Q.T.B(クイックトラックバック)から縦パンで被写体をハンディカメラへ持っていくカメラワークの巧さ。青空をアクセントにしたレイアウトと情感の置き方も含めグッとくる長井龍雪さんらしいフィルムを観れたのが本当に嬉しく、堪りませんでした。カウントダウンから始まる映画的な演出も長井節らしい味。主人公の春輝が自主制作映画を撮っていることが肝になっている演出ではありますが、これは長井さんの経歴から見ても非常に縁が深いモチーフだと思わざるを得ませんでした。
なぜなら『とある科学の超電磁砲 OVA』『あの夏で待ってる』など、これは長井さんが度々もちいてきた短編映像で活きる特異な見せ方でもあったからです。自主制作的な映像にすることで情感を醸し出す撮影と演出の妙、短編(OPやED)を登場人物たちが撮っているように見せることが出来るというメリットなど、物語や登場人物たちのパーソナリティにプラスαを寄与できるのがこういった映像の特徴だと思います。特に例に挙げた二作品ではその傾向が強く、被写体のカメラ目線の多さ、アイレベルの位置、トランジションでフィルムロールを使うなど、かなり全体的なイメージ・質感に拘った映像であったことが観返すと改めて分かります。
フィルムロールが格好良いのも長井節。こういったカットの繋ぎ方は今回演出を担当されたEDでは見られませんでしたが、ちりちりと掠れていた映像などは同様に自主制作的な味があって趣深く、それも今回のEDが上記に挙げた二作品と重なった理由ではありました。
ですがなにより、本作は自主制作映画を撮ることを作品の主題の一つに置いています。だからこそ “演出として” 画面に強い自主制作性を出すことは敢えてしなかったのかも知れません。ファーストカットにハンディカメラを置くこと、そこからカウントダウンが始まりフィルムが回り出すこと。むしろ、それだけで今回は自主制作性の意味合いを十二分に果たしていたようにも感じられますし、ロングショットがフィルムの根幹を構成していたことを考えればむしろそれ自体が(自主制作の)映画的だったと言えるのかも知れません。『とらドラ!』などのOPでも手ブレでハンディカメラっぽさは出していましたが、全体的にそこまで自主制作っぽい作りはしていませんし、基盤は固めつつケースバイケースで演出を使い分け一辺倒なフィルムにならないのが長井さんの強みでもあるはずです。
また序盤にあったパン系の動きは終始使われていましたが、この縦・横のパンを使い映像を盛り立てていくのも長井さんの得意とする映像表現です。このカットではT.Bとパンを併用した様な形から二人をフレームの中に収めたのち、また上へ向けパン・空抜けしていくといったカメラワークが見られます。*1
先程のような自主制作っぽさも長井さんの青春性を象徴する見せ方ではありますが、このじっくり撮るカメラワークと、空へ抜けていく挙動も同様だと思います。空の青さを際立たせるレイアウトをよく使われるのもようは映像を青春に紐づけたいからなのでしょう。青春を空の青さに掛けるような作品*2や演出はそれなりに見受けられますが、長井さんの場合は特にそれが顕著だと思います。
こちらは急速度での空抜け。いずれも空へ向けカメラを動かしていますし、極めて青春性の高い映像だと感じます。噴射煙や舞い上がる枯葉を追い駆けるような軌道がなにかを遠望するようなイメージさえ想起させてくれるのも良いです。非常にエモーショナルなカットだなと思います。また画面を青に染めることで青春性の担保とする、そういった意味合いも強いのではないかと感じますし、逆に言えばそう感じさせてくれる映像を作れるのが長井龍雪という演出家の手腕なのかも知れません。俯きがちな思春期の子供たちへ向け風を吹かせてあげたい、そんな意図さえこのカットからは感じられます。
この『あの夏で待ってる』のカットも微かに見える青空へと高速パン。この次のカットが青を基調としたカットなのでイメージを青へ移そうとしていたことが伝わります。逆に『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』のあなるのカットは青空を電車で遮ってしまうカットで、青春が陰る意味合いがあるのだと思います。上手・下手の流れなども意識したカットですが、そこにちゃんとパンをつける。ここでも風の靡きと同調させるカメラワークが導入され、尚のこと情緒を与える演出になっていたと思います。どちらも向かい風であることが良くない印象を与えているのが巧いですが、話が逸れてしまうのでその辺りは割愛します。
これらは一部ですが、他のOP・EDでも長井さんは本当に良くパンやそれに付随するようなカメラワークを演出に取り入れています。じっくりカメラを被写体に向けたり、被写体から空へ向けたりと、それが良い情感を創り出していて長井さんの映像に味を与えています。『いつだって僕らの恋は...』のEDも例に漏れずパンの使い方が非常に良かったです。上記で挙げたカットもですが、ヒロインの美桜が立ち止まってから空へ向けカメラを動かすところなどは凄く長井さん的だなと思えますし、良いです。
これが該当のカット。長井さんらしいと思える被写体の捉え方です。空を映してからじっくりカメラを動かす。歩く二人。立ち止まる美桜。先に行ってしまう春輝。感情が高まるのと同じくして高速気味に空へ向けパン。余り空高くまでカメラを上げないのは、次のカット*3が空を映すところからまた始まるからなのだと思います。テンポを考えたカット割りです。
こういう振り向きもいいですね。背中を映す、また他の生徒との距離感を出したりなどといったレイアウトの巧さなどもやっぱりらしいなと思います。白バック、色トレスなどは、これでもかと言うくらいに長井龍雪節。そしてやっぱり青空が基調なんですよね。
こういうキーカットを差し込んでくるから自分の中では未だに長井さんが “青春性の高い人” という括りなんだと思います。最後に手がカットインしてきて二人の頭上にハートを描く茶目っ気さは、ラストカットを小物などのモチーフで締めるいつものあれだと思えば得心もできます。こういう可愛らしいワンポイントをそっと添えられる感性にも求心力があるのでしょう。本当にこういう映像を演出されると隙がない方だなとつくづく思わされます。カット数自体は多くありませんが、らしさで纏まっていたのがとても良かったです。クール中盤で不意を食らった格好でしたが、長井さんの映像が見れたのは有難いですね。
※ 以下、長井龍雪さんについて書かれた参考記事
OP/EDで見る長井龍雪にとっての「とある科学の超電磁砲」 - Daisukのよ〜わからへん!
長井龍雪が描くOP/EDの演出的魅力 その1 - OTACTURE
長井龍雪が描くOP/EDの演出的魅力 その2 - OTACTURE
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