『このはな綺譚』 5話の距離感、演出について

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機織りの少女と柚の邂逅。そのファーストシーンに用いられた俯瞰のカットがとても印象的でした。小屋梁を挟み二人を描くことで、おそらくは関係性の断絶、もしくはその距離感の遠さを描いていたのだと思います。話としても、食事を摂らず機織りを続ける少女からは何者も近づけない印象が際立っていましたが、そうした見えない壁の存在をこのレイアウトはより強く印象づけていました。

 

雨と、鳴り続ける機織りの音。劇伴は余り使わず、全体的には暗めの処理が施され冷たい空気感が終始漂います。少女もまた顔を柚と合わせず、一点を見つめるため淡々と話が進んでいたのも印象的です。時折挟まれる機織りをする手元のカットがそうした一定のリズムをキープする役目も担っていたように思います。ですが、従来この作品がそうであったように柚が一歩彼女の居場所に足を踏み込もうとすると印象が少しずつ変化していきます。少女のためにとおにぎりを運ぶ柚。「頼んでない」と言い返されてはしまいますが、空いた襖の間に二人が収まるレイアウトからは少しだけ二人の距離感が縮まる兆しが見て取れます。この映像の中では彩度が高く描かれていた紫陽花の花がよりそんな二人の印象を明るく照らしてくれているようにさえ感じられます。

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それからは二人の距離感が縮まっていくのも早かったように思います。柚の少女に寄せる言葉の数々がその心を解したのでしょうし、それは映像としても表現されていたように思います。二人が向き合ったり、カメラが近い距離で二人を同じフレームに収めたり。序盤のようにフレーム内フレームで二人の距離感を遠ざけるようなことはせず、徐々に歩み寄っていく様を柔らかに変化する表情とレイアウトで描く巧さは、とても静かでありながらエモーショナルで、優しさに溢れていたと思います。

 

柚がお囃子を歌い、少女が機を織る。そうすると浮かぶ乱反射するような光もそんな二人を祝福するように描かれたものの一つであったはずです。出会いがあれば、不思議なことが起こる此花亭に相応しい演出。これまでも大切な瞬間には花が舞い、花が散り、淡い光が周囲を包み込んでいたように。撮影が映像と物語を支えてくれる、盛り上げてくれるのは『このはな綺譚』が併せ持つとても素敵な側面なのだと思います。

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そしてこれは今話にあった日本人形の話でも言えることですが、今回この作品が描いたのは誰かを笑顔にすること、その人の世界を色づけてあげることでした。だからこそ、それぞれの話の最後にあのような華やかな絵が差し込まれたのは、彼女たちの心情と映像が強くリンクした結果だと言い切れるはずです。自身に対する心無い言葉への回想、自身への卑下。そうした感情線が誰かの言葉を切っ掛けに上向きへと振れていく温かさに映像が包まれていく。色のない世界から、色づく世界へ。本当に優しい世界だなとつくづく思います。

 

最後は機織りの少女と柚の間に虹の橋が。距離を感じさせる絵から、距離なんてもうないんだと確信させてくれる絵へ変遷していくのがとても素敵です。コンテは2話でも素晴らしい演出をされていた助監督の高橋亨さん。演出処理は鈴木拓磨さん。高橋さんは以前、他作品でも俯瞰レイアウトで同様の距離感の出し方をされていたようですが、ああいったレイアウトで暗喩的に表現されるのを好んで使われているのかも知れません。鈴木拓磨さんは演出処理での仕事が多いですが『Re:CREATORS』18話など素晴らしい回を担当されています。今後注目していきたい方です。