『夏 ここなの8/31』の広角・魚眼レンズと狭さについて

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ヤマノススメ おもいでプレゼント』present1はここなとお母さんの話でしたが、まず驚いたのは広角、魚眼レンズで映したような画面設計の多さでした。シリーズの中でも広角を意識していると思われるカットはあったと思いますが、一つの話数の中でここまで徹底していたのは初めてなのではないかと思います。理由は色々とあると思います。広い範囲を映すことが出来るので街並みや景観を映したいときは非常に良い絵になると思いますし、今回の話で言えば広い範囲を捉えた景色の中を小柄なここなが歩いていくことで、非常にエモーショナルな絵にもなっていたように思います。

 

少し似た話ではセカンドシーズン二十合目『ここなの飯能大冒険』がありましたが、あの話では広い景色を見せたいときはパンを使い、フレームを縦横にずらすことで景観を捉えていたと思います。比較的寄りも多く、フルやロングショットが多い印象のあったOVA版はその辺りも違った工夫があって面白かったですし、夏の質感とここなが手探りで新しい冒険に出かけている感じがよりOVAらしいリッチな雰囲気を滲ませていて、本当に素晴らしかったと思います。

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ですが、そうした散策時の画面の広さに反して、とてもコンパクトな画面設計だったのがお母さんと一緒に入浴をするシーンでした。もちろん、登場人物の家の中なので、広く撮る必要はないのだと思います。また言い方は余り良くないですがここなの家の狭さも広く撮れない理由の一因にはなっているはずです。しかしながら、その狭さこそが今回のラストシーンを非常に情感溢れるものにしてくれていたとも思うのです。前述したように今回は風景を広く撮ることへの拘りが前へ出ていたと思います。しかしそうした画面構図・レイアウトが前半で多く使われたからこそ、ここなにとって大切な母との時間、密接な距離感をそのミニマムな画面設計によってより際立たせることが出来ていたのではないかと感じたのです。小さな湯船の中で身を寄せ合う親子の風景。それを近い距離で、ぎゅっと包み込むように撮るレイアウト。広角・魚眼といった広い風景では出せない種類の情感や優しさがこのシーンとカットからは強く感じられます。

 

またこのお風呂のシーンはBD付属のコンテ・脚本を読むと山本監督のコンテ段階で足されたことが分かります。ト書きにもお風呂に関して「(コンテに描いたものより)もっと狭くして下さい」との記述が見られました。もちろん、山本監督の意図としてどこまで「狭く」を意識されていたのかは分かりません。ただ単にモデルとなったアパートやこれまでの設定を鑑みて、そう記述したのかも知れません。ですが、私はその狭さにとても強い物語と映像の親和性を感じました。お母さんとの思い出を巡ったあとの、私とお母さん、二人だけの時間。そんなちょっとした幸せな時間を凝縮したものがあのカットだったのではないかと。

 

「どこに居てもお母さんとの思い出がたくさんあるから。だから寂しくないよ、お父さん」あの狭くて、近い二人を映したカットはもしかすれば、そんなここなのモノローグで語られた “寂しさ” を掻き消す証左にもなり得ていたのかも知れません。本当に素敵なエピソードでした。

おもいでクリエイターズ

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