『魔法使いの嫁』の瞳と演出について

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特異な性質を持ち、それゆえに迫害を受けてきたチセ。目元の重線とアンニュイな瞳はそんな彼女を象徴するように気怠いイメージで冒頭から描かれます。また鎖などの強烈なモチーフも合わさることで一層彼女の “不自由さ” は浮き彫りになっていたと思います。

 

ですが、彼女の前にエリアスが現れたことを契機に状況は一変します。まるで彼がチセにとっての希望であるかのように瞳へはハイライトが足され、影を払い、風が吹き、光が充てられていくのです。チセの心の機微を踏襲するよう静かに、けれど劇的に。大袈裟に言ってしまえば、それまで悲痛な人生を過ごしてきた彼女にとってはこの出会いこそが祝福や希望であると語り掛けるため、それらの映像は構築されていたようにも思えました。

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エリアスがチセへ肯定的な言葉を投げかけるシーンでもそれは同様です。見開かれた瞳、下にできた痣すらもその印象を失う程の輝きもって彼女は真っ直ぐエリアスを見つめます。

 

なにか核心的なことを言われるとハイライトが増すというのは原作でも使われていた表現ですが、それを今回のフィルムでもアニメ的な表現に変え、効果的に使っていく。またその瞳のアップショットを多用・併用することでさらに彼女の心情とその揺れを鮮明に映していく。言葉数少ない彼女の代わりに。言葉にはできない感情を代弁するように。そうやって、このフィルムは多くのことをその瞳で語ろうとするのです。まただからこそ感じとることが出来るのは、いかにチセが救いを求めていたのかということと、その瞳にどれほどの希望が映っていたのか、ということであったはずです。

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特筆したいのは「君をお嫁さんにするつもりだ」とエリアスに言われたシーン。暗い森から開けた場所に出たタイミングで告げられ、同時に淡い月灯りが二人を照らすのが非常にロマンチックであり、劇的です。チセのアップショット、見開かれた瞳を挟み、想定線を越えバックショットで終わる。ここも冒頭同様、静かに描かれてはいますがカットの運びと画面の質感はとても感情的だと思います。チセ自身は驚きの方が強かったのだろうと思いますが、その瞳に添えられたハイライトの輝きは真に彼女の心の動きを捉えていたと思います。光が差し込むのも同様です。

 

映像の盛り方、一気にアップショットまで引き付ける直情的な繋ぎなど、終始このフィルムは彼女の心の動きに敏感でした。その影響か、どこか漫画よりも人間味溢れる人物としてチセが描かれていたようにも感じられたのは良かったですし、発見でした。今回の話ではその大きな役割を瞳が担っていましたが、今後チセの心情へどう映像を寄せていくのかはとても楽しみです。願わくばラストカットで描かれた三日月が真円に近くなるその日まで、二人の動向をじっくりと追い掛けていければなと思います。

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