積んできたからこそ姉の感情が伝わる。姉との話があったからあすか先輩に語り掛けることが出来る。全てがシームレスに繋がっている辺りも感動に拍車を掛けているように思います。並ぶユーフォニアムと反射光のラストカットも感慨深く素敵です。私にとっても生涯忘れることの出来ない挿話となったように感じています。

参考記事:『響け!ユーフォニアム2』10話 心の屋根とカメラワーク、そして零れ出す感情の光 - Parad_ism

 

 

 

以上が、本年度選出した挿話になります。

 

出来れば『ジョーカー・ゲーム』5話、『灼熱の卓球娘』10話、『Re:ゼロから始める異世界生活』18話などは入れたかったのですが、仕方ないですね。他にも今回選出できなかった挿話はたくさんありますし、諸事情により上半期は余り多くは観れていないのですが、それでも非常に充実したアニメライフを今年も送れたように感じています。ですので、毎年のことながら今回の選出にも十分満足していますし、今年も一年、素敵な作品にたくさん出会え関わった方々には心から感謝しております。本当にありがとうございました。来年もたくさんの素敵なアニメとの出会いがあることを願って。健やかなアニメライフを送っていきたいなと思います。

『響け!ユーフォニアム2』10話 心の屋根とカメラワーク、そして零れ出す感情の光

あすか先輩と久美子のやり取りを描いたBパート。本編全てが素晴らしかった今回の挿話でしたが、ことここのシーンに関しては観ているだけで震えが止まらず、久美子が泣き出すのと同じくらいから私も堰を切ったように泣いてしまいました。もちろん、力の込もる演者さんの熱演、キャラクターの表情、仕草といったその全てが凄かったわけなんですけど、特に私が素晴らしいと感じたのは一連のシーンのカメラワークと光源、そしてこの渡り廊下に架かっていた屋根の使い方で、この辺りはいかに映像表現においてレイアウトが大切なのかということを如実に物語っていたのではと思います。

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 この辺のカットを観てもそうですが、このシーンにおいてはとにかく影と光を強く意識していて、終始顔や身体に影が掛かるレイアウトが使われています。特にあすか先輩が「答えはNO」と言ってからの一連の表情には、彼女たちの心を移したような影がぱっきりと掛けられていくのでとても印象的です。また、この時のあすか先輩から見て右手、校舎側から見て左手に光源(太陽)があるのを意識して、その逆側からカメラで二人を捉えるカットがこのシーンには非常に多いです。そして基本は彼女たちのアイレベルに準拠したようなカットや、俯瞰気味のカットが使われます。煽り気味のカットは少なく、且つ使ったとしても光が入らないようなレイアウトにしているように思えます。

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ここも俯瞰と久美子のアイレベル。影がきっちり表情に掛かります。また光源から逆側にカメラを置き意図的に光を遮っているように見えます。

 

おそらくですが、煽りのカットが少ないのは屋根を障壁として、敢えて光を遮るためなのだと思います。つまりここでの屋根の役割は、あすか先輩と久美子、二人の心の陰りを象徴的に描くところにあったのではないかということです。それこそ二人の関係は前話の段階で大分緩和されていたように思えます。しかし、解決するまでには至っておらず、だからこそ彼女たちはまだ陽の光の当たる場所へは行くことが出来ず、いまだ心にわだかまりを抱えたままになっていたのでしょう。自分の想いをちゃんと打ち明けられなかった久美子と、自分の意思をちゃんと示すことが出来なかったあすか。二人に掛かる影の境界はまさにそんな彼女たちの揺らぎを示していたのかも知れません。

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 この辺りもそう。しっかり屋根の位置(心の聲)を意識して影を掛ける。煽りにしても光は遮る。レイアウトに拘る。感情に合わせフィルムを繋げる。青春の惑い。悲鳴。感情。それらをしっかり映してくれるからこそ、この作品は青春の代名詞足る様相を我々に強く刻み込んでくれるのだと思います。

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 しかし、あすか先輩が立ち去るカットからカメラワークは一転します。フラッシュバック的に紡がれる映像は久美子がこれまで抱いてきた“想い”を映しながら、決して光を遮ろうとはせず、ありのままの彼女を撮り始めるのです。

 

これまで触れてきた数々の想いと、一番近くで苦しんでいたはずの姉が零した幾つもの言葉。「素直に言えばよかった」「後悔のないように」。きっと久美子は親しい人、憧れの人の傷つく姿や後悔する姿をもう見たくなかったのだと思います。「私が(あすか先輩と)出たいんです」と言ったのもつまりはそういうことでしょう。もちろん、姉の様に自らが傷つく選択はして欲しくなかったのだと思いますし、それはあすか先輩のことを思っての行動でもあったはずです。けれど、姉の言葉を聞いて辛く思ったのはきっと久美子も同じだったはず。寂しさだけじゃない。未来を悲観したわけじゃない。電車に揺られながら、過去の自分たちを想い返し流した涙はきっとそうした彼女のあらゆる感情から溢れ出したものに違いありません。

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そこからはもう怒涛のカッティングです。少しずつ屋根から顔を覗かせるようにカメラが動く。感情が解放されていく。光が差し込み、零れだす。もはや彼女を遮るものはなにもありませんでした。あとはただその言葉をぶつけていくだけ。ひたすらに『響け!』と想いを込めぶつかっていくだけ。矢継ぎ早に紡がれたカットの数々も、そんな彼女の必死の抵抗を後押しするためのものだったのではないかと思います。

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そして、そんな久美子の声に応えるようにあすか先輩の表情からも影が消える。光量を多く入れることで、あすか先輩の感情とフィルムの明度がリンクしていく。まただからこそ、カメラが二人の周囲を回り込み、想定線さえも超えることができる。光源の方向にカメラを置き、二人からぐんと位置をとることで、屋根の存在をものともしないレイアウトが生まれる。

 

心の屋根とカメラワーク。そして、画面から溢れる感情の光。これはもう演出の業であり、力だと思います。またそれに負けない黒沢さん、寿さんの素晴らしい熱演と、繊細な光源に対する撮影コントロール。芝居と表情の繊細な作画。その全てが渾然一体となって返ってくる。もう何度観返しても溜息が出てしまいます。

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 けれど、そうした感情的のフィルムに反し、あすか先輩の涙は決して見せないのが本話の拘りでもあったのでしょう。なぜなら、ここは彼女のゴールではないからです。全国の舞台。お父さんが待つステージ。全てを清算するのはきっと“その場所で”なのだと思います。また、だからこそ田中あすかは再び“この場所”から次の曲を奏で始めていくのでしょうし、これまでもそうだったように、そうして「最後までいっぱい頑張ってから」なにかを清算しようとする人を本作は決して見捨てないはずです。だからこそ、私も彼女のこれからを精一杯見守っていきたいと思います。最後まで諦めない田中あすかの雄姿を見届けるために。最後は本作恒例の楽器と反射光で締め。まるで輝く二つのユーフォニアムが呼応しているかのようで、なんだか眺めているだけで嬉しくなれるカットだなぁと感じます。*1

 

Aパートの麻美子との話も含め、本当に素晴らしい挿話でした。コンテ演出は山村卓也さん。関わった全ての方含め、素敵なエピソードを本当にありがとうございました。

*1:響け!ユーフォニアム』のモチーフ的な演出として「当事者の想いが確固たるものとなった時、手にしている楽器に光が反射し、輝いて見える」といったものが散見されます。これもその一貫的な演出としてここでは解釈しています。

『舟を編む』6話の芝居と共振

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序盤からのエモーショナルなカット。この辺りのシーンで既に身体は前のめり気味になっていたんですが、以降描かれる各登人物たちの芝居、そこに込められていたであろう様々な感情からは、動きの繊細さや動かすことへの熱意といった幾つもの感動を強く感じることができたように思います。

 

それこそ神は細部に宿るなんて物言いもしますけど、アニメの場合、感情は細部にこそ強烈に宿るというか。もちろん、それはレイアウトや画面の質感なども同様で、あらゆる細部への気配りと情熱がこの素晴らしいフィルムを生み出しているのだと思うと、それだけでなんだか込み上げてくるものがあります。

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Aパートは特に西岡への芝居づけに心を打たれました。内に秘めるものを曝け出すタイプでもない彼は常にお道化ていたような印象で、一人になった時にようやくそれを表に出せる部分もあったのだとは思いますが、そうした性格とは正反対の表情をこの回ではやっと人前で曝け出してくれたように思います。悔しさに歪む表情筋の微弱な動き。我慢できずに力が籠る握り拳。その全てが今の彼の感情を代弁しているようで非常に切ないシーンです。馬締や周囲の熱意に自身の感情がシンクロしつつあったのはこの挿話以前においても徐々に描かれてはいましたが、こうも彼が表立って悔しがるのは初めてのことだったのではないかと思います。

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現状を突きつけられ落ち込む、というくだりにも俯かせるだけでは決して終わらず、その仕草の合間に色々な表情を入れていて感情に幅があります。核心を突かれたような表情に、悔しがる表情。奥歯を噛みグッと顎に力が入る。一連の全てが感情的な仕草なのだと伝わってきます。落ち込んでいることを伝えたいだけならここまでの芝居づけをする必要はありませんが、この時の彼が抱いていた感情は決してそれだけではありませんでした。だからこそ、ここでは彼のこうした表情を描くことがやはり必要だったはずで、そのためならばと作画的なカロリー消費を惜しまずここまでやるのは本当に凄いことだと思います。テレビシリーズという色々な制約がある条件下の中でそれでもキャラクターの感情を優先するためにここまでやるその心は、もはや熱意としか呼ぶことが出来ないでしょう。

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またBパート以降。渦中の馬締もこの辺りになると自身の恋愛と仕事の先行きの不安からかなり気怠さの強いカット、黄昏るようなレイアウトが増えていきます。言葉の海に飲まれていくシーンは一話でも同じようなことをやっていて比較的幻想的なイメージ。それもグッとくる見せ方ではあるんですが、以降彼が部屋に戻ってからの芝居づけなんかは私情に対する気の重さなんかが強めに表現されていて凄く良かったと思います。

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辞書を読み耽る様、手先の動きとその表情を観ていても彼と言う一人の人間の繊細さが読み取れるようで素晴らしいです。そしてそれは、後に香具矢さんが語る彼の“丁寧さ”にも必然と繋がるものであったのだと思います。

 

彼女が読んで「心が込もっていた」と感じた恋文。辞書を優しく扱う手先。文字に対する真摯さと、撫でるよう、傷つけないように動かされる指先の軌跡。その全ては馬締の持つ“丁寧さ”を筆頭とした側面を繊細に捉えていたのでしょう。まただからこそこの時、私たちは彼の書いた恋文の一遍しか知ることが出来ていない状況にも関わらず、それがどれだけ心込もる手紙であったのかということを肌で感じ取ることができるのだと思います。彼の文字に対する姿勢と言動。またそれを縁の下として支えた芝居の“丁寧さ”。全ては彼の人物像にしっかりと繋がっていたはずです。

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カメラが上部に向けじっくりパンしていく大判の絵でも彼の感情を乗せるため、また彼を彼らしく描くためにその手は丁寧に動かす。ラストカットでも数ミリ単位で指先を動かすことで、文字に寄せられた彼の感情に芝居をリンクさせる。なにもかもが物語に、感情に同期していく。そうした芝居の数々が本当に素晴らしいんです。アニメの中で描かれる動きや、日常的な芝居を「好きだ」と感じたあの頃の気持ちを強く今に思い出させてくれるというか。ああ、いいなって。好きだなって。なにより、こうした芝居から見える感情の片鱗に触れる度に「彼らのことをもっと知りたい」とそんな風に強く思える瞬間が確かにあるんです。

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それこそ、今回のサブタイトルは『共振』でした。意味は「心や行動が相手と反応し合って同じようになること」だそうですが、それは本話に限らず本作の徹底した芝居作画にも端的に当て嵌めることの出来る、本作における一つの大きな主題でもあるのではないかと感じました。

 

“登場人物たちの感情や性格と芝居(作画)が反応し合い、一体となって一人の人物像を描き出すこと”。それは紛れもなく、本作が描く“共振”であったからです。終盤における香具矢さんの芝居も同様でしょう。馬締から渡された手紙を大切そうに撫でる指先。彼との想い出を語る時の表情の変化。手の芝居。恋愛的な感情は抜きにしても、そこにあったのは偽りのない彼への好意であり、彼女の人柄そのものでした。また逆説的に言えば、そうした内面的な部分をもしっかりと表現するために繊細な芝居を丁寧に描くのだと思いますし、むしろそうした彼らに対する寄り添い方こそがこの作品をより素晴らしいものに導いてくれているのだと思います。

 

感情と芝居の共振。物語と映像の共振。それこそレイアウトやコンテワークの良さ、時間経過に対する風景ごとの質感(例えば朝・夕・夜などの質感の違い)とその美しさはそれぞれのセクションにおける尽力故の賜物でもあるはずです。そういう意味では、そもそもとして本作の映像そのものが、携わるスタッフによる高いレベルでの共振による集積そのものだとも言えるのかも知れません。また素晴らしかった二話に引き続きコンテ演出を担当されたのは長屋誠志郎さんでした。まるで芝居(作画陣)を信用し切ったようなレイアウトや全体的なテンポも大変良く、月や月光を意識的にモチーフとした香具矢さん周りの演出も含め引きのショットの威力などは氏の巧さもあるのかなと感じられます。

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余談ですが、この辺りの芝居の使い分けには凄く感動しました。ほぼ同じレイアウトで芝居のみを使い感情の落差を表現する。戸を閉める速度。力の入れ加減。正座をするまでのタイミング。こういうのを観ると、ああやっぱり芝居って感情でもあるんだと思い知らされてしまいますね。