反芻と遠望の先へ『宇宙よりも遠い場所』8話

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自分たちのやりたいこと、向かいたい場所、胸に秘める想い。そんな幾重にも重なった感情を反芻しながら、これまでの物語の中で切実に訴えてきた本作にあって、今回の話はそれを再度描いたしたものとしてとても胸に迫るものがありました。モノローグでもなく、メモワールでもない。その “瞬間” に「選択したんだよ、選んだんだよ」と言える強さはもはや本作の代名詞そのもので、それを噛み締めるように繰り返し、しっかりと前を向き直す波際のシーンは、もはや感動的であったという他ありませんでした。

 

一つ一つ重い扉を抉じ開けるように進んできた彼女たち。だからこそ、目の前に広がる荒波だってその全てが彼女たちにとっては一つの到達点であり、通過点なのでしょう。彼女たちに浴びせられた海水の雨はそんな4人への洗礼であると共に、おそらくは「やっと船に乗れた」少女たちへの祝福としても描かれていたはずです。そしてそんな姿を船内越しに撮るアングルはまさに前へ進んでいく彼女たちの背中をそっと見守る私たち受け手の視線そのものでした。

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そして繰り返される横一列のカットバック。これまで感じていたものが少なからずバラバラだった4人の感情が、この瞬間だけは間違いなく収束していたことを確信として捉える彼女たちの横顔。遠望する視線。一面青の光景。広がる大海へ浮かぶ、それぞれにとっての “宇宙よりも遠い場所”。

 

それは「ここから、始めよう」と繰り返し続けてきた彼女たちの一歩が集積し、象られた瞬間でした。そしてなにより「その時確信した、この向こうに本当にあるんだ」と、そうマリが思えたことも言ってしまえばきっと同じだったのだと思います。それは南極に向けてだけではなく、自分たちの中に視ていた夢に対しての言葉であり、可能性が現実に変わりつつある “景色” に対しての言葉でもあったのだと。それはこの作品が、その場所を目指した軌跡とその姿に美しさを見出す物語を描き続けてきたことと何一つ変わらない解釈であるはずです。

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でも、そこに在る物語は決して一つではないんです。4人の姿があって、4人の想いが確かにここまで運ばれてきたことも本作はしっかりと描いてきた。これは一括りに描かれた物語ではなく、“一人一人の物語” でもあるはずだから。だからピントをずらす。一人一人の言葉に、表情に焦点を当てるため、ピン送りをする。大枠での方向性と、それでも決して綯い交ぜにはしない個々のミクロな物語の存在。それをとても大切に、丁寧に描く。彼女たちの感情を置き去りにしないように。

 

その配分と見せ方が本当に素晴らしい、感動的な一つの締め括りの話だったと思います。これからも足元を見直したり、想いや目標を繰り返し思い出すことはあるでしょうけど、彼女たちにはもっと先へと向かって行って欲しいです。そしてその先の景色を私も彼女たちの数歩後ろからでもいいので、是非一緒に見てみたいなと思います。