『スロウスタート』1話の足の芝居、その過程について

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おそらくは進学が一年遅れてしまっていることが一之瀬花名の内気な性格に拍車を掛けているのだと思うのですが、それを声色や表情だけでなく、仕草で繊細に描いていくれていたのがとても良いなと思いました。一緒に帰ろうと言ってくれたことに嬉しさを感じながら、徒歩通学であることに負い目を感じてしまいどうしてもネガティブになってしまう花名の心情が滲み出ていたような芝居。踏み出したいけど、踏み出せないような。あと半歩がどうしても前に出ないような。そんな彼女の少しモジモジしてしまう性格をよく含んだ芝居だったと思います。

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中盤のこのカットも同様です。ついネガティブに考えてしまい、前に踏み出せない彼女の心象をそのまま映してくれたような芝居です。「引っ越してきたばかりで何も知らない」ことさえあの状況では彼女にとって負い目だったのでしょう。自分の立ち位置が定まらない、自信のなさがつい表に出てしてしまったあの後ずさりの芝居は、一之瀬花名という人物のパーソナリティを描く上でとても重要なカットにすらなっていたはずです。

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けれど、彼女の足はネガティブさだけを映していたわけでは決してありませんでした。新しくできた友人に優しくして貰い、とても楽しい一日を過ごせた彼女にとってそれは本当に素敵な出来事だったのでしょう。たまての様に全身を使って嬉しさを表現することはない反面、その足はまるで弾けるように彼女の内心を雄弁に語ってくれていたと思いますし、こういう一面もあるんだということをこの芝居から感じ取れたことがなにより嬉しかったです。

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そして最後は自分から名前を告げ、一歩を踏み出す花名。ここも決め手はCパートの足の芝居でした。だからか、今回の話はそんな彼女のほんの少しの成長と過程をローショットで決め打ちする構成だったのかなと感じました。監督の橋本裕之さんは『ご注文はうさぎですか?』のシリーズでも手のフェティッシュなカットを要所に決め込んで入れていましたが、もしかすれば足のカットが今回はその役割を果たしていくのかも知れません。*1

 

また橋本監督は以前NHKにて放送された『ベスト・アニメ100』のベストセレクション『ご注文はうさぎですか?』内の特別インタビューにて次のように語っていました。

「大きな変化はないがその子にとっての小さな変化がある。それはその子にとって世界の危機に匹敵するくらいのものであってもいいと思う」*2

本作の一話を観て感じたのはまさに、そういった “小さな変化” の物語と、そこへの優しい寄り添い方だったように思います。足の描写の些細な機微・変化はその最たる例で、そんな橋本監督が考えるキャラクターたちへの向き合い方を端的に描いた表現にもなっていたはずです。

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大枠ではAパート冒頭からBパート終盤へのリフレインの構成。同じ様な一日でもほんの少しだけ違うことを浮き彫りにしてくれます。そして何を隠そう、その違いは彼女自身の心持ちでもあったはずです。勇気を出して、自分から向き合ってみる。そうすればもう少しだけ世界が広がっていくのかも知れない。そんな一之瀬花名の物語がとても愛おしく映りましたし、そうした変化の過程を足の芝居の差異でも描いていたのがすごく良かったです。これからもゆっくり彼女たちを見守っていきたいなと思えた素晴らしい第一話だったと思います。作画アベレージがもの凄く高いことも含め今後がとても楽しみな作品です。

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