『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』2話の芝居と演出について

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俯きがちな視線、目をそらす仕草と、終始どこか自信のなさを露呈していたエリカ・ブラウン。2話にして描かれたのはそんな彼女の寡黙な物語であり、自身を顧みるための話でした。

 

それも彼女自身が「自動手記人形に向いていないのは私の方だ」と語ったように、エリカはヴァイオレットに対し自らを重ねて見てもいたのでしょう。自動手記人形としての仕事に自信を持てていなかったであろう彼女の憂鬱と、自分を見ているように思わせるヴァイオレットの存在。だから必然と目を背けてしまうし、「みんな新人みたいなもの」というカトレアの言葉にも過剰に反応してしまう。狭いレイアウトに押し込めるようなカットもおそらくはそうした彼女の下向きさを重ねた描写だったはずで、エリカの弱さを突き付けるようなフィルムが度々閉塞感を生み出し、彼女の息苦しさを緩やかに演出していたように思います。

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またエリカの弱さはこうした芝居でも顕著に描かれていました。目を逸らし、俯いて、逃げるように立ち去るムーヴはもはや彼女のパーソナリティと言ってもいいのだと思いますが、それは決してポジティブに描かれたものではありませんでした。後ろ髪を引かれるようフレームアウトする時は髪が最後に残る、というのは好意的に解釈できるとても印象的なフレーム単位の作画ではありますが、それでも表情や芝居全体の陰鬱さを覆すほどでは決してありません。

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ですが徐々にヴァイオレットに視線を向けるナメの構図・レイアウトが多くなります。これはヴァイオレットを見たくないという思い以上に、(自分を重ねているからこそ)ヴァイオレットに関心を持ってしまう感情*1がそうさせていたのだと思います。直接的に向き合う機会を多く設けることはせず、陰ながら彼女を見ようとする視線の置き方がエリカ・ブラウンの人物像をこれ以上なく象徴していました。その点、ヴァイオレットはエリカと逆の人間性も帯びていて、常に相手を真っ直ぐと見つめ、ありのままを相手へ伝えようとします。それは相手の気持ちや感情を察せられない、という彼女の側面がそうさせている部分も勿論あるはずですが、今回の話ではそれが好転的に描かれていた部分もあり、エリカと同じようで違うヴァイオレットとの差異が今話では浮き彫りになっていたはずです。

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それを一番情緒的に描いていたのが雨上がりのシーンです。横構図は二人が向き合うことを余儀なくさせ、正面からヴァイオレットを撮ることで彼女の言葉と意思に強い軸を感じさせてくれます。「愛してるを知りたい」というヴァイオレットの真っ直ぐな想い。それを全身で受け、何かを感じ、何かを変革させられたエリカの心象を映像美で描く見せ方がとても美しいです。光と陰の分断はベタではありますが、これをここまで溜め込みカタルシスある見せ方に出来るのは本当に凄いと思いますし、俯きがちだったエリカの心を解く演出としてもこれ以上はないような気さえします。

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もちろん、そのこと契機に彼女の中でなにかが劇的に変化したわけではありません。それでも目を逸らさなくなった、俯くのではなく前を向けるようになったことは彼女にとって小さな、けれどとても大きい一歩目の前進となったはずです。そしてそれは今後のヴァイオレットとの向き合い方に変化を与える切っ掛けにもなっていくのだと思いますし、ともすれば彼女の夢の行方にまで影響を与えた出来事にすらなっていくのかも知れません。一つ振れる長針と、小走りするエリカを遠巻きに映したロングショットはそんな彼女を見守るよう描かれたキーカットでもあったのでしょう。眼鏡を外す、というのもとても印象的であり意図的。

 

そうした変化を統括し、私もいつか人の心を動かすような素敵な手紙を書きたいと、そう語れるようになるまでの彼女の些細な成長を描いた挿話としても、今回の話はとても素晴らしいものでした。2話にして群像的になってきたのは驚きましたが、今話の演出、またシリーズ演出を任されている藤田春香さんはそんな群像劇を見事に描いた『響け!ユーフォニアム』8話が出世作となった方。振り返ればとても合点のいく構成でしたし、演出だったと思います。藤田さんのシリーズ演出としての手腕も含め、よりこの作品のこれからがとても楽しみになった話だったなと思います。

*1:今話らしく言えば裏腹な感情