『ヤマノススメ サードシーズン』2話の演出について

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特徴的で可愛らしい表情、フォルム、皺のニュアンス、デフォルメ。挙げれば切りがないほどに素敵な作画を見せてくれた本話でしたが、少しアンニュイな空気を抱えた今回の話にとっては、あおいの心情に寄り添った演出がとても良い補助線を引いていて話に引き込まれる大きな要因の一つになっていました。

 

中でも特に良いなと感じたのはカメラワークで、かえでさんに登山靴の購入を薦められるシーンなどでの演出は前述したような心情への寄り添いがとても顕著でした。かえでさんの話に聞き入るようぐっと前へカメラが動いても良さそう*2な場面ですが、このカットでは少しずつ引いていくようにカメラがT.Bしているのが分かります。「登山靴、 やっぱり必要ですかね?」と後ろ向きな声色であおいが聞き返したように、カメラが下がっていくことが、おそらくはあおいの気持ちが “登山靴” から遠ざかっていたことへ同調していたのでしょう。登山が趣味であることと、高額な靴を買うことに距離間を感じてしまうのもまた彼女らしい等身大の悩み。アイレベルも丁度あおいの主観に近いものであったことが、よりそんな彼女とカメラの重なりを演出していたと思います。

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直後のレイアウトもエモーショナル。それまでの活気ある会話とは裏腹に静まり返るような孤独感のあるレイアウトがあおいの心模様をそこに映し出してくれていました。ですがそこへ注釈するようにひなたの目線が入る、というのがとても素敵で、そこにはこの作品がこれまでもずっと携えてきた温かく優しい関係性が寡黙に描かれていました。

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ここでは逆にカメラは動かさずfix。ですが、ひなたとかえでの会話が弾む傍らただあおいを映し続けるということにおそらくは意味があり、動かさないということがここでは彼女の心情を描く (捉える) 上で大切だったのだろうと思います。それはあおいの表情を映すということだけではなく、会話のラリーをカメラが追い掛けず、会話がうわ滑るようカメラを動かさないことでより疎外感を演出していた、ということでもあるのでしょう。

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その疎外感を一番強く描いていたのがこのカット。ドリーズーム*3で描かれた距離感はより心の遠さを演出し、フォーカスの変化も彼女の心情的な孤独を映し出していました。カメラが引いていくという括りでは冒頭のカットと同様で、ここも彼女の一歩引いてしまう視点とリンクしたカメラワークになっています。あおいの立場で考えれば辛い話ではあるものの、こうした心情に寄ったちょっとした見せ方の変化がそのまま物語や人物へ重なっていくのは本当に素敵です。

 

動きや絵から感傷的なものを滲ませるだけでなく、カメラワークやレイアウトなどからも心情にアプローチをかけてくれるとより一層その作品世界・物語に没入できる感覚がありますし、今回のフィルムを受け “寄り添っている” と思えたのは、やはりこういった見せ方に彼女が抱く想いの滲出を感じられたからに他なりません。

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そして冒頭のシーン同様、ここでも次点カットのレイアウトは感傷的です。登山靴を履き感触を確かめるカットでもそうでしたが、少し空間を空けることでそこには言葉にならない、言葉にし難い感情が漂っていくような印象が残ります*4。時折り逆光を強く意識した陰影で表現されるのも同じことです。彼女がなにを考え、なにを想っているのか。その心の在り処を知りたい、考えたいと思わせてくれる画面であることがとても良く、嬉しいのです。

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そして、そんなあおいを見つめる、見つめていたと語り掛ける視線を描くことでさらに物語に奥行きがでる。距離感の変化からあおいにだけ当たっていたフォーカスが奥の二人にも送られていく。冒頭でひなたが見せた視線と合わせ、その二か所に視線を置いてくれたからこそ、あおいが靴を買うまでの間ずっと二人が見守ってくれていたんだと思うことすら出来るのは演出の賜物であり、本当に素敵なことです。

 

もちろん「さっきまでお金勿体ない、って顔してたくせに」とひなたがあおいを茶化したことも「ああ、ずっと見ていたんだな」と思える要因の一つではあったわけですが、きっとそれは “見ていた” ということを言葉にしただけに過ぎなかったのだとも思います。なぜなら、言外として語られた視線とそれを切り取っていく映像はその台詞より前に描かれ、時折り彼女たちの想いをそこに映し出してくれていたのですから。

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他にも今回の話ではつけPAN、PANアップなどカメラが動くカットが多く見られました。もちろんその全てに意図や心情とのリンクがあったとは思いません。間を持たせるため、景観を見せるためなど色々な理由があるのだとは思います。ですが、その中で時折り心情に重ね合わせたような動きをカメラが見せることはやはりあって、それが今回の話をより感情豊かにしてくれていたのは間違いないはずです。

 

基本的にあおいのモノローグで物語が繋がっていく作品ではありますが、彼女もその心の内をすべて語ってくれるわけではありません。だからこそカメラが動く、表情を切り取るというのはそんな彼女の心を捉える上でとても大切なことなのだと思います。あおいが登山靴の大切さを理解していく過程を映してきたカメラが最後は富士山へ寄っていく、というのもとてもロマンがあり、力強い光景。今話はそんなカメラワークの良さが物語の積み重なりと心情の変化に重なっていた素晴らしい挿話でした。

 

演出を担当されたのはちなさん。コンテから処理まで担当されたのはおそらく二作目で、一作目の演出回『ろんぐらいだぁす!』3話もとても素敵な話だったのをよく覚えています。改めて観直すと今回ほどカメラは動いていませんでしたが、心情を描くレイアウトや間、芝居、カメラワークは非常にエモーショナルで今回の話にも通じる部分がありました。アニメーターとして素晴らしい方ではありますが、ちなさんが担当される演出回ももっと観たいなと改めて思えましたし、氏が参加される作品は今後も見逃さず追い掛けていきたいなとも思います。ともあれ、本当に素敵な挿話をありがとうございました。

*1:サムネイル画像

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*2:直前に富士山へのリベンジに向け気合を入れるあおいを映していたことから

*3:背景をT.B/T.Uしながら被写体をズームアウト/インすることにより生じる映像・実写技法。アニメ的に言えばあおい意外の人物と背景からのみT.Bしつつあおいのレイヤーは動かさないことで成立していると思われます。アニメ的に言うのであれば密着マルチとT.B?

*4:右カットの際はここでも引いていくカメラワークがつけられ、より空間を空ける見せ方が使われています

『アイカツフレンズ!』13話のラストシーンについて

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月に向かい手を伸ばし「まだまだ遠いな」と呟くみおをエモーショナルに切り取ったラストシーン。月灯りに照らされる質感がとても良く、モチーフやレイアウトなどカレンやラブミーティアに交錯した感情を抱いていたみおの内心をとてもよく描き出してくれていました。月と手の “遠さ” で憧れとの距離を映しながら、カメラが反転することで決意を瞳に宿す彼女の表情が映し出されるーー例えば、こういったカットの運びが本当に良く、カメラ位置による見え方・陰影の変化*1と月光の意図を多層的に切り取ったカメラワークが「でも、いつかきっと」と語るみおの想いを力強く反映させていたはずです。 

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ですが、なにより印象深かったのは続けざまに描かれたこのカット。差し伸べられるあいねの手はまるで本作に題される『フレンズ』の意味を多く携えているようで、フレームインしてくる手と手の重なり合いが “共に歩み、支え合う” 未来への展望を大きく拓いてくれていたことが、とても素敵でした。

 

もちろん、月や空に向け手を伸ばすという芝居・構図は他作品でも広く使われている*2モチーフ的なカットですが、こういったアクションが同一カット内で起きるのは全く記憶になく、かなり衝撃的で感動しました。主観で描かれることに意味を置くことが多い中、あいねの手が交じり合うことで本作はピュアパレットの物語をあくまで “二人の物語(視点)” として描こうとしたのかも知れません。一人では悩み、立ち止まってしまうこともきっと二人でなら届く。そう思わせてくれる力強さがこのカットにはありましたし、本作の代名詞足る「二人でなろう」の意味を寡黙に伝えてくれた二つの手は、これまで『アイカツフレンズ!』で描かれてきたものの中でも特に雄弁なカットであったように感じました。

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そしてそれを契機に超える想定線。これまで手を差し伸ばされ続けてきたあいねが今度は自らの手を差し伸ばしたことで、きっと彼女たち二人の関係にまた一つ変化が生まれていくのだと思います。

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物語の分岐路。そんな両カットと今回は立ち位置が逆になり、あいねが上手に立っていたのも印象的です。アイドルとしては先輩であるみおがあいねに手を引かれ進んでいくその先でピュアパレットがどう活躍していくのか。そんな未来が今は本当に楽しみで仕方ないですし、彼女たちと同じ歩幅でその背中を見守りながら、少しずつ変わりゆく景色を私も見ていきたいなと思います。

 

アイカツの “アイ” は愛情の “愛”」。それを体現する二人の関係性をラストシーンでも示してくれた素晴らしいエピソードでした。

TVアニメ/データカードダス『アイカツフレンズ!』OP/EDテーマ「ありがと 大丈夫/Believe it」

TVアニメ/データカードダス『アイカツフレンズ!』OP/EDテーマ「ありがと 大丈夫/Believe it」

 

*1:逆光から順光(影から光)への移行

*2:参考作品の一例。

左から『STEINS;GATE』1話、『アイカツスターズ!』41話、『響け!ユーフォニアム』12話

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『HUGっと!プリキュア』16話の演出について

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全てにおいて素晴らしいとしか言いようがなかった本話ですが、まず最初に目を奪われたのは構図やレイアウトの良さでした。特に日常パートでの人物配置などは素晴らしく、それぞれの芝居や表情を一つの画面に乗せることで、その空間でのやり取りを楽しく生き生きと伝えてくれていました。一人一人にカメラを寄せ映していくことも出来たはずですが、そうはせずワンカットの中に個性的で豊かな芝居・表情を詰め込んでくれたことが序盤のやり取りの面白さにも繋がっていたはずです。

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こういったカットも同様です。手前で面白いやり取りをしている二人を描きながら、その奥にもちゃんとほまれたちを映して彼女たちの反応を描く。些細な反応ですが、それと分かるくらいの距離感・絶妙な配置がとても巧く、彼女たちの関係性が見える空間と空気感を感じられるのがとても良いです。

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今回のコンテを担当されたのは渡邊巧大さんですが、こういったレイアウト・構図は他の担当話数でも見ることが出来ます。これは『タイガーマスクW』38話*1のワンシーンですが、ここでも手前に居る数人と奥の人物とで芝居が様々だったり、空間の使い方や見せ方が本当に巧いです。ワンカットの中で多人数の物語 (動き) が同時に進行しているというのと、この空間の中で彼女たちがそれぞれどういった立ち位置なのかというのもそれとなく伝わってくるようで、とても良いです。

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こういうカットも堪らないですね。前述したようなレイアウト・芝居づけで、後方に居るほまれたちの反応を描きながら、手前と奥とで温度差もあるのが画面の楽しさに繋がっています。またこのシーンでは奥に居るほまれたちに対しても続けてカメラを寄せていくカットの繋ぎが見られました*2。一つの画面に多人数を映しながら、次のカットでは奥に映っていた人物たちにフォーカスを当て寄せていくカッティングですが、こういったカッティングが要所のシーンでかなりリズムの良いカメラワークを作っていたと思います。

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特にここのカッティングは凄く良かったです。デフォルメ調の芝居とコメディ要素を含んだバスケのシーンから一転、じゅんなからほまれへ、ほまれからルールーへカメラを寄せていくことで一気に空気感が変わります。最初のカットではルールーもデフォルメ調で描かれていますが、カメラが寄ることで彼女自身の思考を象るようその実像 (デザイン) も鮮明になっていきます。3カット目でルールーのモノローグが始まるのも空気を変える一因になってはいますが、それより先にこのカッティングがあったからこそ一変してシリアスなシーンへシームレスに移ることが出来たのだと思います。

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さらに言えば、そういった多人数が映る画面からどの登場人物にもフォーカスを移していけるというのは、ひとえに “登場人物たちの視線” を描いていることにも繋がっていきます。手前に映る人を奥に映る人が見ている。そのまた逆も然りで、こういった多人数を映すレイアウトは単に空間や空気感、多くの芝居を映すだけではなく、そこから始まっていく物語の起点を描く役割をも担っていたはずです。帰宅前の教室を映したシーンなどはその最たる例で、引き気味に多人数を映したその中に “じゅんなを見つめるほまれ” の視線を加えることで、そこから一つ踏み込んだ話に物語が移ろいでいくのが分かります。こういったレイアウトはこの後も続き、そこで描かれることになる数々の視線は凄まじい感情の情報量を含んでいました。

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この辺りは全て奥から手前への視線。誰が誰を見ているのか、という点では多々交錯したものが見受けられますが、それも各々の心情を映すという意味では非常に効果的なカットです。一人帰宅するほまれを見やるルールーに関しては被写界深度を浅く、強くフォーカスを当てています。こういったシリアスな視線を交えるレイアウトから、前述したようなコメディチックな面白いレイアウトまで幅広く映しつつ、その流れをシームレスに見せてくれるのが本話における演出面 (コンテワーク) の素晴らしさの一つだったと思います。

 

加えて、この教室のシーンでは陰影を意識した画面が多く見られました。影で分断したり、影中に入れたり、光源を意識した様なカットで構成されていて、そういった画面の質感を多くの場面で選択したことが本話の良さをさらに引き立てていたと思います。おそらくどういった画面にするのかということに関してはコンテ段階で大まかに指定されていたのだとは思いますが、このコントラスト・淡い雰囲気・撮影感の良さを見るに演出処理を担当された川崎弘二さんや撮影・色指定など、この画面に至るまでのセクションを担当された方々の力も相当大きかったはずです。

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特に凄まじかったのはルールーとパップルのやり取りを描いたシーンで、ここでは前述したような陰影の演出が顕著に描かれていました。はなたちと過ごすことで色々なことを覚え、考えるようになっていたルールーですが、だからこそプリキュアを倒すという使命そのもにも迷いが生じていたのでしょう。それを示すよう描かれた影の分断が非常に効果的で、とても緊張感のある場面になっていました。

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足元を見る主観ショット。先程述べたような “視線を描く (誰を・なにを見ているのか) ” ということに紐づけるならばこういったカットもやはり意味合いは似ていて、さしずめ自分自身を見つめるような感触がこのカットにはありました。落ちる陽と徐々に迫る影から足を引く芝居が見事で、ルールーの心情と立ち位置を描いたカットとしてこれほど雄弁なものはなかったと思います。最後は影に足を踏み入れるカットで終わりますが、軸足は残したままで終わるのが良いです。踏み締める一歩が本来の使命を全うすることへの誓いなら、さながら残された足は未だ彼女の中に残る未練。そういった感情の微々たる動きを影で示唆した演出が本当に素晴らしかったです。

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また影と言えば、渡邊巧大さんは影中作画をよくやられる印象のある方で、コンテや演出としてではありませんが作画監督として参加された別の挿話ではよく影を活かした画面・作画を描かれていました*3。演出関係としての参加ではないので一概にどうのと言うことは出来ませんが、フィルム全体に対する志向として作画面からこういったアプローチがあったことに関しては余り切り離して考える必要もないのではと感じます。

 

影を意識した画面、作画を感情推移や立ち位置に投影させていたのはどの挿話も同じで、それぞれ作画と演出の方向性が本当に高いレベルで一致していた挿話ですし、こういったシーンの存在が各々のフィルムをより素敵なものへと盛り立ててくれていたのは言うまでもありません。

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直近の『タイガーマスクW』38話ではコンテも担当された上で、決意・幕開けを意図とした影中・影分断のシーンが使われています。こう振り返ると渡邊巧大さんが参加された話数では影中作画と登場人物たちの心境や立ち位置をシンクロさせている映像がそれなりに見受けられることが分かりますし、そういった挿話が今回のような演出スタイルにまで連綿と繋がっているということは一つの側面として考えることが出来るはずです。

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こういったシーンも同様ですね。影中で描かれる状況化ではネガティブな感情が渦巻いていることが多かったですし、この表現の影響でより画面が感傷的になっていたとも思います。影中作画を演出として駆使したことが登場人物たちの感情をより表層化していたことも含め、こういった見せ方がこの物語をさらに素敵なものに仕立て上げてくれていて、凄く感動できました。それこそ、一言で影中作画*4と言ってもこういった表現は簡単に出来ることではありませんから、今回のような攻めた表現を終始観続けることが出来るというのは本当に凄いことなのだと、観返しながら改めて感じることが出来ました。

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また今回の話においては手を引く、繋ぐといった手に関連した芝居もとても印象的に映りました。じゅんながあきを支えることから物語は始まっていきますが、そこから終盤に掛けて要所で描かれた手の芝居はきっと今回の話で描きたかったことを多く象徴していたのでしょう。二人が仲直りするまでの起結を手のカットで表現したこともそうですし、ほまれが二人を助ける橋渡しになっていたこともそう。閉ざされた空間内のシーンにおいては、繋いだ手を包み込むようほまれの手が配置されたりと、ここでも徹底したレイアウト主義が敷かれ、「たったワンカットでここまで感動出来るのか」とその巧さと情感の厚さにはもはや目頭を熱くせざるを得ませんでした。

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ラストシーンではルールーがキュアエールを助けるため全力で押し退けますが、ここでも描かれたのは腹部を押す手のアップショット。時に言葉より多くのものを語るのが芝居の役割でもあると常々思っていますが、このカットにはその意味が多分に含まれていたように感じます。引く、繋ぐといった動きとは正反対のものですが、そこに込められた感情はきっと同じ輪郭をもって描かれていたはずです。

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また一番感動したのはこのカット。4話*5作画監督として参加された渡邊巧大さん的にはもしかすればリベンジでもあったのかも知れません。あの時、“自分自身の未来” を掴みかけ虚空を描いたあの手が、今度は “大切な人たちの未来” を逃がさないよう力強く上空を握り締める芝居。既にキュアエトワールとして活躍しているように彼女は一度クリスタルを掴んでいるわけですが、だからこそもう逃したくはない、手放したくはないとそれを確かめるよう再びこういたカットで描かれたことが本当に嬉しかったですし、熱の籠る芝居が本当に素敵でした。

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そういった意味では、このアクションも4話の意趣返しという感じがして強く胸に迫るものがありました。坂を駆け下り成す術なく転がり落ちたあの時とは違い、ほまれはもうどこまでも自由に駆け、滑走し、飛ぶことが出来る。その象徴としてのアクションに彼女の変化と成長を垣間見れることが今回の話におけるもう一つのテーマだったのかも知れません。

 

それに加え、じゅんなとあき。そしてルールーの心情を多彩なレイアウトや陰影を駆使し描いた今回のフィルムは終始隙のない素晴らしい映像でそれぞれの物語を描いてくれていたと思いますし、そういった演出に作画の志向もが強く乗った本話はまさに名話でした。ここまで好みな作風で紡がれ、出色の挿話も度々見られた*6HUGっと!プリキュア』ですが、この16話を鑑賞できたことは一際特別な体験としてこれからも心の奥に残っていくはずです。最後になりますが、願わくばルールーが無事みんなの元へ帰ってくることを願って。素晴らしいエピソードを本当にありがとうございました。

HUGっと! プリキュア キャラクターシングル

HUGっと! プリキュア キャラクターシングル

 

*1:初コンテ回、『HUGっと!プリキュア』16話と合わせコンテ担当回はこの2話のみ

*2:左のカットから右カットへのカッティング

*3:左から『GO!プリンセスプリキュア』48話、『タイガーマスクW』4話2カット、『HUGっと!プリキュア』4話

*4:影なし作画

*5:左キャプチャの該当話数

*6:前回の15話(田中裕太演出回)も本当にすごい…!