『SSSS.GRIDMAN』2話の宝多六花に寄る演出について

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グリッドマン同盟なるものの発足の傍らで鬱々とした表情を見せる少女、宝多六花。一話における戦闘の影響でクラスメイトが居なかったものとされてしまったことへのショックは隠し切れるものではなく、その心情を汲み取るレイアウト、陰影、距離感が非常にうまく表現されていました。視線誘導的な意味でも、明暗としても、心情的なテンションの差がとても明確に描かれています。もちろん裕太たちにとってもショッキングな出来事であったことには替わりないのでしょうが、おそらくは六花の方がよりその現実を自身が直面している体験として受け止めることが出来ていたのだと思います。

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「もし同じ様にまた友達が死んでいたことにされてしまったら」「この世界から消えてしまったら」。ビール函越しのショットはテクニカルでありながらそんな彼女の仄暗い心情をより映していましたし、距離感をつけた切り返しのカメラワークもそういった想いを静かに映し出してくれていました。それはまるでグリッドマンという光の側面に立つものの裏に描かれる苦渋の現実を彼女一人が背負っているようにも感じられる程でした。

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目配せだけの芝居カットですが、ここでも他の三人には余り感じられなかった彼女特有の繊細さが表現されています。ダウナーな瞳。少し乱れるか細い髪。演出としてどこまで要求されているカットなのかは分かりませんが*1、線の細さ、瞬き一つとっても芝居の細やかさが彼女の心模様を映すようで印象に残ります。ビール函ナメのカットもそうですが被写界深度を意識したカットに続きここでも六花に強くフォーカスを当てるため周囲を若干ぼかしています。本作に群像性を感じたのはこういった節々の演出・見せ方があったからこそで、こういったカットから一つの出来事に対するそれぞれの立ち位置というものを感じられるのがとても良いです。

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ですが、こと “戦う” ということに関して彼女は当事者になり切れないままのようでした。裕太とグリッドマンだけが戦えるという現状に対し、彼女は一歩引かざるを得なかったのでしょう。その落差というか、立場の違いにまで踏み込んで表現されていたのがとても胸に刺さりました。友達はもう失いたくない。でも、裕太も友達の一人。そんな葛藤が彼女の中にはあったのかも知れません。距離感、高低差、俯瞰。実際的な立ち位置が心的な立ち位置にリンクしていくレイアウト・画面構成。モチーフとして、橋と川というのも “関係性” と “それでも進み続ける時間の流れ” を克明に印象付けるものとして機能していました。

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この辺りも同様です。実際に危険が迫れば、その舞台に六花は上がれない。一人だけ蚊帳の外に居るようなレイアウトは他にもありますが*2、このシーンにおいては無関心を装いたいのではなく、当事者になり切れない彼女の複雑な心境がより描かれていたはずです。

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逆光のカット。光と陰。怪獣を倒したことに対する喜びや、一件に対する興味よりも友人の安否を気遣う彼女の心情が際立つカットです。街中で戦えば犠牲者が出るという当然のことに目を向ける六花の視線。走り出す彼女の足元が、心が、このグリッドマン同盟には一番に向いていないことを描くとても感傷的なシーンでした。振り向きざまに紡がれた「ありがとう」の一言もやはり立ち位置の違いを明確にしていたと思いますし、そうして感情的にはならない彼女の心情を映像面から後押ししてくれていた挿話であったことが、一層この作品を好きだと思わせてくれました。

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友人と談笑する六花とそれを俯瞰する裕太。中盤の橋のシーンとは逆の立ち位置になっているのが面白いですが、友人の日常風景を一歩引いた場所から見るという状況では同様であるはずです。ですが裕太の場合はそれを守る力がある。それが “今は” 六花との違いとして描かれているのかも知れません。今後どういった展開になるのかは全く分かりませんが、今作がそういった群像性を持ち合わせていることは心に留めておきたいなと思いますし、そう思わせてくれた今回の挿話には一話以上にとても惹かれてしまいました。六花の物語含め、今後がとても楽しみで仕方がありません。

SSSS.GRIDMAN 第1巻 [Blu-ray]
 

*1:担当されたアニメーターの方のアドリブの可能性もあるため

*2:該当シーン:

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