石浜さんのオープニングやエンディングの見せ方・演出に関してなにかしら書いている方は多いと思いますが、自分の中でも定期的に印象をアップデートしておきたい気持ちが強かったので今回備忘録も兼ねて書くことにしました。特に今期では『GRANBLUE FANTASY The Animation』『冴えない彼女の育てかた♭』のオープニングアニメーションを担当されていて、その二つの作品を観ているだけでも色々と気づく点が多かったです。
ロゴの多彩さ、作品とのイメージの合致、モチーフ、デザイン性の強い映像など特色を挙げれば切がないことが石浜さんの映像の魅力ですが、その中の一つにシルエットを使った画面構成の巧さはやはり含まれると思います。謎を覆い隠すような印象、エモーショナルな印象、そのどちらをも含む場合もあればビジュアル的に格好良いというのももちろんあります。ワンカットに力強さと格好良さが同居するのは石浜さんの映像における醍醐味でもありますが、こういったジャケット的とも言える構成のカットはやはりそう思える大きな要因になっています。
同じくタイポグラフィ的な巧さ、クレジットの置き方の格好良さは今回の映像を観ても一入です。『N・H・Kにようこそ!』や『R.O.D - READ OR DIE -』から端を発するような格段にデザイン性の強いものもありますが、どうすれば映像の一部としてクレジットを取り込むことが出来るか、という点に関して言えばこれらの作品もその流れを汲んでいるのだろうと思います。シルエット同様、以前から使われている表現ではありますが、その秀逸さに改めて気づかされる洗練さが今回の二作には盛り込まれていました。*1
『冴えない彼女の育てかた♭』に関して言えば写真を切り張りしたような見せ方も二期らしい雰囲気があってよかったです。なにより石浜さんの映像は個々の登場人物が持つ物語への寄せ方が上手い、という印象が常にあります。カット的な重さを軽減するためという意味合いもあるのかも知れませんが、一人一人をワンカットで捉えていくのは非常に作風に合っていて上手いです。グラブルの方もそうでしたが、個々の物語を大切にするというのはそれぞれが抱くパーソナルな部分に必ず寄与していきます。もちろんオープニングなので詳細には描かれませんが、ある程度余白があった方が想像も膨らむ。むしろ想像の余地を残してくれる、というのは観ていて色々考えられるので非常に楽しいですし、内面を切り拓いていけるからこそ感情的なポイントにもなり得るはずです。
またカッティング時にオーバーラップをするのもそれと同じなのだと思います。石浜さんはこの繋ぎ方をよく使っていると思いますが、そこに物語へリンクするような意図があるにせよないにせよ、カットが重なるというのは非常に意味深で、謎めいて見えます。フラッシュバックのようにも見えますし、前後の関連性があるのではとつい感じてしまう面白さがあるということです。つまりは想像の余地がある。動的な快楽ももちろんですが、それとはまた別の映像を考える楽しみができるからこそ何度も観返したくなるのだと思います。それは多分意図的で、そういったトリックの仕掛け方も石浜さんは凄く巧いのだと思います。
『N・H・Kにようこそ!』のようなトランジションもよく使われることが多いです。『Aチャンネル』『ヤマノススメ セカンドシーズン』などはその系譜の素晴らしいフィルムですし、ポップな曲調と映像を噛み合わせる時の特色的な手法なんだろうと思います。ですがドライヴ感のある曲やダークな曲調ではやはり後者の方が合うように感じられますし、むしろそういった形でどんな主題歌・作風にも “らしさ” を合わせることが出来るのが、石浜さんの強みなのでしょう。もちろん、どちらがということはありません。そのどちらも使いこなせることが石浜真史の作家性そのものであり、魅力なのだと思います。*2
さらにドライヴ感のある映像に着目すると、そういった快感を助長している見せ方としては前後に置いたブックをスライドさせてカメラを平行に動かすように見せるものが挙げられます。上下・左右の運動どのパターンもありますが、回り込み風に見えるよう巧みな仕掛けをしているものもあって多彩です。都会・ビル群・フェンス等を活用することが多い印象ですが、どれもそれぞれの作品を意識している感じがあります。『Occultic;Nine』の非常階段を使ったものは、陽の遮りを見え隠れする世界と同期させている感じがして好きです。それぞれ作風に合ったモチーフを選んでいるのだろうと思います。
これらも回り込み風のカット。実際回り込みを作画でするとかなり重いカットになってしまいますが、それを演出面でカバーする。そしてそれが非常にエモーショナル且つ、躍動的に見える。特に『冴えない彼女の育てかた♭』のカットは前後の草木をスライドさせ回り込むことで走る人物の前に青空を広げる、という非常に鮮烈で青春的なイメージを想起しやすいカットになっています。青春群像劇である作品だからこそ、より個々の登場人物にスポットをあてることが大切になるのだと思いますし、そういったところを絶対に外さないセンスと物語への寄り添い方は本当に素晴らしいです。
また近年では珍しかった石浜さんコンテ演出回*3、『四月は君の嘘』5話。ここでもオープニングやエンディングでよく使われていたスライドの回り込み風カットが使われています。物凄く面白いカットですが、シリアスなシーンと相まって不思議な感覚になります。人物もスライドさせることで距離を出し、強い回り込みのイメージを与えてくれます。そしてその距離感が心の不安に繋がる、という場面でもあるのだと思います。「目が曇ってる」と伝える友人のカットではズームとスライドが重なりより核心に迫るイメージ。他にもこの回は演出・作画的にすごい回で印象深いです。
参考記事 : 『四月は君の嘘』5話の演出を語る - OTACTURE
瞳のアップ、または瞳だけを画面に浮かび上がらせるようながカット多いのもよく見掛けますが、こういうぎろっと視線を変えるような瞳の動きは演出でコントロールしているのでしょうか。
また、瞳が多く描かれるというのはそれだけ視線的なものを表現しようととしているからだと言い換えることは出来るように思えます。なぜなら、前述してきたように石浜さんは物語や作風へ映像を寄せる感性が非常に優れている方だからです。そしてそれは誰が誰を見つめているのか、何を見ているのか、その目に世界はどう映っているのかということをきちんと捉えてあげることにまで繋がっていくはずです。もちろん絵的に格好良いという理由で使っている場面もあるのだとは思いますが、ああいった物語や感情を映す鏡のような瞳をフィルムに乗せられる演出家の方がそれだけの理由で一つのモチーフをあそこまで多用するとはなかなか思えません。
例えばこういうカット。ここまで来ると瞳がどうこう言うより、瞳を中心に据えた表情やレイアウトといった感じですが、これらのカットは非常に物語的だと感じます。なにを考え、なにを想っているのか。その辺りに探りを入れたくなるカットですし、感情的です。先程挙げたものとは少し遠い所にあるかも知れませんが、個人的にはこういったものも含めて石浜さんの瞳のアップショット、という感覚があります。特に恵のカットはフレーム内フレームでトリミングされてる感じがあるので、余り二つのカットに意味合い的な差は感じません。*4
ただまあ、その辺りはまだ自分の中でも整理し切れてない部分があるので、もう少し整理しておきたいです。あとは相変わらず主題歌の音や歌詞の捉え方・解釈の仕方は抜群に面白いですし巧いですね。音と映像がセットで頭の中に入ってくるので本当に観ていて楽しいです。そしてその映像はこういった細かな見せ方・演出の集積であることが今回書いていて改めて気づけたことの一つでした。一つ一つの表現を観ていっても楽しいですが、やはりそれらが合わさった時の快感は凄いです。その他にも色々思うところはありましたが、それも纏まったらいつか。今回も余り上手く纏められませんでしたが…。とりあえずそんなところで。これからも石浜さんが手掛けるオープニングやエンディング、楽しみにしています。
以下、石浜真史さん関連の参考記事
石浜真史のオープニング・エンディングのメモ - あしもとに水色宇宙
映像のマジシャン石浜真史 ― 『ヤマノススメ』 への系譜 - Paradism
アニメOP演出試論 ―映像が刻むビート― 中編 - OTACTURE
*1:『冴えない彼女の育てかた』には参加されていないようですが、テロップデザインやその周辺の巧さに関しては長年タッグを組んでいる森崎貞さんの影響も大きいのだと思います。
*2:オーバーラップが使われる演出は石浜さんが担当していない他OP・ED・本編通してもよく見られますが、ここでは文章の流れを考え敢えて石浜さんの特色としています。もちろん、そう感じたことに偽りはありませんが、石浜さんに限った演出手法では決してないことを注釈します。
*3:演出は小島崇史さんとの共同
*4:画面前景の蔓のようなものとテロップで左上部を囲うことで恵の表情に視線誘導している印象があります。それをここではフレーム内フレーム、画面構成でのトリミングと呼称しています。