テレビアニメED10選 2019

今年もこの企画に参加させて頂きます。放映季順、他順不同、他意はありません。敬称略含む。視聴した作品からのみの選出で、選出基準はいつもと同様 「とにかく好きなED」 です。

 

ぱすてるメモリーズ / Sparkle☆Power

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遊び心のあるトランジションにふくよかなフォルム、爽やかな楽曲にフェティッシュな仕草を含ませる大胆さがすごく素敵です。さらっと見せる芝居の一つ一つが巧く、コンテ演出、作監原画までをこのEDでこなした藤井慎吾さんの凄味を改めて突きつけられるようでした。えっちなんだけど、可愛らしさが勝つのはひとえに楽曲のパワーや色味、そして少女性を含む仕草の賜物。レイアウトの良さなども堪らなく、非常に素晴らしいバランスで構成されたショートムービーだったと思います。大好きです。

 

ブギーポップは笑わない / Whiteout

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作中でもそうであったように唐突に表れるブギーポップの不気味さ、遍在性をエンディングという短い映像の中で凝縮し、表現し切っていたのが素晴らしかったです。とても静かで静止したような世界の中だからこそ、ちょっとした仕草、靡きが映えるというのもまた前述した作品性に寄与してのことなのだと思います。始まりと終わりの浜辺、まるで白昼夢のような間奏に佇むブギーポップの正体。色味、撮影も含め、一つのフィルムとしての統一感、完成度が凄まじかったです。こちらのコンテ演出、原画も斎藤圭一郎さんが一人で役職をこなしています。本編でも演出を担当されていますが、こういった日常芝居を盛り込んだ閑静な斎藤さんの映像づくりはとても素敵だなと感じています。

 

かぐや様は告らせたい〜天才たちの恋愛頭脳戦〜 / チカっとチカ千花っ♡

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第3話で流れた特殊エンディング。この映像を初めて観た時はまさしく度肝を抜かれました。コンテ演出、原画を担当された中山直哉さんはロトスコ―プ技術を使いこのパートを描かれたと仰っていましたが、リアル度合の高いダンス芝居とコミカルでアニメ的な表情を織り交ぜ、実写参考からうまくニュアンスを拾いこれほどまでの動きを完成させるのはまさに感嘆する他ありません。ほぼ定点でのダンスエンディングというのは近年でも『涼宮ハルヒの憂鬱』を筆頭に定期的に更新されているパターンではありますが、背景に溶け込んだソファーや、アイテムを使ったりとアイディアに溢れていたのもまた堪らないポイント。藤原千花という登場人物の性格上、こういうことやりそうだなと思わせる映像であったこともなんだか嬉しかったです。個人的には後ろを振り向く時のスカートの翻りが大好き。最高のフェチ靡きです。

 

私に天使が舞い降りた! / ハッピー・ハッピー・フレンズ

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オープニング同様、観ているだけで楽しくなり、踊りたくなってしまうエンディングです。元気一杯に歌われる楽曲の素敵さや、つい口ずさんでしまいたくなる「ハッピハッピフレンズ」のフレーズなどもはや好きになれる要素でしか構成されていません。映像自体はワンカットのみで、尖った演出でどうこうするというタイプのエンディングではありませんが、なにせこれは可愛らしい5人の歌唱と仕草をしっかりと見せるためのフィルム。だからこそ、それでいいのでしょう。コンテ演出を担当された桒野貴文さんは今回、背景・撮影も兼任。元々撮影監督などの立場で多くの動画工房の作品をけん引してきた方です。装飾の可愛らしさや、画面構成は桒野さんの手腕なのかなと感じています。パカパカした芝居も本当に可愛い。すべてが可愛すぎです。

 

盾の勇者の成り上がり / きみの名前

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尚文とラフタリア、二人の境遇と出会いを描いた短編としてとても素敵なエンディングでした。全体的に淡いタッチで描かれた映像でありながら、時に強いコントラストと暗い質感で描かれるのは彼が抱いた感情がゆえ。それでも、優しいメロディラインと歌詞が合いまり、次第にほぐれていくような実感を持てたことは、本編を観てつらさを感じてしまっていた自分にとって、まさに救いでした。どれだけつらい物語が描かれていたとしても、「それでもーー」と反語をもってその背中を押してくれるエンディングの存在はもうそれだけで有難いのです。忌み嫌われる尚文の盾を優しく包み込むラフタリアの笑顔。その構図が指し示す意味は余りに大きかったのではないでしょうか。心から素敵だと思えたエンディングです。

 

ひとりぼっちの○○生活 / ね、いっしょにかえろ。

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もうイントロのメロディを聴くだけで泣きそうになってしまうのですが、それほどまでに愛おしいと思わせてくれたショートムービーです。ぼっちの足元のアップショットから始まる意味は余りにも大きく、まるで彼女が踏み締める一歩一歩がこの物語の礎なのだと思い知らされるようでした。彼女たちが歩くのをフォローしていく、というのが構成の大部分を占めているのですが、話が進むにつれ友達となっていく子たちがフレームを飛び出して会いに来るというのがまた涙のツボ。それぞれが自らの心の内を飛び出す意味でも、ぼっちに友達が出来るという意味でも、ギミックとして本当に美しいなと思わされました。楽曲も素敵。一緒に帰れるということが、もう友達であることの理由なのかも知れません。『爆笑ぼっち塾 校歌』の特殊エンディングと最後まで悩んだのですが、以上の理由からこちらに。

 

 

みるタイツ / True Days

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身体にテロップを貼り付ける、というのは確か『To LOVEる』のOPが原体験で、本当に大好きな見せ方なのですが、本作品でもそれを観れたことがとても嬉しかったです。脚を駆使したフェティッシュさを取り込むのも本作らしいアイディアで、ばたつく脚や足の表現は観ていて堪らないものがあります。色トレスを使い実線を排すことでより色味を均一化し、淡い感じにしているのもフィルムが柔らかく感じられとっても好きです。コンテ演出を担当されたのは監督も務められた小川優樹さんですが、こういった表現は同監督作の『大家さんは思春期!』OPでも同様の見せ方が使われています。あちらは演出を吉原達矢さんが担当されていますが、監督作を通じ演出が引き継がれていっているような感じも受けて少し嬉しくなってしまいました。

参考記事:テレビアニメOP10選 2016 - Paradism


キラッとプリ☆チャン / じゃんけんキラッと!プリ☆チャン

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一人のプリチャンアイドルとしてここまで懸命に歩み続けてきた桃山みらい。その瞳に輝く流れ星はきっと彼女の憧れをもそこに映し出していたのでしょう。けれど、そんな彼女の「やってきた」ことを追い掛け続けてきた少女が居たことを伝えるエンディングテーマには何度感傷に浸らされたか分かりません。元気で可愛らしい表現やメロディの中に確かな感情が描かれていくのは、それこそプリチャンという作品がずっと大切にしてきたテーマ性なのだと思います。だからこそ、そういった要素がこのエンディングに凝縮されていると思えただけでもう嬉しくならないわけがないのです。綴られていく一枚絵の良さと物語性も拍車を掛け、本当にこの作品をさらに前へ推し進めてくれたエンディングだったと思います。

 

ライフル・イズ・ビューティフル / 夕焼けフレンズ

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一人部室で眠っているひかりの周りに仲間が集まってくる、という大きなフィルムコンセプトがとても素敵です。部室で遊び帰る、ただそれだけのことを青春と呼ぶんだと、まるで突きつけられるようでした。撮影の良さや、レイアウトの巧さもそういった感傷性に拍車を掛けてくるのがまた堪りません。コンテ演出、作画を江畑諒真さんが担当。作画における秀でたグラビティコントロール表現が氏の凄味でもありますが、起き上がるひかりの繊細な指先表現に江畑さんはこういう芝居も素敵に描かれる方だったことをまざまざと思い起されてしまいました。それがまた嬉しく、芝居の余白に情感を宿らせることが出来る巧さに感動を覚えました。

 

炎炎ノ消防隊 / veil

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バンドテイストなメロディに音ハメしながら紡がれていく一枚一枚の絵が余りにも美しく、情感があり、素敵でした。作品自体をまだ序盤までしか観れていないのもあり、アイリス絡みの話に関しては言及できませんが、それでも彼女の生い立ち、バックボーンを強烈に、また寡黙に想像させるという意味ではこれ以上の映像はないように感じました。逃げ惑う幼少期のアイリス。一度寄ってからの走り芝居はまさしく圧巻で、リピート作画ではない、まだらな手の動きがその必死さと恐怖心をさらに駆り立て観ていて非常に痛ましい気持ちにもさせられました。手のフォルムや煽情的なカットなど、ところどころフェティッシュなパーツやカットが入るのも映像全体を少し柔らかくしている感じがして、とても良いです。コンテ演出、原画、色彩、背景まで一手に担当されたのは紺野大樹さん。色の良さ、圧倒的な絵の巧さ、そして作画、物語と何拍子も揃った最高のエンディングだったと思います。素晴らしいです。

 

以上が今年のED10選となります。OPに引き続き大分悩みましたが、終わってみれば例年通り自分の好きが詰まった選出とになりました。本編とはまた違う魅力の詰まった短編アニメーション。それでいて物語により深くまで潜らせてくれるものがあったり、楽しいを詰め込んだものがあったりと、たくさんの感情をもたらしてくれるエンディングって本当に良いものですね。最後に、関わられた全ての方々に感謝を。今年も一年、素敵な映像体験を本当にありがとうございました。

テレビアニメOP10選 2019

今年もこの企画に参加させて頂きます。放映季順、他順不同、他意はありません。敬称略含む。視聴した作品からのみの選出で、選出基準はいつもと同様 「とにかく好きなOP」 です。

 

私に天使が舞い降りた! / 気ままな天使たち

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観ているとこちらまで踊りたくなってしまうような、本当に可愛らしくて楽しいオープニング。クラップの心地良さと歌詞・音ハメもさることながら、遊び心満載なテロップ芸*1にも心躍らされます。オープニングセレモニー的な楽曲も素敵。可愛らしい女の子たちの可愛い仕草がたくさん観れるのがとにかく幸せで、大好きでした。

 

ぱすてるメモリーズ / Believe in Sky

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白を基調としたフィルムコントロール。テロップが載ることでカッチリと嵌る大胆な空間の使い方や、白一色のBGだからこそより活きる彩度の高い配色・色トレス処理など多くの要素がクールに決まっています。楽曲の爽快さと、アクションパートの絡みも最高ですし、とにかくレイアウトが格好良いです。毎回、観ていてワクワクさせられたフィルムでした。また、最後に青空が描かれていくのも素敵です。失われていく作品たちとの記憶を救うというコンセプト的にも、白基調から一面青への変遷はグッとくるものがあります。

 

MIX / イコール

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一瞬の輝きを捉えるような臨場感あるカットの数々。本編もさることながら、ここで描かれるスイング・スロー・スライディングといった野球周りの作画も非常に見応えがあります。フィルムの青さと陽射し差す透過光の滲みはまるで彼らの青春を色濃く彩るようで、この映像だけでも胸を打つものがあります。登場人物たちの関係性にもそっと触れるような構図も情緒的。カッティングも良く、何度でも観たくなるオープニングです。

 

ぼくたちは勉強ができない / セイシュンゼミナール

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各ヒロインにスポットライトを当てつつ、それぞれが抱く憧憬にまで触れていく素晴らしい群像的オープニングです。勉強をすることが最終的な目的ではない本作にあって、けれど勉学に励むことがあらゆる想いへの近道になる物語のロジック。そんなテーマ性を組み込んだ映像はまさに圧巻で、だからこそ筆を持つ、参考書を開くといった机に向かう所作の一つ一つに情感は宿るのだと思います。あらゆるフェティシズムを内包しながら爽やかに終わるのも素敵。サビに入り次々描かれていく芝居作画にはもう感嘆の溜息しか出ませんでした。

参考記事:『ぼくたちは勉強ができない』OPについて - Paradism

 

盾の勇者の成り上がり / FAITH

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尚文とラフタリアが歩んできた道のりを反芻せざるを得ない、まさに物語を圧縮した短編とでも言うべき映像。いつだって彼の側には彼女が居て、彼女の側には彼が居た。それを痛感させてもらえることが、私にとってはもう喜びでしかないのです。尚文はもう独りではないと感じられるカットの数々、色づく世界、その一つ一つが感傷的でとても優しいものであったように思います。駆け回るような凄まじいアクションカットの連続、変則的な広角カットなど切れのある絵と動きが映像を盛り立ててくれていたのも堪りませんでした。ラフタリア、フィーロたちが下らからせり上がってくるカットは物語的にも作画的にも大好きです。

 

キャロル&チューズデイ / Polly Jean

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二人でならどこまでも、いつまでも一緒に歩んでいけると思えるのがただただ素晴らしいです。PVチックであり、絵画的。決して大袈裟ではなく全てのカットから絵の良さが溢れ出していました。撮影・色味・ライティングが特に素晴らしく影を使った遊び心ある芝居に物凄く惹かれました。楽曲も素敵ですし、このオープニングを観ているといつの間にか感傷的な気分にさせられてしまいます。この作品では一つ目のオープニングとどちらにするか少しばかり悩みましたが、単純に好きなカット、絵が多かったとかそんな些細な差でしかないような気がしています。

 

アサシンズプライド / Share the light

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一つ一つの音に合わせるような小刻みなカッティングが非常に心地良く、視覚体験としても繰り返し観たくなる快感に溢れていました。映像表現のアプローチも面白く、パキっとした影づけなど情報量の少ない画面もあれば、その逆も然りと、撮影やカット構成の振り幅がかなり大きいのが魅力です。でもそれが散漫とせず、一つに纏まっている。複雑なメロディラインだからこそといのもあるのだとは思いますが、音へ寄せる多彩なアプローチの発想とそれを表現し切る手腕には、ただただ舌を巻くばかりです。前半のサビと後半のサビとで芝居を加えたり、少しだけ印象を変えたりと、まさに多岐に渡る表現で構成されたフィルム。もう最高です。

 

ポケットモンスター / 1・2・3

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初代ポケットモンスターの楽曲を彷彿とさせられるフレーズや、曲のわちゃわちゃしたテンションを映像からも盛り立ててくれていたのが非常に素晴らしかったです。ポケモンやサトシたちの表情、芝居の豊かさにアクションの大胆さ。そしてなによりダンスパートの面白可笑しさ。楽しいを煮詰めたような映像なのに、なぜか観終えると感動して泣きそうになってしまうのはまさしくアニメーションの力なのだと思います。最後のカットに線画が混ざっていたことへの感動も、きっと同じことなのでしょう。それはまさしくアニメーションへ焦がれ、作画というものに惚れ込んでいった日々の記憶を走馬灯のように彷彿とさせられた瞬間でした。

 
キラッとプリ☆チャン / キラリスト・ジュエリスト

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タイミング・ポージング・表情。そのどれをとっても素晴らしいとしか形容できない桃山みらいのダンス作画ですが、そんな彼女のパートに驚かされたのも懐かしく、今では毎話彼女の笑顔から元気を貰っています。他にもダンスパートが多く、観ていて本当に楽しいオープニングですが、この作品が積み重ね描いてきたことが凝縮されていたこともこのフィルムを好きになった理由でした。それは、今度はあなたの番!と言わんばかりの芝居・コンテワークをもって虹ノ咲さんが描かれていたことに他なりません。みらいの振り向き芝居*2に呼応するよう、ふわっと浮く前髪。その奥から覗く前を見据えた瞳。そのすべてにこの作品が描き続けてきた「やってみる」ことへの憧れが詰まっているようで強く感動させられてしまいました。あわよくば彼女にも善き未来がーー。そう願わずにはいられないフィルムでもありました。

 

ちはやふる3 / COLORFUL

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これまでの物語を振り返るよう描かれた強烈なフラッシュバックはおそらく、ちはやの中に溜まり続けた多くの感情や想いそのものでもあったのでしょう。彼女が見てきたもの、感じてきたことがどんどんと映像の中で繋がり、息を吹き返していくイメージ。バレットタイム的な作画で札を取る瞬間を力強く描いていたのは、そういったものの集結が競技カルタにおける決め手の一瞬に宿るからなのだと思います。一人の少女が背負ってきたもの、その半生を彩る意味でも余りに鮮烈であったオープニングです。バックショットなどエモーショナルなカットが多いのも、いよいよここまで来たことをまざまざと見せつけられるようで思わず唸らされました。本当に素晴らしいです。

 

以上が今年のOP10選となります。今年は楽曲ですごく惹かれたものなどもあり、最後の詰めで大分悩みましたが、それ以外は割とすんなり決まったような気がしています。終わってみれば例年通り自分の好きが詰まった選出になりました。本編とはまた違う魅力の詰まった短編アニメーション。それでいて物語を圧縮するよう多彩に描かれるオープニングって本当に良いものですね。最後に、関わられた全ての方々に感謝を。今年も一年、素敵な映像体験を本当にありがとうございました。

*1:まるで石浜さん演出の『かみちゅ!』OPを連想させられるような

*2:この芝居がめちゃくちゃ良い...!!

『空の青さを知る人よ』の演出と青さについて

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長井龍雪監督作品におけるパキっとした影づけ、目にかかる影、影中の表現。それは往年の作品から続く “長井監督らしさ” でありながら、その中で描き続けてきた物語の象徴としてもその存在を印象づけてきました。鬱屈した感情、心に溜まるもの。それらをライティング*1から表現し描くのは、ひとえに言葉として打ち明けられない彼・彼女たちの想いを汲み取れる表現でもあるからなのだと思います。もちろんアニメという映像媒体である以上、ビジュアルとしての良さを突き詰めた結果そうなった側面はあるのだと思いますが、関係性や心情を物語の軸として描いてきたのが超平和バスターズという作家陣の軌跡です。だからこそ、色彩や撮影、レイアウトなど、それらが合致することで生まれるライティングの趣きの中には、やはり物語的な意図が深く根づいているのでしょう。

 

それは今作でも同様であり、影づけが顕著に映えるシーンの多くが印象的なものとなっていました。まるで、描かれる影こそがその人たちの心の内側そのものであると言わんばかりの絵力。それは冒頭から終盤まで貫かれ、どこまでもこの作品が登場人物たちの心に寄り添ったものであったことの証左にすら成り得ていたのです。

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そういった演出は、瞳なかばでフレームを切るレイアウトにも通づるものがあるはずです。言葉として実直に伝えられない想いがあるからこそ、絵として、表情として伝える。そのためにどう見せればそこに感傷性や想いが宿るのか。そんな思いを突き詰めたものが、いわゆる前述した長井監督らしさでもあるのでしょう。映像の先にあるもの。その先に描かれている人の葛藤。それを語り過ぎないように言葉数は減らし、けれどそこへ触れることが出来るように映像から訴えていく。その絶妙なバランスに惹きつけられてしまうのが長井監督作品の演出ロジックなのだと思います。

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物語前半部の回想シーンでは広角カットなどを使いお堂の広さを見せていた反面、現在を描くシーンでは狭く息苦しいカット*2が多くなっていくのも印象に残ります。まだ幼かったあおいにとって、ありし頃のお堂は活気に満ちとても広く夢に満ち溢れていたのかも知れませんが、今は誰にとってもそうではなくなってしまったことが描かれていました。それこそタイトルの枕詞として劇中にも登場する「井の中の蛙 大海を知らず」の一文。それを象徴するようなレイアウトも多く、やはりビジュアルの側面からも彼女たちの現状や心情は絶えず描かれ続けていくのです。

 

誰しもが誰しもに囚われ、その想いからも、この場所からも抜け出せなくなっていく現状。けれど、そういった囚われた感情をどう救い上げてあげるのか。その終着地の在り方が今作は一際違うものであったように感じられたのです。

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それは、有り体な言葉で言ってしまっていいのなら青さ、縦方向への動き。それに尽きます。特に、等身大の青春を描いてきた長井監督作品*4において、走るシーンなどから感情の昂ぶりを表現しダイナミックさを演出する手法*5はこれまで幾度も描かれてきたことですが、登場人物たちが上空へ舞い上がる縦のアクションが盛り込まれていたことは余りにも鮮烈でした。

 

想いに囚われ続けたからこそ生まれた感情や、誰かを愛する気持ちをまるで祝福するよう捉えていく終盤のシーン。打ち上がる二人、清々しいまでの青さ、煌めくレンズフレア。そして、なにより本作がそういったカットに託していたものは “愛していると想う” ことへの肯定に他ならなかったのだと思います。なぜなら、この物語における “空の青さ” とは心の内に灯る熱情と同義として考えることが出来るからです。

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それは、本作があおいの失恋を描き切った瞬間にその幕を閉じたことにも繋がっていきます。二人で青空を駆けた瞬間の美しさを思い出さずにはいられない煽りのレイアウト。躍動する縦のアクションとは対比的に描かれた高く跳ぼうともがく、あおいの動き。それぞれのカットが “彼女の青春” の幻影を追い掛けるよう描かれていたことは言うまでもありません。あおいにとっては “しんのと二人で舞い上がった秩父の空” こそが青春の象徴であり、憧憬。だからこそそれを追い掛けてしまうというのはむしろ必然で、その過程で描かれた “空の青さと、その色の鮮やかさ” はもはや彼女が抱く恋心のモチーフとしても描かれていたのです。

 

それは終盤、立ち止まった彼女が涙を流しながら空を見上げ、「空、クソ青い」とつぶやいたこととも同じ輪郭をもって語れることなのだと思います。恋仲ばに散った想いを抱え見つめた空の青さと、彼女の想いの代名詞とも呼べるシーンにて表現された空の青さ。そういったイメージの連鎖と、その中で情動に身を任せ走り続けた少女のことを、きっとこの作品は『空の青さを知る人』と呼ぶのでしょうし、翻りそれは『誰かを愛することを知る人』へと繋がっていくのでしょう。

 

そして、そんな空の青さをあおいが知った瞬間にこの物語が幕を閉じたこと、あの空の青さに近づいていくようなアクションが描かれたことは、きっと “愛することを知った” 彼女に対し、「あなたは美しい」と語り掛けるためのものでもあったはずなのです。愛する人に好きな人が居るーーそれでもと踵を返し、愛する人の元に向かい好きだと言えること、その想いの果てに駆け抜け、泣き、見上げることのできるあなたの強さを描き切ったこと。そういった行動や感情のすべてを祝福することが、『空の青さを知る人よ』という映画が携えていたテーマの一つだったのだと思います。

 

これまで長井監督が手掛けてきた青春劇のように、囚われた想いから脱却するだけが青春と呼ばれるわけでは決してないんだと。その想いを抱けたこと、そしてこれからも抱き続けていくであろうことを正面から美しいと形容し、あなたはそのままでいいんだと語り掛けてくれる作品の優しさ。「今までの長井監督作品で一番好きだ」と感じてしまったのも、そんな物語の慟哭に強く胸を打たれたからなのかも知れません。なにより、少女たちの精一杯の生き方に心揺さぶられる経験は何度味わっても刺さるもの。そういったことも含めて、本当に忘れられない作品になったと思います。

「空の青さを知る人よ」オリジナルサウンドトラック

「空の青さを知る人よ」オリジナルサウンドトラック

 

*1:陰影表現

*2:フレーム内フレームや境界カットを使い意図的に緊張感と分断を生んでいたカット

*3:サムネ参考画像:f:id:shirooo105:20191019133603p:plain

*4:とらドラ!』『あの花の名前を僕たちはまだ知らない。』『あの夏で待ってる』など

*5:走る人物をフォローし続けるなど