『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』4話の演出について

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ヴァイオレットや周囲に対し、どこか背伸びをしようとするアイリス。2話で特徴的だったのは履いたヒールが原因で足を捻ってしまうシーン*1でしたが、そんな背伸びの象徴も今話ではアップショットで映されることが多く、アバンではさながら彼女の立ち位置とそのバランスが取れていない様子を浮き彫りに描いていました。続くカットでは階段から転落してしまいますが、それを救おうとするヴァイオレットとの関係性も振り返れば今話の縮図のようだったのが面白いです。

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実家に着いてから中盤以降はアイリスが多くの場面で上手に立ちます。話の主体が彼女にあることも含め、アイリスにおける横顔のアップショットなどが度々下手方向を向いていたのは印象的です。昨年『小林さんちのメイドラゴン』で監督を務められた武本さんのコンテ回でしたが、あの作品でも同氏が担当された回では上手・下手の映えるフィルムであったことが記憶に新しく、二作品を通して観ると両者から武本さんの見せ方とその共通項が見えてくるようにも感じられます。*2 *3

 

主に感情的だったり、赤裸々だったり、重要なシーンと思える場面では上手が多い。物語の主体はアイリスなのだと語る映像の連なりが非常に規則的でありながら、方向性が纏まっていて情感があります。

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もちろんこれまでもそうだったように、群像性もありながら根幹にはヴァイオレットの物語がしっかりと根付いているのが本作です。それは今話においても例に漏れず、特に良かったのは駅舎を降りてからの一連のカッティング。アイリスに紹介されたヴァイオレットが自己紹介をすると同時にカメラは奥へと移動し、想定線を越えていきます。そして呆然とその姿に見入るアイリスのカットが入る*4。ヴァイオレット主体の話へ映像が揺らぐのと同時にあの時、アイリスの目にはきっとヴァイオレットがとても遠く、羨ましく、美しく見えたのだと思います。時間が止まったかのような間と舞い上がる葉も、端的に言ってしまえばアイリスのフィルターを通し見えたものに他なりません。

 

つまり、ここで想定線を越える意味は、アイリスがヴァイオレットと自分の違いを無自覚にでも感じ取ってしまうことにあるのだと思います。背伸びしている自分と、等身大のヴァイオレット。嘘をついてしまう自分と、ありのまま言葉を紡いでいく少女の存在。お辞儀をする様が美しくその瞳に移り込むのに対し、自分の今の状況はそれに比肩しない、と。あのシーンにはそれほどまでに感傷的かつ自身を顧みさせる残酷さが寡黙に描かれていました。

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まただからこそ、アイリスには一度自らを見つめ直す必要があったのだと思います。一度立ち止まって見ること。背伸びすることを止めること。地に足の着いた視線でもう一度振り返ってみること。今回は突拍子もないことが起こり、色々なものを抉り出す形で清算が始まってしまったけれど、それが彼女にとっての大きな契機になったことは疑いようもありません。そしてヴァイオレットの心に少しだけ触れ、少しだけ感化され、等身大の素直な気持ちを手紙に綴ってもらうことで、彼女は再び自動手記人形としての道を踏み出していける。

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もちろん、ヒールは脱ぎ捨てない。それがアイリス・カナリーとしての意地であり、「頑張ってみる」と誓った証だから。背伸びの分だけ汚れたり、失敗することもあるだろうけど、それも全ては私自身の軌跡なのだと今なら微笑むことが出来る。そんな彼女の心の変遷を後押ししていくようなモチーフの数々や映像が本当に素敵でした。エリカやルクリアと同じく、ヴァイオレットを通し自分自身を見つめ直していく群像劇としてもこれまでの挿話に引けを取らないくらい素晴らしい挿話になっていたように思います。

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また往路の電車が下手から上手へ移動していたのに対し、復路の電車が上手から下手の移動に変化していたのがとても印象に残っています。時間感覚的に言えば前者が過去へ。後者は未来へ。自らの名の由来を取り戻したヴァイオレットも含め、それぞれ過去にわだかまりを抱えた少女たちがここからどういった道を歩んでいくのか、これからが本当に楽しみです。願わくば彼女たち全員に幸多き未来があらんことを。

*1:上記左のGIF

*2:参考:『小林さんちのメイドラゴン』1話の演出と武本康弘さんについて - Paradism

*3:演出処理は澤真平さん。「小林さんちのメイドラゴン」で演出デビュー(補佐は以前にも参加あり)された方です。武本さんとのコンビも噛み合い、相変わらず素敵な画面を構築してくれていました。

*4:このカットでは最初の横構図同様に右手を向いているアイリスのアップが描かれますが、この時彼女はヴァイオレットの方を見ているので、カメラが最初のカット時点から逆側に移っていることが分かります。前のヴァイオレットのアップショットは分かりやすく反転して左手を向いている。