『SELECTION PROJECT』2話の演出、向き合うことについて

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前回描かれたオーディションから一転、祭りの後の静けさを伴い始まった2話。それぞれがそれぞれの葛藤を抱える状況にあって、それを寡黙に、けれど雄弁に語ってくれるような冒頭の映像の美しさがとても素敵に映りました。青空と逆光。その相反するようで表裏一体の表現がまさしく彼女たち二人の心模様を映し出すようで、グッと惹き込まれてしまいます。ぽかんと空いた空間、レイアウトも冴えわたり "本当なら鈴音が選ばれるはずだった"と思うセイラの感情と、夢を捨て切れない鈴音の感情をしっかりと一つの風景としても捉えていました。

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そしてそんな二人が交差するAパート。特に素晴らしいなと感じたのが公園のベンチで会話をするシーンでした。鈴音の学校へセイラが押し掛けたことで始まった二人のデートですが、よもやそこに現在進行形の感情を打ち明けられる関係性があるのかと言えばそれはまた別の話。それこそアバンで描かれた逆光が示していたように、心を開くことに対して二人はまだ積極的ではないようにも見受けられました。ベンチの端と端に座る関係性からもそれは同様のことを感じ取れます。それでも、木漏れ日が差しているという状況がここではひとつ救いだったというか、ほんの少しでも互いがその心根を打ち明けようとしているのだという一種の兆しを光の表現の機微をもちいて描いていたことが、このシーンではとても大切だったのだと思います。感傷性を演出するうえでは立役者ともなる木漏れ日ですが、それだけではなく個々の感情にまで寄り添っていると感じられたことが今回の話においては強く心に残りました。

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やがて会話をしていくうちに徐々に開き始める胸の内。彼女たちの一言一言を決して溢さないように、その内に潜む本心を少しでも掬い上げられるよう丁寧に構成されていくカットとカメラワーク。使われるカットの構図パターンからして突飛な見せ方の演出があるわけでは決してありませんが、二人が心からの言葉を紡ごうとしているからこそ、じっと腰を据えたようにFIX主体で撮り続けるこのシーンはさながら二人の感情のやり取りそのものだったとも言えるはずです。互いがどういった気持ちを通し、どのような言葉を発して、それを相手がどう受け取ったのかという流れと変遷。そんな本話においては一番大切だったであろう感情の動きとその行方を映像からも強く後押しし、描いてくれていたことがとても素敵だったなと思います。

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会話が熱を帯びる程に寄っていくカメラワーク。迷いの最中に居る鈴音の些細な芝居や、意志を持ってここに来たであろうセイラの動じなさ。どこまでも対比的に、カットバック的に繋いでいくからこそ真(心)に迫るものがあるのだと思えるカット運びの迷いのなさ。

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ここも同様。俯きがちな鈴音とじっと鈴音を見つめるセイラ。ただひたすらに彼女たちの心根を探るよう繋がっていくカットの数々が本当に息を呑むほどに美しく、感傷的です。作画の秀麗さや撮影の質感、演者の芝居などすべてのフィクションの力が合わさり生まれた名シーンではありますが、それらを総括的に活かし、ここまで素晴らしいものに仕立て上げているのはやはり演出の力だと思わされたシーンでもありました。引くところは引き、寄るところは寄る。そして彼女たちの会話のテンポと時間の流れに逆らわず邪魔しないよう撮っていると感じられてしまう凄み。何度観てもこのシーンには惹き込まれてしまいます。

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別れ際のシーンでも描き方/映し方は同じなのだと思います。向き合うところから会話が始まり、鈴音の中にいまだ残る迷いを少しずつ捉えるよう、カメラを寄せていく。逆光なのは冒頭と同じ。こういったシーンでもカットを多めに使いじっくり見せてくれるからこそズシッと胸に残るものが在るというか。どちらかと言えば順光になっているセイラの方が "言いたいことは言った" 感じがよく出ているのかなとさえ思えます。

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そしてそんな鈴音の迷いが氷解していく電話のシーンでも、やはり描き方は同様です。これまでのシーン同様、劇伴を多くは使わず静けさの中彼女たちの言葉を待つという映像のスタンスが美しく機能しているというのももちろんありますが、腰を据えカメラを構え、あくまで彼女たちのやり取りの中で生まれる空気感を壊さないようにする見せ方が続けて描かれていきます。でも同じだからこそ良いというか、二人の心に耳を傾けるような映像が一話数の中で通底しているからこそより良い緊張感と感傷性が生まれていたのは間違いありません。それこそ鈴音が歌い出すまでの "間" に強く引き付けられてしまうのは、これまでも同様に描かれてきた "間*1" の存在があったからこその賜物でもあるはずです。繰り返し葛藤の最中に居る鈴音の姿を描いてきたからこそ生まれる解放感。"もう迷わなくて良いんだ" とつい言ってあげてしまいたくなるほど描かれてきた十分すぎるほどの葛藤のシークエンス。

 

それこそ歌う鈴音の姿が窓ガラスに反射していたことも、きっとその延長にある演出に違いないのでしょう。セイラと真っ直ぐ向き合えて来なかった今日という一日の中で、電話越しではあるけれど遂に向き合えた瞬間。それはセイラに対しても、自らの中に居続けていた 「歌が大好きだから」と言える自分自身に対しても。マイクアイコンに涙が落ちることまで含め、その全てが彼女がようやく向き合えたことを示す証左になり得ていたはずです。

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だからこそ再会の瞬間は晴れ渡る空の下、晴れ晴れとした表情で。逆光もなく陰もかからない、まるで冒頭とは真逆の舞台がそこには用意されていました。陽の下にしっかりとその足で立つこと、自分自身やセイラの想いともちゃんと向き合うということ。まさしくここまで描かれてきたことに対し、万感の想いを込めた "応え" となる対比的なシーンだったと思います。意図してかどうかは分かりませんが、別れ際のシーンとは立ち位置が入れ替わっているのとかも良いなあと感じます。1話ではオーディションを勝ち抜いたセイラからそのバトンが、物語の主体が遂に鈴音へと渡された瞬間。本当にドラマチックです。

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それと地続きとなるような横構図が、映像的にも最後の決め手になっているのはなんだかすごく感動しました。上手に立つ鈴音。分割フレーム的に玲那が去っていくのはこの後の話を考えればご愛嬌という感じがありますが、次の話数へ向け予感を与えてくれる意味でもとても綺麗な締めだったなあと思います。そして、そんな予感に満ちた一つの物語を讃えるように、サブタイトルの文字が浮かび上がるのがとても素敵でした。まさに文字通りとはこのこと。最初から最後まで、彼女たちの心に寄り添った本当に素晴らしい回だったなと観返すたびに強く感じました。

*1:鈴音が俯いてしまったり、迷いを明らかに醸し出していたその時間