『Just Because!』10話の影と高揚感の演出について

f:id:shirooo105:20171217162537g:plain

夜道を自転車で走る際に、並ぶ街灯に当てられ影が前へ迫(せ)り出してくる現象。平たく言えば光源が後方へ下がることで影が前方へ移動しているわけですが、おそらくこの表現をアニメで観たのは初めてだったと思います。本作のリアル度合いに関しては以前の記事でも触れたところですが、こういった描写を逃さずしっかりと抑えるからこそ本作の質感は保たれているのでしょうし、日常にある些細な風景までも描こうとする拘りにはさすがだなと言いたくなります。

 

それもただ現象や風景を再現するだけでなく、そこにしっかりと登場人物たちの感情を同期してくれるのが良いです。「私とお付き合いしてください」と森川に告白された陽人の高揚に合わせるよう、前へ迫り出す影のスピードが少しずつ早くなっていくのは特に顕著です。ここでは後方へガードレールが流れていくスピードも変化しているのですが、視線誘導的にも影の方がこのカットでは主役だったのだと思います。だからこそ、フレームインしてくる影の間隔・その速度で彼の心が少しずつ沸き立っていくのが分かりますし、鼓動が早まっていくのを感じ取れる。それはさながら陽人の感情曲線そのもので、そんな言葉にできない喜びや活力をこのシーンは寡黙に、けれど力強く表現してくれていたのだと思います。

f:id:shirooo105:20171217182039p:plainf:id:shirooo105:20171217190416p:plain

 そのカットが終わると今度は横から自転車を走らす陽人をフォロー*1。ここでは芝居でも立ち漕ぎ=高いモチベーションへの変遷を描写していますが、カメラを追い抜いてフレームアウトしていくのがまた陽人の高揚感を煽るような見せ方になっていてすごく良いなと思えました。本人を追い抜いていく影のスピードが上がるように、今度はカメラを置き去りにして本人がフレームを追い抜いていく。どちらも現象の再現・立ち漕ぎと日常的であり生活的な描写ですが、それが感情変遷の描写に寄与しているのでそれぞれがとてもエモーショナルなものになっていたと思います。

 

フィルム全体として生活感やリアルさを意識した作りになっている本作ですが、こういった感情を押し出すような描写・シーンへとシームレスに繋げていくのも本作の持ち味であり強みなのでしょう。それこそ1話で瑛太と陽人が打ち合いをする場面などは特筆できるシームレスに変遷したドラマチックなシーンであったはずです。思い返せばむしろ。そんな風に思える程に、この作品は本来とてもドラマチックなものを内に秘めているのかも知れません。

*1:カメラが被写体と並走