『SELECTION PROJECT』の演出、向き合うことについて②

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本来は先日の記事でまとめて書くつもりだったんですが、2話について書きたいことが多くそれなりの分量になってしまったので記事を分けました。基本は前回書いたことの延長です。ようは真剣な会話をするうえで向き合うことって大切だけど、それを映像からも丁寧に描写して支えてくれるとより見入るよねっていう話です。

 

まず3話。冒頭から数えて二つ目のカットと次点のカットからして、もういきなり玲那と周囲の断絶感が描かれているのが良いです。今回の話ではそういうことを描くんだというテーマ性の提示。ライティングや位置関係を活かした関係性の描写から予感や感情を映し出してくれるからこそ、グッと惹き込まれるものがありました。レイアウトも凝っていてより良く映りますし、彼女の心情を少しだけ探らせてくれそうな隙がそれとなくあるのも良いなと思います。

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話が飛びますが、Aパートのラスト、そしてBパートの頭から再びこういった位置関係で示すようなシーンが描かれます。前述した冒頭のカットや、ユニットを組んだ後にレッスン室で二人が話し合うシーンなどから、ここは明らかに地続き的な描写として描かれているシーンでしょう。玲那が天沢灯の妹だと知った鈴音、だからこそ位置関係が変わってしまうというか。向き合おうとしても言葉がこじれ向き合えなかった互いの関係が、どう向き合うべきなのかが分からない関係性に変化していく。そういった現状の形をこういったカットからも示してくれるのがとても丁寧だなと思います。

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核心的な言葉や感情を映すシーンではグッとカメラを寄せ細部を映す。互いに対して同様の映し方をすることで感情の親和性を図っていくのがとてもうまいですし、こういうカットの連続が契機となって感傷性を呼び起こしてくれていたのがどこか心地よく感じられました。描き方としては1話のベンチのシーンと同様ですが、2話・3話ではコンテ演出を担当された方が違うので、必ずしも意図していることが同じだとは限りません。しかし、回を跨いでもこういった映し方、描き方に変化が少ないというのはむしろ嬉しいというか。ああ、この作品ってこういうことをとても大切に、自分のことのように丁寧に扱ってくれる作品なんだと信じられるのが凄く良いなと思います。

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個人的にかなり素敵に映ったのが左のカット。レンズ感を望遠にすれば玲那を隅に置きつつ一人で映すことも出来たカットだったはずですが、敢えて広角にしてその背中を見つめる鈴音をしっかりと映しています。もちろんこの時点ではまだ二人の関係は深いものではありませんでしたが、独りで抱え込んでしまう玲那に対して寄り添う人が "ここ" に居ることを裏づけるカットにさえなっていました。

 

そして髪留めをほどき、真っ直ぐと前を見つめ手を広げる鈴音。多くのことを打ち明けてくれた玲那に対し、自分もまたそうすることを誓うような芝居が続けて描かれていったのが素敵です。そしてここでも活きていくライティング。向き合うことに躓いていた二人が少しずつ距離を縮めていく様子が言葉と映像によって徐々に紡がれていきます。

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特に素晴らしかったのは鈴音が玲那の横へ寄り添いにいくのではなく、追い越していったところです。天沢灯に対する見方に違いはあるけれど、"同じアイドルに想いを馳せる者" として負けたくないという思い、その発露がその足を前へ前へと運ばせたのでしょう。だからこそ、これは慰めや哀れみでもなく、とても一途な夢に対する誓いに成り得るのです。そしてそれは姉のお陰でエールを得られたと感じていた玲那に対し、とても力強い後押しにすらなっていたはずです。故に二人は並び立てる。違う視点から "同じもの" を見つめ、肩を並ばせることが出来るのです。

 

振り返ればこのシーンにおいて二人が実際的に目と目を向き合わせたことは一度たりともありませんでした。それでもようやく二人が "向き合えた" と感じられたのは、そういった二人の心情に寄り添う演出や芝居の賜物に他ならないのだと強く思います。

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それこそ、ライブシーン中に差し込まれたこういうカットとか。顔と顔を向かい合わせるだけが "向き合う" ということでは決してなくて、こういう形だってあるんだよと手を添えるよう提示してくれる見せ方が本当に素敵だなと感じます。

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他にも4話の横構図とか。多用されていたわけではありませんが、要所で使われることでユニット感での関係値を高める切っ掛けとして効いていたと思います。特に横構図って向き合うことを強いる印象の強い構図だと思うので余計にそう感じるのかも知れませんが、互いの関係を深めることに終始した話の流れを考えればあながち意図的にも間違ってはいないのかなと思います。

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あとはこういうカットとか。自然な流れでベッドの場所を空ける芝居。凪咲が座ったあとに逢生がもう一歩端に動くのとかは、めちゃくちゃ関係値を現してるなと感じられてすごく素敵でした。レイアウトやライティング、構図などで関係性を描写していくスタイルが多い一方で、こういった芝居が入るととてもドキっとさせられてしまうし、良いなあと感じられます。本当に素晴らしい芝居作画です。

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5話。やはり2話が頭をよぎるのと、そもそも他のアニメとか観ていてもベンチで座って話し込むシーンが好きだなっていう*1。それを除いてもこのシーンが強く活きていたのは、やはりここまでこの作品が "向き合う" ことを描き続けてきたからこそなのだと思います。撮影の質感や、劇伴の力など諸々の効果はもちろんありますが、シリーズ通して通底しているものがあるという強みはやはり大きいです。しっかりバックショットからも捉え、ロケーションを活かしているのも良いですね。母なる海と呼ばれるくらい存在、その見渡すくらいの広大さがそのまま野土香の優しさや厳しさ、母性に繋がる感じとかは意図的なのかなと思ったりもしました。

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祠(ほこら) のシーンでも向き合う描写が度々描かれます。横構図で一度しっかりと対峙を認識させたり、野土香の力強い表情を真正面から捉えたうえで頭ナメに二人を映したり。この表情を二人がしっかりと見ている/瞳に焼きつけていることを裏づける意味でもこういったカットの運びは大切だなと思いますし、好きだなと思います。ライティングに関してもこれまでと同様です。こういった光の質感はもはや本作が一つ軸に据えている大切な演出手法の一つに成り得ているのでしょう。よりドラマチックにするために。より "彼女たち" の情動を深めるために。光と色の加減がどれほど心情描写に影響しているのかということを今一度考えさせられました。

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6話。更衣室のパーテーション越しの断絶と、それが開けた後の横構図、向き合う二人の関係性。これまでの中で一番メタファー感が強い見せ方ではありますが、描いていること (その主軸に在るもの) はやはり同様です。同じことの繰り返しになってしまうのでこれ以上多くは語りませんが、こういったシーンやカットが要所で差し込まれることで本作が描きたいことが一つ明確になっているのは間違いないはずです。

そしてそれは "作品そのもの" を好きになる理由にすら昇華されていくのだということを、私はこの『SELECTION PROJECT』を通して改めて突き付けられたなとも感じています。状況やシチュエーションは違えど繰り返し同様の描写・演出が描かれていくことで、度々彼女たちの想いや作品そのものが描きたい主題を反芻出来るというのは、それほどまでに大きいことなんだなと。

 

だからこそ、6話終盤で一人走り去ってしまった鈴音が今後どういった向き合い方を改めて彼女たちとしていくのか。そういった物語の岐路にとてもワクワクさせられていると同時に、今は鈴音に良き未来が訪れることを強く願っています。"向き合ってきた" 数がもたらす変化と行方。それをしっかりと見届けたいなと思いますし、続きを観るのが今からとても楽しみです。

*1:これに関してはいつかちゃんと纏めたい