『ゆるキャン△』5話のラストシーンについて

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なでしこからリンへのオーバーラップ。当たり前と言えば当たり前ですが、これはアニメで加えられたオリジナルの描写です*2。景色を望む二人のバックショットを重ねるトランジションになっていて、その光景はまるで二つの視線 (見ているもの) をも重ねるように描かれた非常にエモーショナルなものでした。以前、原作を読んだ時は “それぞれの旅で見た、それぞれの景色” を共有し合う描写の多くに胸を打たれたわけですが、それをより色濃く描くための見せ方としてこれ以上はないのではと思うくらい、この演出には感動してしまいました。

 

決して珍しいトランジションではなく、むしろありふれたもの。けれど間と音楽を大切に扱い、この作品が持つ独特の余白と雰囲気を最大限に生かす本作に至っては、やはりこれは秀逸な演出に他なりませんでした。じっくりパンアップする画面と、浮かび上がる “あなたが見ていた” 景色。画面上部に出来る空間に感情が浸透していくようなレイアウトも含め、このカットからは言い知れぬものを強く感じさせられてしまいます。

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また、なでしこが目的地へ着いた頃から鳴り始めるアイリッシュトラッドな劇伴は先ほどのオーバーラップするカットまで一曲で構成されています。そしてなでしこがリンに、リンがなでしこに景色をプレゼントする際の計二回。この劇伴は曲調的な山場を同じように二度迎えています。3話でなでしこが朝陽の掛かる富士山を見るシーンも同様でしたが、こういった音楽とカッティングの構成は本当に素晴らしいです。音楽の制作段階からコンテに決め打ちし大よその構成を決めているのか、こういった劇伴をオーダーして上がってきたものにコンテを合わせているのか、もしくはコンテに対し音楽を編集しているのかは定かではありませんが、高いレベルで音楽と映像が噛み合ったフィルムからは「この作品がここでなにを見せようとしているのか」ということが伝わってくるようで、心から嬉しくなれますし、物語に没頭できます。

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そして劇伴が鳴り止んでからの台詞。「綺麗だね」と零す二人の言葉も原作にはなく、これは本作で足されたものでした。言葉は交わさずに、LINEのやり取りだけで情景を映していた原作には原作の良さがありますが、アニメの解釈としてここで一つ台詞を加えてくれたことは、とても良いニュアンスを与えてくれたと思っています。

 

シンクロする景色と感情。レイアウトと構図。シンメトリー。それこそ、この作品のサブタイトルが指示していたものを映像と音楽とほんの少しの言葉で表現したラストシーンには、本作が描こうとしていることの多くが映し出されていたはずです。音楽を含めた映像のコントロールは今話だけに限ったことでは決してありませんが、それがとても良い塩梅に表現されていて、素敵だなと思えます。まただからこそ、景色を前にただ立ち尽くす二人を同じフレームに収めたラストカットは何よりも寡黙であり、雄弁でした。もはやここまで描けばあとは言葉も音楽も必要ない。そこにあるものだけが全てを語ってくれるのだと、そう言わんばかりのロングショットに心酔できることまでが本話の醍醐味なのでしょう。本当に素晴らしいラストシーンだったと思います。*3

ゆるキャン△ 2 [Blu-ray]

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*1:アイキャッチ

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*2:カットとカットを繋ぐトランジションの編集は映像媒体特有のものであるため。こういう構図でのバックショットも厳密にはオリジナル

*3:二つの旅をクロスカッティングで描いた中盤までも、まったり、笑いあり、風情ありで、良かったなと思います。