劇場版『若おかみは小学生!』の芝居・身体性について

表情変化や歩き芝居に始まり、抱き寄せる芝居、ものを運ぶ芝居、屈む芝居、掃除をする芝居など、おおよそ生活の中で見られるであろうアニメーションを徹底して描き出した今作。日々人が営む中で起こす動きを描くというのは非常に難しいことですが、それを終始高いレベルでここまで快活に描いていたことにとても驚かされました。加えて、そういった数多くの芝居が物語に寄与していたものは計り知れず、鑑賞後はこの作品が劇場アニメとしてのスケールでTV版とは別に作られた意味を思い知らされたようでした。*1

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なぜなら、両親を失くし、祖母に引き取られた先で若女将として経験を積んでいく主人公のおっこがその過程で見せた懸命さも、失敗も、時に見せる子供らしい表情もその全てがとても生き生きと表現されていたからです。着物のシルエットや姿勢、いわゆるフォルムとその動かし方や、それらを内包した生活アニメーションの巧さは前述した通り本当に素晴らしかったのですが、そこに描かれていたのは着物ならではの緻密さや人間的な芝居の表現だけでは決してありませんでした。おっこのハツラツとした性格、強さ、感情の豊かさ、そして成長。そういった目だけでは観察することの出来ないおっこが持つ人間味を描いていたこともまた素晴らしく、だからこそこの作品においてはそういった芝居の積み重ねが一つの物語になっていたと強く感じられるのです。

 

コミカルな芝居も、夢で両親に甘える芝居も、ハキハキと働く芝居も。その全てがおっこという一人の少女を描き、象っていくということ。そしてそれが緻密に、丁寧に表現されていくことで実在感が生まれ、こうして鑑賞を終えた今も尚 “春の屋で駆け回るおっこや取り巻く人々の姿を想像させてくれる” ことに本作で描かれたアニメーションの強さはあるのだと思います。美術や構図・レイアウトの素晴らしさに緻密な芝居が乗り、感情や人物像が込められていく。大袈裟な言い方をすれば、まるでそれは彼女たちがそこに生きた証を記すようで、物語の節々、カットの一つ一つに感傷や喜びを感じずにはいられませんでした。

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また、彼女を取り巻く人々の芝居として素晴らしかったのはおっこにだけ見える幽霊たちの存在とその描き方でした。ウリ坊、美陽、鈴鬼と三人の人ならざる者が本作では登場しますが、特にウリ坊と美陽における芝居は彼女たちが幽霊であることを忘れてしまう程に生命力に溢れていました。ふわっと漂う芝居やものの中を通過していく表現は時におっこたちとは違う存在であることを実感させますが、駆け回ったりおっこの手伝いをしたり、一緒に笑ったり泣いたりする彼女たちは打って変わり、おっことなんら変わりない少年少女の快活さをもって描かれていたように思います。それは彼女・彼らにとっての身体性の獲得であり、本作が二人を人間として (或いはおっこの良き友人として) 描こうとしたことの証左に他ならないはずです。

 

もちろん、身体性という意味ではおっこについても同様ではありますが、元々が既に命を持つ者ではなかった分、よりそういった芝居作画からは二人の存在というものを強く感じ取れたように思います。特にその身体性が強く描かれていたラストシーンの神楽はとても感動的でした。舞い踊るおっこと真月の横で一緒になって踊るウリ坊、美陽の姿はもはやおっこたちとなんら変わらず、垣根などない “生者と変わりのない存在” として描かれていたとすら感じられたからです。四人の動きに (人間と幽霊としての) 差をつけず、一人一人の芝居を力強く描いたこと。まただからこそ「まるでウリ坊と美陽が実体を持ったかのようだ」と思えたこと。それはきっとおっこたちが過ごした時間とその中で培った “実り (関係性や成長)” を本作が大切に描こうとしていたことと、きっと密接に繋がっているはずです。

 

そういった物語の流れ、登場人物たちの変化や成長を今回のような芝居・作画をもって多く描いてくれたことが本当に素晴らしく、感動しました。生活を描くこと、感情を描くこと、性格や身体性を描くこと。そういった描写の一つ一つが連綿と繋がることで彼女たちが “そこに居る” と感じられる。その感動と喜びはとても大きく、あらゆる面を作画面からも力強くアプローチした本作*2はきっとこれからも胸の奥に焼きつき、離れないのだろうと思います。そう確信出来るほどに素晴らしい映画でしたし、心からこの映画に出会えてよかったと今は感じられています。TV版はまだ最終回を迎えていませんが、一先ずこの作品に関わられた方々には心から感謝を。本当にありがとうございました。おそらくもう何度かは劇場へ足を運ぶことになりそうです。*3*4

若おかみは小学生!  Vol.1 [DVD]

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*1:それはTV版と劇場版のどちらが良いか、などといった話では決してなく

*2:もちろん、作画面だけではなく、音楽、美術、撮影、それらを統括する演出などそのどれもが素晴らしかったのは前提として注釈しておきます

*3:記事中で使われている参考資料(GIF)は全てTVアニメ『若おかみは小学生!』ED内にて使われたもの

*4:サムネ参考画像:

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