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『小林さんちのメイドラゴン』1話の演出と武本康弘さんについて

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ドラゴンの少女トールが小林さんの家に訪問してからの一連シークエンス。上手側に小林さんを置くことで物語は彼女を主体に据えるところから始まります。つまりトールを自分の家で雇うかどうかの選択によってこの物語は始まっていくといことです。逆にトールが下手側に立つことで彼女が小林さんにとっての試練であるかのような印象も受けます。扉が上手く被さる(少し家を出たところで止まっている)ことで、自身のパーソナルエリアを守るようなイメージも合わさり、彼女の来訪が小林さんにとっていかに突飛であったかという部分が強調されているようで面白いです。自宅に入ってからもどこか視線を外したりと芝居が丁寧。

 

小林さんが「無理なものは無理」と断ってからの見せ方も凄く良くて、天候がガラッと変ったかのように室内の明度・彩度を落として、陰影でキャラクターの感情やその場の雰囲気を表現する(画面をアンニュイにする)のは武本さんらしくもあり、また演出である藤田さんの力もしっかりと加味されている感じがしました。

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目を見張るのはトールの去り際のカットバック。小林さんの「このままでいいのか」という感情のほつれと緊張感が目一杯滲み出ていました。スローも合わせて遣うことでより迷いが浮き彫りになり、非常に感情に寄せたフィルムだと思います。

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一番グッときたのはここでした。アバンでの立ち位置の逆転が起こります。今度はトールが物語の主体となり、小林さんの願いを受けるかどうかの選択を委ねられるわけですが、答えはもちろん決まっていましたね。回転するハイライトも含めこの辺りのシークエンスは非常に緻密に練られた演出という感じで感動させられました。もちろん、小林さんにとっても先が見えない選択で最初に断った時も心苦しい部分はあったのだと思いますが、“相手にも心がある”ということを改めて突き付けられることで彼女の感情が揺らぐ(そこにグッとスポットを当てる)というのは、非常に力強い“京都アニメーションらしさ”だなと感じさせられます。

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以降は終始、下手が小林さん、上手がトールの構図で描かれていたと思います。メイドの教育を受けるトールが常に学ぶ側に立つというか、物語の主体的な意味で言えば彼女が小林さんの日常に踏み込んだ側になっているということです。もちろん、その他多くのカットを同様の位置関係にしていることの全てに上下(かみしも)の意味合いが込められているわけではないのかも知れませんが、この序盤や終盤、二人が就寝につく辺りのシーンにまでことが及んでいるのを観ると、この一話においてはかなりそういった二人の関係性を意識しながら画面を構築していたのではないかと感じます。

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OPでもその辺りへの意識は垣間見ることができました。上手側から小林さんを望むトール。小林さんを懸命に追い掛ける彼女のひた向きさ、実直さが伺えて一番好きなカットです。またここもカットバックで描かれていて、武本さんはカットバックで見せるのが結構好きなのかなとちょっと思ってしまいました。以下例。

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甘城ブリリアントパーク』一話。コンテ演出武本康弘。監督も務めているこの作品ですが、ここは感情的というよりは緊迫感のあるシーンです。カットバックの王道的な遣い方という感じがします。

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『日常』八話。コンテ演出。マルチエピソード型の作品ですが、短編としてこういう話も盛り込んでくる。エレベーターに閉じ込められる話です。フレーム内フレームで区切るのも話の内容そのままに閉鎖感があって非常に面白いんですが、ここでもこういう演出を遣うことで凄いコメディ寄りの映像になっていて、こういうパターンもあるのかという気持ちになります。じわじわ寄っていきながら交互に見せていくのが効いてますね。カットバックも色々だなとはっとさせられます。

 

小林さんちのメイドラゴン』の話に戻りますが、もう一つ良いなと感じたのは家族を見守るような温かい視線の存在でした。この作品に“京都アニメーションらしい家族観”を感じたのもそれが一番大きな要因です。特にAパートや、Bパートの終わり際。それぞれ小林さんが帰宅した場面のカットと、二人が就寝する前後の締めカットですが、一気にカメラが引きロングショットになっています。そこにはどこか二人が暮らす場所を遠くから見守るような視線があり、特にBパートのBG(背景)カットの連続は話の締め方としてとても良かったなと感じました。

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憶測ですが、小林さんが住むマンション、近場の交差点(T字路?)、さらに離れた場所、上空からの俯瞰という順番でしょうか。どんどんカメラが彼女たちから離れていくのが分かります。最終的にブラックアウトして終わっていくのも合わさり、二人の眠りに合わせるよう、まるで映像そのものが眠りにつくような印象さえありました。見守る視線というのも非常に抽象的かなとは思いますが、ようは二人の関係を邪魔しないようにそっとその暮らしを覗いている感じ、とでも言えばいいのでしょうか。もちろん、コメディ色の強い作品ではありましたが、ふとした瞬間に感情に寄り添うようなコンテワーク・演出はこの物語に対し非常に感情的で情緒のある視点を与えているのではないかと思います。

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同様の見せ方では『らき☆すた』六話(武本監督、コンテ演出回)などが同じ演出を用いています。BG・登場人物たちとは関わりのない風景による雰囲気の切り替え。それまで騒がしかった登場人物たちの喧騒を搔き消すような遣われ方で、この辺りは直近の京都アニメーション作品である『響け!ユーフォニアム』などでもよく遣われていた印象があります。それも場面の転換点にワンカットだけ風景を挟んだりするのは色々な作品でよく見られる手法だとは思うのですが、小林さん一話のものも含め4カット連続のBGで雰囲気を作る、というのは中々ないのではないかなとも感じました。ただ、それこそこういった見せ方に関しては、先程挙げたように他の京アニ作品でも見られましたから、武本さんがどうこうと言うよりは京アニ的な映像運びに帰するものの方が大きいような気はしています。

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また作品的には被写界深度を浅めにそれぞれの登場人物の物語(画面)に焦点を当てていた作品群とは少し違い、どちらかと言えば『らき☆すた』や『日常』のようなコメディ寄りのテンポと映像の見せ方をしているなという印象がありました。それこそ女性同士の、現状では恋愛には発展しなさそうな雰囲気を眺めていると同監督の『らき☆すた』はやはり脳裏を掠めますし、今回のようなコメディからアットホームへの流れを鑑みれば、武本さんが担当された『日常』十六話に収録されている「ゆっこが東雲家に行く話」などはやはり連想してしまいます。奇しくもあれは“ロボットと少女の心が通う話”。ああいう話は本当に好きなので、以降の話でも是非色々やってくれればいいなと思います。

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余談ですが、武本さんの担当された回を観返していくとこういった広角のレイアウトや、面白いレイアウト・構図が多く見られます。監督をされている『氷菓』の一話もそうですし、特に『AIR』三話はかなり凄いので、おすすめです。今作でも、こういった格好良いレイアウトに出会えるでしょうか。武本さんが監督をやっているので担当回は一話以降なかなか出て来ないとは思いますが、期待しながら観ていきたいところです。