テレビアニメED10選 2018

前回の記事同様、放映季順、他順不同、他意はありません。敬称略含む。視聴した作品からのみの選出で、選出基準はいつもと同様 「とにかく好きなED」 です。

 

 

ヴァイオレット・エヴァーガーデン / みちしるべ

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流れる月日も意に介さず、同じ場所に留まり続けた少女ヴァイオレット・エヴァーガーデン。これはそんな彼女が再び歩き始めることを描いたエンディングフィルムであり、その内側に籠る想いにそっと寄り添わすための手紙のようなものだったのでしょう。一歩一歩踏み締める姿と、握るという芝居づけ。少佐と立ち並んでいた彼女が、ただ一人自分と向き合うように佇むことの意味。茅原さんの優しい歌声も相まり、まるで世界全体が彼女を包み込んでいるような印象も受ける映像です。寡黙であり、雄弁なフィルム。想いを馳せる、という言葉がとても似合います。

 

ゆるキャン△ / ふゆびより

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主題歌の『ふゆびより』は今年長らく聴き続けたアニソンの内の一曲です*1。アコースティックのセンチな音色に儚さを感じる佐々木恵梨さんの歌声。映像との兼ね合いにより、白い吐息をも感じる質感の映像になっていました。ソロキャンパーだったリンの心に変化を与えたなでしこたち。水面に打たれる波紋はまるでそんな彼女の心模様を表しているようでグッときます。朝焼けの描写も素敵で、一人起きていたリンが皆と朝陽を迎えるコンセプトの映像がより感傷性を与えています。撮影や影の落ち方も素敵で、観聴きしているだけで心が安らぎます。

 

三ツ星カラーズ / ミラクルカラーズ☆本日も異常ナシ!

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積み重なっていく写真とその中で彼女たちが経験した四季折々の記憶。それをこうも赤裸々に描かれれば胸を打たれないわけがないのです。縦スクロールでイラストを見せていく形のエンディングですが、だからこそコマ送りの様な動きの見せ方と一度だけ差し込まれる芝居づけには、“絵が動く” という私たちが日々当たり前のように体験しているアニメーションへの感動を改めて突き付けられてしまいます。元気一杯な楽曲なのに情感がある、そんなギャップも堪りません。あと、やっぱりめばちさんの絵は本当に素適なんだよなあと、観返すたびに噛み締めてしまいます。

 

HUGっと!プリキュア / HUGっと!YELL FOR YOU

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プリキュアのハツラツとした表情と楽曲の前向きさにいつも元気を貰っています。振り付けも可愛くアイディアが盛り込まれているので何度も観返したくなりますね。背景の色合いやエフェクトがより華やかさを演出している上に、全体でのダンスパートでは目配せなどの芝居が自然に入ることで、歌って踊るという額面以上の楽しさが伝わってくるようです。プリキュアのエンディングにこれを言うのは今さら野暮な感じもしますが、ビジュアルのセルルック感とモーションの豊かさが素晴らしくいつもドキドキさせられます。「ふたりは」のフレーズを片翼に据えた作品らしく、えみるとルールーの仲睦まじさが描かれていたことには感謝。本当に大好きな楽曲、エンディングです。

 

ダーリン・イン・ザ・フランキス / 真夏のセツナ

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第7話の特殊エンディング。海辺での休息を軸に据えた話でしたが、このまま何も起こらなければと、そう思わずにはいられないほど眩しく輝く少女たちの素顔を描き出していました。楽曲のアイドルソングらしい感じは演出を担当された錦織監督の趣味全開なのではと思ってしまうほど*2。青空と逆光、特効でのフィルター掛けが夏らしさを存分に演出していたのも素敵です。一枚絵で紡がれるフィルムですが、作監田中将賀さんを初めとしたアニメーターの方々の絵をじっくり味わえるのも一興。物語としても絵としても良さの詰まったエンディングです。

 

ヤマノススメ サードシーズン / 色違いの翼

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いつも一緒だったあおいとひなたが共有する風景を季節感を伴い描いてくれていたことにまず感動しました。ですが、そんな二人であっても好きなものや考えていることは当然違い、性格だって違う。それをありのまま歌い、受け入れていくようなフィルムには本編との兼ね合いもあり、何度も救われました。秋を舞台にした本作らしい感傷と温もりを感じられるのも良いですね。表情、芝居も本当に素適。“彼女たちの物語” に対し贈られた素晴らしいアンサーフィルムです。

 

ブラッククローバー / 天上天下

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目まぐるしく動く白と黒の対称性がアスタとユノの関係・立ち位置を描いているようで面白いです。スッキリとした色合いがスタイリッシュであり、クール。そこに吉原達矢さんの色気ある作画が合わさることでとてつもない相乗効果を生んでいます。エフェクトフォルムの格好良さ、光と影のタッチ、芝居の気持ち良さ。挙げれば切りがないほどに素晴らしい映像ですが、吉原さんはこういった演出も出来たのかという驚きもあり、二つの意味で衝撃的なエンディングでした。

 

うちのメイドがウザすぎる! / ときめき☆くらいまっくす

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どれだけ遠ざけようとしても、心の奥底からは嫌いになれないんだろうと思えてしまうのがこのエンディングの良さ。楽曲の犬猿ぶりとは裏腹のどこか息の合った動き。息切れしながらでも鴨居につき合うミーシャの内心を想像したくなるのが好きなポイントです。また線のタッチや皺の感じ、作画が本当に素晴らしく演出原画を担当されている山本ゆうすけさんの存在には衝撃を受けました*3。色味も抜群で、演出家・アニメーターとしての味が強く出たフィルムにもなっていたと思います。登場人物たちの内面が表に出ているような芝居、本当に良いですよね。

 

転生したらスライムだった件 / Another colony

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江畑さんの短編フィルムはその独特な動き・芝居もそうですが、なにより物語テイストな部分とその中で描かれる前向きさに凄く惹かれてしまいます。暗く明度を落とした画面から一気に晴れ渡っていくコンセプトが堪らず、まだ本編では未登場であったオーガ族の面々のエピソードを想像させられてしまう強度がこのエンディングにはありました。厳然と横たわる物語の上に氏の好きな動き、絵、コンテワークを載せているというか。草原の上を歩く芝居はそういった要素の噛み合いが顕著に出ていて、独特な間合いの歩き芝居が心穏やかに前へ進む彼らの意思を強く感じさせてくれました。江畑さんの描かれる日常芝居も本当に好きだなと改めて実感させてくれたフィルムです。

 

SSSS.GRIDMAN / youthful beautiful

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本編とは似つかわしくない関係の六花とアカネ。ですが話が進むにつれこうあって欲しい、こうあって欲しかったと思わずにはいられず、このエンディングを観る度に胸が締めつけられました。最終回を迎えた後では解釈も色々在るのだとは思いますが、六花の目線で観た時の孤独ながら孤独には映らないラスト2カットがとても良く、そこに至るまでの回想的な構成につい感傷的になってしまいます。実写背景をベースにしたことから派生する強めな撮影効果も良く、透過光できらめきを演出する反面でラストシーンにはまた質感の違う効果が掛けられているのがエモーショナル。軽く吐息する芝居からはすっと気持ちが抜けるようなニュアンスを感じられるのも良いです。演出・原画を担当された中村真由美さんはこのエンディングで初めて知った方でしたが、絵の良さ、出し惜しみない青春の質感に楽曲解釈と本当に素晴らしいフィルムでした。あと、これは余談ですが、フェチポイント的にはマフラーと巻き込まれる髪の繊細なタッチ・作画がむちゃくちゃ好きです。

 


以上が今年のED10選となります。今年はEDに好きなものが多く他にも挙げたいと思うものが幾つもありましたが、悩みに悩んだ結果、個人的にはもうこれしかないという選出になったんじゃないかなと思います。冒頭でも書いた通り、どのフィルムも大好きでそこに優劣はありません。それぞれの作品にそれぞれの良さがるように、それぞれのエンディングフィルムが素晴らしく、心揺さぶられました。関わられた全ての方々に感謝を。今年も一年、素敵な映像体験を本当にありがとうございました。

 

*1:宇宙よりも遠い場所』の挿入歌『またね』、主題歌『ここから、ここから』と同じくらい

*2:同監督作『THE IDOLM@STER』で発表された『神SUMMER!!』(挿入された回も水着回)が脳裏を過ぎったのも含め

*3:ならさんは存じ上げていたのですが…

テレビアニメOP10選 2018

今年もこの企画に参加させて頂きます。放映季順、他順不同、他意はありません。敬称略含む。視聴した作品からのみの選出で、選出基準はいつもと同様 「とにかく好きなOP」 です。

 

宇宙よりも遠い場所 / The Girls Are Alright!

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回転し、動き出すフレームを物語の幕開けに据えた本作の根幹とも言える映像。散りばめられた兆しと少女たちの笑顔が弾けるよう描かれていく流れには、つい頬が綻んでしまいます。撮影も相まったエモーショナルな絵も多い一方で、自撮り風な女子高生らしさも顔を覗かせるのがポイント。感傷と友情の欠片を丁寧に、劇的に織り込んだまさに作品の代名詞足るフィルムになっていたと思います。

 

恋は雨上がりのように / ノスタルジックレインフォール

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タイトルバックの波紋に始まり、雨上がりのコンセプトで構成されていたであろう映像美。淡い色調にビビットな色味が重なりとても可愛らしい画面になっていました。歌詞に合ったあきらの気持ち高鳴る芝居が良く、店長との掛け合いのようなカッティングも楽曲と合っていて素敵です。アニメのオープニングでは定番になりつつある鏡面の描写も、雨上がりという言葉を冠する本作だからこそとてもフィットしています。夢の中でくらいあなたの隣に。主題歌に合った清々しいフィルムです。観て、聴いているだけでうっとりしてしまいます。

 

スロウスタート / ne! ne! ne!

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可愛いさを詰め込んで煮詰めたような、甘い空間。多彩な遊びある映像と4人の個性がとてもよくマッチしていました。ですが、ただ楽しいだけではないのが『スロウスタート』という作品の良さであり、魅力です。前へ進むこと、踏み出すことに怯えてしまう少女の一挙手一投足にしっかり目を向け、それを描くこと。そこまで織り込んだ映像であってくれたからこそ私の中に今でも鮮明としてこのフィルムが残っていたのだと思います。楽曲も良く、サビの「ne!ne!ne!」のパートが本当に好き。あとこれは余談ですが、杉田柊さんの描かれる靡き、可愛らしさ、少女性みたいなものにはいつも心動かされてしまいますね。

 

三ツ星カラーズ / カラーズぱわーにおまかせろ!

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色合いがとても印象に残ったもう一つのオープニング。やんちゃなカラーズの面々が楽しそうに画面の中を動き回るのが観ていて楽しいです。歌詞に合わせたフォント遊びや表情、芝居づけ、それぞれの私服でパーソナルな部分への含みを持たせるなど遊びが多く、音に合わせていくカッティングや色味などお洒落な映像にもなっています。主題歌を元気よく三人が歌っている、というのも好きなポイントです。

 

アイカツフレンズ! / ありがと⇄大丈夫

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あいねとみお、二人の出会いとこれからを優しく描いてくれたオープニングです。温かみある主題歌の良さもさることながらタイトルにもある『⇄』の意味をぐっと感じさせてくれる映像であったことに毎週感謝していました。手を繋ぐ、手を伸ばすというモチーフに重ねられた物語もファーストシーズンでこの作品が描いてきたことと合致します。フレンズとして、友達として希望に満ち溢れていた二人の関係が凝縮されていたのが本当に堪りません。

 

少女☆歌劇 レヴュースタァライト / 星のダイアローグ

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ミュージカルの如き曲調変化に伴って映像の見せ方も変えていくのが少女歌劇流。舞台と想いの同期という側面を存分に生かしながら、その劇的さとは裏腹の儚さも描写するなど徹底して物語をこのフィルムに焼きつけようとしていました。個々の物語と、九九期生としての物語、或いは “二人” の物語として、話を追うごとに見えてくるものが多くなる強度あるオープニングです。荘厳な幕開けからの緩急づけは観ているだけ心躍る魅力に溢れていて、もう何度観返したか分かりません。あと、逆光のカットが大好き。恰好良過ぎです。

 

はねバド! / ふたりの羽根

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快活さと陰鬱さがマッチしたリフレイン・フィルム。各々が抱える葛藤と感情を乗り越えていくように “さらにその先へ” と再び動き出すアクションカットが非常に素晴らしいです。バドミントンという競技にマッチした風を切るイメージ、力の籠り、飛び散る汗へのアプローチを微細なエフェクトで描いていたことにも驚かされました。シンプルな色合いに対して複雑な太目の線を置くことで、より力強さが強調されていたのも躍動感に拍車を掛けます。徐々に晴れていく映像の質感と少女たちの想いが重なっていくコンセプト。ラストカットの清々しいほどの青さに心揺さぶられたことを今でも鮮明に覚えています。

 

音楽少女 / 永遠少年

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一人一人の個性を描きながら、彼女たちが今まさに歩んでいる道のりをそっと覗き込むような映像であったことがとても素敵でした。音ハメを重視した構成ながらその一音一瞬に彼女たちの輝きが映り込んでいくのが素晴らしく、特に物語終盤はこのOPを観る度に胸へ迫るものがありました。表情づけも巧く、合間に挟まれるカットの良さにドキッとさせられてしまうのも醍醐味。全体的にエモーショナルなフィルムになっているのがまた良いなと感じます。

 


ヤマノススメ サードシーズン / 地平線ストライド

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ヤマノススメ』という作品のこれまでのことをここまで実直に描いてくれたことに胸を揺さぶられました。繋がれた二人の手、積まれた写真の中に含まれるあの日の山頂の景色。オープニング冒頭、あおいがしっかりと靴紐を結ぶように、彼女たちがここまで歩んできた道のりを克明に記してくれたことには感謝しかありません。吹きあがる紅葉と哀愁を帯びるほのかの表情も素晴らしく、繊細なタッチがより感傷的に彼女を彩っていました。楽しげな主題歌である反面、どこか懐かしく感慨深さに浸れる映像であったことがとても嬉しかったです。全体的に絵が良過ぎたのもあり、どの子も本当に素敵な表情を見せてくれました。

 

青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない / 君のせい

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青さと夕景。儚さや青春性の代名詞のようなカットが多分に含まれていたことにも本作を観ればより意味合いを感じられます。一つのフレームに一人までしか映さない理由もおそらくは今作の群像性がため。バンドサウンドに合わせ紡がれていくカッティングの爽快感がよりそういったイメージに拍車を掛けていて、まさに音楽、画面、物語が一体となったオープニングだと思います。麻衣先輩が指先で撃ち抜くカットがお気に入り。タイトルがパズルのように入れ替わっていくのも本作の謎解きめいた話と主題の多さを描いているようで好きなポイントです。

 

 

以上が今年のOP10選となります。今年は物凄く悩みました。具体的な作品名は避けますが、他にも凄く好きなOPがあり本当に苦渋の決断でした。ですが、終わってみれば例年通り自分の好きが詰まった選出になったのではないかなと思います。関わられた全ての方々に感謝を。今年も一年、素敵な映像体験を本当にありがとうございました。

『青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない』11話 終盤シークエンスの芝居と演出について

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麻衣さんとかえでの楽しげな会話も束の間、続くシーンの冒頭でガラリと変化した空気と質感には思わず息を飲みました。例えるなら、ここまで平熱を保ち続けていた*1フィルムがついに熱を帯びだしたような。ガラス越しに見つめる自身との対峙、その視線を捉えるレイアウト、カットの運び。さらには夕暮れの感傷性とコントラストの強さが梓川かえでという一人の少女の物語を強く浮かび上がらせているようでとても引き込まれました。

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また、そういった質感の変化は芝居の領分においても同様であり、この時・この場所における彼女の芝居を繊細に描くということにはやはり大きな意味があったように思います。それは、これまでも節々で描かれてきた “外に出る” 行為のハードルの高さを鑑みた上で、その壁に直面している少女の心と動きをシンクロさせるということにも繋がっていくからです。可愛らしい服を着ることで少し上げた熱と、それとは表裏一体でもある緊張や不安。それを垣間見せていくことがこのシーンではテーマとして据えられていたように感じます。

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それはこういったカット一つとっても同じことです。画面内の多くがセルで描かれることによる “動くかも知れない” という高揚・緊張感が “動き出すかも知れないかえでの物語” としての役割をも果たしています。咲太が外に出るための靴を引き出すという行為から描かれる “後押しをする” イメージも合わさったとても印象的なカットです。ですがその反面、履き慣れていない靴をうまく履けない、つっかえてしまうという芝居づけが今度は後ろ向きなイメージを示してくる。この期待と不安の見せ方がかえでや咲太の心情に寄り添っているように映り、とても良いのです。

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線、影によって強く抱きしめていると分かる皺の風合い。外に出たいという想いと、出たくないという想いが混在したかえでの心情が強く浮き彫りになっていて、作画面からの強い心情へのアプローチが続けて描かれていきます。

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眉間への皺寄り。勢いよくストッパーを入れることで揺れ、翻る裾。かえでの苦渋の想いと、その想いに応えるよう足先に力を込める咲太からは互いの関係性を感じられます。ストッパーのカットは足元だけの描写で留めることで、かえでから離れないよう足先だけを玄関から出しているようにも見受けられる上に、画面外に映る二人の姿を想像させてくれる素晴らしい芝居づけです。

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そして、扉を開けた直後に映る俯瞰ショット。夕暮れによるコントラスト強めの質感はここでも意味を帯び、二人の行く手を陰で覆います。長回し気味のT.Bでこのカットを映すことで扉の先にあるネガティブなイメージをたっぷりと演出していたのも良いです。ですがほんの少しだけ陽の当たる場所があるという画面設計が物語を少し彩ってもいたのでしょう。高揚や期待、緊張や不安という二つの心情を描いてきた物語に相応しい二つの可能性。踏み出すことへのイメージショットとして映されたであろう横構図も含め、ここが物語の分岐点であることを非常に印象深いものにしてくれています。

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そして、そのほんの少しの明かりの中に佇むかえでとそれを映す足元のショット。兄の背中越しからではなく自分自身で浴びる光と、それ故に映える順光表現。前段で触れたほんの少しの陽の当たる場所を活かしたレイアウトが非常に効いていて、絵としてとても情感を感じます。一つ一つのカットが物語的であり、心情を多分に含んだ描写だったと言えるはずです。

 

またこの作品がこれまでも続けてきたように、泣きの芝居とそれを取り巻く見せ方がとても素敵でした。抱き合う二人を寄りで撮り続けるのではなく最後はT.Bでカメラを引き、今だけはこの場所を二人だけの空間にしてあげる優しさ。そういった見せ方にはどうしたって胸を打たれてしまいますし、感情的な描写に静観としてスポットを充て続けた本作らしさが非常によく描かれ、演出されていたシーンだったと思えました。

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シーンは切り替わり、今度はかえでが自ら扉を開き兄と向き合います。その他にも回想カットは幾つか差し込まれましたが、この芝居をこの距離感で撮ってくれたことにどうしようもないほど良さを感じてしまいました。くるっと向き合う芝居が心の軽さを感じさせてくれます。

 

もちろん、ラストシーンで描かれたように二人にとっての問題はまだ残ったままですが、一筋縄では解決出来ない複雑な想いの重なりを “思春期症候群” と呼ぶのが本作の味。その内にある壁を一つでも乗り越えることが出来たのですから、今はその余韻に浸っていたいです。彼女たちの未来が良きものであることを願いたくなる、とても素敵な挿話でした。*2

*1:この話数の

*2:サムネ画像参考:

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