藤原佳幸監督の演出・作家性について

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プラスティック・メモリーズ』13話。絵コンテ演出 藤原佳幸。握りあう手。肩を寄せ合う二人をバックショットで映す情感の厚さ。そんな二人をまるで祝福するように昇る陽の光は、まさに藤原佳幸監督らしい “時間と空間” や “キャラクターへの寄り添い方” を描き出していたと思います。

 

劇伴を排し、流れる時間のままに風景ごと二人を切り取る。感情的な芝居を添えながら、キャラクターたちが何を想い考えているのかということを提示してくれる。今月発売された『アニメージュ 12月号』でのインタビューでも藤原監督はしきりにキャラクターのことについて言及されていました。どう表情を見せればいいのか。どう心情を描けばいいのか。「静かな時間が流れて、緩やかにキャラクターたちがやり取りをするような作品」に触れて良さを感じたと語る藤原監督でしたが、まさにその延長線上にこういったシーンのイメージはあるのだと思います。上がった名前に並んだのは『ARIA』『ヨコハマ買い出し紀行*1。納得せざるを得ないといったラインナップ。どれも時間の流れや心情を大切にした作品だと思います。

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ラストのクライマックスシーン。芝居の良さはアニメーターの方の賜物でもあるはずですが、この画面を作り出せるのが藤原佳幸という演出家の強さなのだと思います。夜に回る観覧車の中、最後の時を迎える二人を照らす逆光が儚くも美しく、まるで共に過ごすこの時を讃えているかのよう。光源の存在は終始明かされませんが、感情の起伏に合わせ映像がロマンチックになるのもまた、藤原監督の持ち味です。流れる時間を切り取りながら、登場人物たちの感情に合わせるよう変化を加える。言葉だけでは表現できない気持ちを画面からも伝えようとそっと背中を押すような演出。それは撮影も芝居の振り方もレイアウトも含めてですが、そうしたものの集積、人物への寄り添い方が藤原監督の作家性なのだとも感じています。

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NEW GAME!!』12話。作品のテーマは違いますが、見せ方は近いです。青葉がコウの手を握り返す描写。二人だけのこの時をロマンチックに飾り立てる映像。このシーンは劇伴などもあり、カットも感情的なものが連続で繋げられていますが、劇的といった印象はなくここもやはりじっくり描いてくれていたという印象の方が強いです。紅葉と青葉が電車に乗って空港に向かうシーンでは、入っても不思議ではないところでも回想が入らず、こちらはよりじっくり撮っていた印象。コウの思い出を青葉が語る場面など、あのシーンからも心情に寄り添う監督の良さが滲み出ていたと思います。

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またありのままの時間を切り取る、といった意味合いでの特筆すべきシーンは『GJ部』12話における紫音と京夜の早朝のやり取りがそれにあたるはずです。卒業式を目前に控える先輩の言葉を流れる時間のまま映すことで非常にセンチなシーンになっていました。静かに、いつも通りの会話で入る導入からこの映像。淡い自販機の灯りや薄く入る入射光など物語と映像がかっちり嵌っています。このシーンは本当に素晴らしいです。また、『ヨコハマ買い出し紀行』といった作品が上がりましたが、このシーンは特にその系統に近い印象があった気がしています。終わりを迎える雰囲気がそう感じさせたのかも知れませんが、ロングショットなどを効果的に使ったりと、言われてみれば確かにといった具合。個人的にはアニメ版の『ヨコハマ買い出し紀行*2にも近い雰囲気も感じました。

 

在校生が卒業生に言葉を贈るシーンでは、前述の作品でも使われていたロマンチックな撮影効果で夕日の入射光が盛られたりと、初監督作品でもらしい演出の良さが生かされているのが見受けられます。『みなみけ』がターニングポイント*3とご自身が語っていただけあり、炬燵を囲んで駄弁る様子を静かに映していたり、会話中心のシーンはあの作品の影響も受けているのだとは思いますが、それ以上にキャラクターの感情に寄せる映像の組み立て方は藤原監督の感性による部分が大きいように感じられます。『侵略!?イカ娘』11話Cパート、『ソードアート・オンライン』17話などその他にも良い演出回が多いです。

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最後に、監督がインタビューの中で語られていた “成長” という言葉、また “時間の流れ” という言葉は時間の経過を軸に据える作品テーマ性にも大きく掛かっているのだと思います*4。季節が巡ることと、なにかが変ること。その中でなにが終わり、なにがまた始まっていくのかということ。そういった意味で言えば『プラスティック・メモリーズ』の死生観的なテーマは非常にらしいテーマだったのだなと改めて思えますし、成長を描いた『NEW GAME!!』などはまさにその系譜の作品だったとも言えるはずです。

 

藤原監督自身には「もっとこうすればよかった」といった後悔や反省の気持ちがある旨もインタビュー記事には書かれていましたし、なにか感情的な起伏が物語の中で必ず起こってしまうことには思う部分もあるようでした。ですが、私自身はそんな藤原監督の描く人物像・心情への寄せ方と物語が大好きです。演出家として、監督としてもちろん変わっていく部分はあるのだと思いますが、今後手掛けられる作品でも、これまでの藤原監督作品から感じることのできた良さがまた感じられればなと切に思います。

Animage(アニメージュ) 2017年 12 月号 [雑誌]

Animage(アニメージュ) 2017年 12 月号 [雑誌]

 

*1:アニメージュ 12月号 『この人に話を聞きたい』より抜粋

*2:安濃高志監督版のもの

*3:アニメージュ 12月号 『この人に話を聞きたい』より抜粋2

*4:画像左から『プラスティック・メモリーズ』『未確認で進行形』『GJ部』各挿話全て絵コンテ演出 藤原佳幸