テレビアニメOP10選 2018

今年もこの企画に参加させて頂きます。放映季順、他順不同、他意はありません。敬称略含む。視聴した作品からのみの選出で、選出基準はいつもと同様 「とにかく好きなOP」 です。

 

宇宙よりも遠い場所 / The Girls Are Alright!

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回転し、動き出すフレームを物語の幕開けに据えた本作の根幹とも言える映像。散りばめられた兆しと少女たちの笑顔が弾けるよう描かれていく流れには、つい頬が綻んでしまいます。撮影も相まったエモーショナルな絵も多い一方で、自撮り風な女子高生らしさも顔を覗かせるのがポイント。感傷と友情の欠片を丁寧に、劇的に織り込んだまさに作品の代名詞足るフィルムになっていたと思います。

 

恋は雨上がりのように / ノスタルジックレインフォール

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タイトルバックの波紋に始まり、雨上がりのコンセプトで構成されていたであろう映像美。淡い色調にビビットな色味が重なりとても可愛らしい画面になっていました。歌詞に合ったあきらの気持ち高鳴る芝居が良く、店長との掛け合いのようなカッティングも楽曲と合っていて素敵です。アニメのオープニングでは定番になりつつある鏡面の描写も、雨上がりという言葉を冠する本作だからこそとてもフィットしています。夢の中でくらいあなたの隣に。主題歌に合った清々しいフィルムです。観て、聴いているだけでうっとりしてしまいます。

 

スロウスタート / ne! ne! ne!

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可愛いさを詰め込んで煮詰めたような、甘い空間。多彩な遊びある映像と4人の個性がとてもよくマッチしていました。ですが、ただ楽しいだけではないのが『スロウスタート』という作品の良さであり、魅力です。前へ進むこと、踏み出すことに怯えてしまう少女の一挙手一投足にしっかり目を向け、それを描くこと。そこまで織り込んだ映像であってくれたからこそ私の中に今でも鮮明としてこのフィルムが残っていたのだと思います。楽曲も良く、サビの「ne!ne!ne!」のパートが本当に好き。あとこれは余談ですが、杉田柊さんの描かれる靡き、可愛らしさ、少女性みたいなものにはいつも心動かされてしまいますね。

 

三ツ星カラーズ / カラーズぱわーにおまかせろ!

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色合いがとても印象に残ったもう一つのオープニング。やんちゃなカラーズの面々が楽しそうに画面の中を動き回るのが観ていて楽しいです。歌詞に合わせたフォント遊びや表情、芝居づけ、それぞれの私服でパーソナルな部分への含みを持たせるなど遊びが多く、音に合わせていくカッティングや色味などお洒落な映像にもなっています。主題歌を元気よく三人が歌っている、というのも好きなポイントです。

 

アイカツフレンズ! / ありがと⇄大丈夫

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あいねとみお、二人の出会いとこれからを優しく描いてくれたオープニングです。温かみある主題歌の良さもさることながらタイトルにもある『⇄』の意味をぐっと感じさせてくれる映像であったことに毎週感謝していました。手を繋ぐ、手を伸ばすというモチーフに重ねられた物語もファーストシーズンでこの作品が描いてきたことと合致します。フレンズとして、友達として希望に満ち溢れていた二人の関係が凝縮されていたのが本当に堪りません。

 

少女☆歌劇 レヴュースタァライト / 星のダイアローグ

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ミュージカルの如き曲調変化に伴って映像の見せ方も変えていくのが少女歌劇流。舞台と想いの同期という側面を存分に生かしながら、その劇的さとは裏腹の儚さも描写するなど徹底して物語をこのフィルムに焼きつけようとしていました。個々の物語と、九九期生としての物語、或いは “二人” の物語として、話を追うごとに見えてくるものが多くなる強度あるオープニングです。荘厳な幕開けからの緩急づけは観ているだけ心躍る魅力に溢れていて、もう何度観返したか分かりません。あと、逆光のカットが大好き。恰好良過ぎです。

 

はねバド! / ふたりの羽根

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快活さと陰鬱さがマッチしたリフレイン・フィルム。各々が抱える葛藤と感情を乗り越えていくように “さらにその先へ” と再び動き出すアクションカットが非常に素晴らしいです。バドミントンという競技にマッチした風を切るイメージ、力の籠り、飛び散る汗へのアプローチを微細なエフェクトで描いていたことにも驚かされました。シンプルな色合いに対して複雑な太目の線を置くことで、より力強さが強調されていたのも躍動感に拍車を掛けます。徐々に晴れていく映像の質感と少女たちの想いが重なっていくコンセプト。ラストカットの清々しいほどの青さに心揺さぶられたことを今でも鮮明に覚えています。

 

音楽少女 / 永遠少年

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一人一人の個性を描きながら、彼女たちが今まさに歩んでいる道のりをそっと覗き込むような映像であったことがとても素敵でした。音ハメを重視した構成ながらその一音一瞬に彼女たちの輝きが映り込んでいくのが素晴らしく、特に物語終盤はこのOPを観る度に胸へ迫るものがありました。表情づけも巧く、合間に挟まれるカットの良さにドキッとさせられてしまうのも醍醐味。全体的にエモーショナルなフィルムになっているのがまた良いなと感じます。

 


ヤマノススメ サードシーズン / 地平線ストライド

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ヤマノススメ』という作品のこれまでのことをここまで実直に描いてくれたことに胸を揺さぶられました。繋がれた二人の手、積まれた写真の中に含まれるあの日の山頂の景色。オープニング冒頭、あおいがしっかりと靴紐を結ぶように、彼女たちがここまで歩んできた道のりを克明に記してくれたことには感謝しかありません。吹きあがる紅葉と哀愁を帯びるほのかの表情も素晴らしく、繊細なタッチがより感傷的に彼女を彩っていました。楽しげな主題歌である反面、どこか懐かしく感慨深さに浸れる映像であったことがとても嬉しかったです。全体的に絵が良過ぎたのもあり、どの子も本当に素敵な表情を見せてくれました。

 

青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない / 君のせい

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青さと夕景。儚さや青春性の代名詞のようなカットが多分に含まれていたことにも本作を観ればより意味合いを感じられます。一つのフレームに一人までしか映さない理由もおそらくは今作の群像性がため。バンドサウンドに合わせ紡がれていくカッティングの爽快感がよりそういったイメージに拍車を掛けていて、まさに音楽、画面、物語が一体となったオープニングだと思います。麻衣先輩が指先で撃ち抜くカットがお気に入り。タイトルがパズルのように入れ替わっていくのも本作の謎解きめいた話と主題の多さを描いているようで好きなポイントです。

 

 

以上が今年のOP10選となります。今年は物凄く悩みました。具体的な作品名は避けますが、他にも凄く好きなOPがあり本当に苦渋の決断でした。ですが、終わってみれば例年通り自分の好きが詰まった選出になったのではないかなと思います。関わられた全ての方々に感謝を。今年も一年、素敵な映像体験を本当にありがとうございました。

『青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない』11話 終盤シークエンスの芝居と演出について

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麻衣さんとかえでの楽しげな会話も束の間、続くシーンの冒頭でガラリと変化した空気と質感には思わず息を飲みました。例えるなら、ここまで平熱を保ち続けていた*1フィルムがついに熱を帯びだしたような。ガラス越しに見つめる自身との対峙、その視線を捉えるレイアウト、カットの運び。さらには夕暮れの感傷性とコントラストの強さが梓川かえでという一人の少女の物語を強く浮かび上がらせているようでとても引き込まれました。

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また、そういった質感の変化は芝居の領分においても同様であり、この時・この場所における彼女の芝居を繊細に描くということにはやはり大きな意味があったように思います。それは、これまでも節々で描かれてきた “外に出る” 行為のハードルの高さを鑑みた上で、その壁に直面している少女の心と動きをシンクロさせるということにも繋がっていくからです。可愛らしい服を着ることで少し上げた熱と、それとは表裏一体でもある緊張や不安。それを垣間見せていくことがこのシーンではテーマとして据えられていたように感じます。

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それはこういったカット一つとっても同じことです。画面内の多くがセルで描かれることによる “動くかも知れない” という高揚・緊張感が “動き出すかも知れないかえでの物語” としての役割をも果たしています。咲太が外に出るための靴を引き出すという行為から描かれる “後押しをする” イメージも合わさったとても印象的なカットです。ですがその反面、履き慣れていない靴をうまく履けない、つっかえてしまうという芝居づけが今度は後ろ向きなイメージを示してくる。この期待と不安の見せ方がかえでや咲太の心情に寄り添っているように映り、とても良いのです。

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線、影によって強く抱きしめていると分かる皺の風合い。外に出たいという想いと、出たくないという想いが混在したかえでの心情が強く浮き彫りになっていて、作画面からの強い心情へのアプローチが続けて描かれていきます。

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眉間への皺寄り。勢いよくストッパーを入れることで揺れ、翻る裾。かえでの苦渋の想いと、その想いに応えるよう足先に力を込める咲太からは互いの関係性を感じられます。ストッパーのカットは足元だけの描写で留めることで、かえでから離れないよう足先だけを玄関から出しているようにも見受けられる上に、画面外に映る二人の姿を想像させてくれる素晴らしい芝居づけです。

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そして、扉を開けた直後に映る俯瞰ショット。夕暮れによるコントラスト強めの質感はここでも意味を帯び、二人の行く手を陰で覆います。長回し気味のT.Bでこのカットを映すことで扉の先にあるネガティブなイメージをたっぷりと演出していたのも良いです。ですがほんの少しだけ陽の当たる場所があるという画面設計が物語を少し彩ってもいたのでしょう。高揚や期待、緊張や不安という二つの心情を描いてきた物語に相応しい二つの可能性。踏み出すことへのイメージショットとして映されたであろう横構図も含め、ここが物語の分岐点であることを非常に印象深いものにしてくれています。

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そして、そのほんの少しの明かりの中に佇むかえでとそれを映す足元のショット。兄の背中越しからではなく自分自身で浴びる光と、それ故に映える順光表現。前段で触れたほんの少しの陽の当たる場所を活かしたレイアウトが非常に効いていて、絵としてとても情感を感じます。一つ一つのカットが物語的であり、心情を多分に含んだ描写だったと言えるはずです。

 

またこの作品がこれまでも続けてきたように、泣きの芝居とそれを取り巻く見せ方がとても素敵でした。抱き合う二人を寄りで撮り続けるのではなく最後はT.Bでカメラを引き、今だけはこの場所を二人だけの空間にしてあげる優しさ。そういった見せ方にはどうしたって胸を打たれてしまいますし、感情的な描写に静観としてスポットを充て続けた本作らしさが非常によく描かれ、演出されていたシーンだったと思えました。

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シーンは切り替わり、今度はかえでが自ら扉を開き兄と向き合います。その他にも回想カットは幾つか差し込まれましたが、この芝居をこの距離感で撮ってくれたことにどうしようもないほど良さを感じてしまいました。くるっと向き合う芝居が心の軽さを感じさせてくれます。

 

もちろん、ラストシーンで描かれたように二人にとっての問題はまだ残ったままですが、一筋縄では解決出来ない複雑な想いの重なりを “思春期症候群” と呼ぶのが本作の味。その内にある壁を一つでも乗り越えることが出来たのですから、今はその余韻に浸っていたいです。彼女たちの未来が良きものであることを願いたくなる、とても素敵な挿話でした。*2

*1:この話数の

*2:サムネ画像参考:

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『SSSS.GRIDMAN』9話の演出について

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不穏な空気を感じさせる警報音。多くの意味合いを含んでいたであろう信号と踏切。それは音響の側面とセルによって描かれた数多くのプロップ・情報量から世界観を描き続けてきた本作の徹底したスタンスの延長でありながら、新しい予感を生み落とすモチーフとしても強く存在感を示していました。

 

怪獣、踏切、モブと奥から描かれたレイアウトもおそらくは同様で、遮断機と踏切が両者を “分け隔てる” という関係性は現実とは違う舞台を描いた本話において大きな役割を果たしていたはずです。以降、幾度となくカットバックされた信号機のカットもそんな冒頭で描かれた物語の大枠を意識させるためのものであり、夢に揺蕩 (たゆた) い続ける話に対し違和感を差し込む役目も果たしていたのでしょう。それがさらなる緊張感を演出していたのは言うまでもなく、フィルム全体に異様な質感を与えていました。

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また、分け隔てるという意味においてはこういったカットも同じ役割を持っていたはずです。なぜなら、画面内に境界を引くというのはファーストシーンで描かれた踏切からの地続きとしての描写でもあるからです。それは冒頭で怪獣と人という関係を踏切によって分断したように、アカネと裕太、また元の世界と夢という大枠の括りに対しても同じことが言えるはずです。裕太がアカネを追い掛けようと境界を跨いだあとにグリッドマンが右寄りに映し出されるというのも、非常にインパクトのある絵面でありながら、ここが曖昧な世界であることの象徴としてとても意味のあるレイアウトになっていたと思います。

 

それぞれ1話における六花と裕太との同ポではありますが、振り返れば1話時点においても怪獣を認識できるかどうかなど見ているもの、感じていることの違いが台詞含め描写されていました。そういう意味ではこの作品は当初から境界というものには敏感であったのだと言えると思います。

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他にも、随所でフレームによる画面コントロールやレイアウトが目立っていました。前景でのBOOK、手前にセルを置いたりと覗き見るような画面を構築するのは他の話数でも多く見られましたが、夢という舞台を扱ったこの話数だからこそその意図はさらに際立って見えます。それぞれ空間への視線誘導も巧く、前景、セル、色、光の質感など情報の多い画面の中に二人をそれと分かるように配置するのがとても巧いです。アカネが彼らを夢の中に閉じ込めていることを示したショットであり、この広い世界 (情報量の多い画面) の中でそれでもアカネが六花たちに固執する様をカメラに収めた瞬間でもあるのでしょう。

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それぞれその前後のカットではありますが、こういったカメラワーク・トランジションも面白く、ドキッとさせられてしまいます。保健室のカットでは手前中央の窓枠がカメラの動きを遮る役目を担っていますが、それをワンカットのカメラワークで映しているため、強烈な断絶は感じられません。むしろ会話によるやり取りの中で徐々に打ち解けていく二人を支えるよう互いの壁をカメラが替わりに乗り越えているような印象さえ受けました。だからこそ直後のカットで六花がアカネの寝ているベッドに腰を掛けるという芝居に強い意味性を感じられるのでしょう。内海に関しては徐々にのめり込んでいく、仲を深めていく様子が描かれていますが、モブとポン寄りによりフレームの幅が少しずつ狭まることで自然に二人を近づけていくのがシームレスで良いです。

 

ですが、これまでの物語を踏まえた上では逆にそのシームレスさが不気味に映るというのがおそらくは今回のフィルムコンセプトでもあったはずです。新条アカネという存在。世界の謎と、繋がりを断たれただクロスカットで話が交わることなく紡がれていく三人の物語。インサートされる警報機の存在を含め、“なにを信じればいいのか分からなくさせる踏み込めなさ” が今回の話・映像の肝だったのだと思います。

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これまでは見れなかったような絵が散見されたのもそう感じてしまうことへ拍車を掛けていました。色・光の質感、レイアウト・構図に視る関係性、仕草や表情。そのどれもがこれまでとは違うニュアンスを帯びているようでした。青春という言葉がとても似合うフィルムなのに、少しダウナーで、違和感を感じさせられてしまうーー それもまた1話から描かれてきたことではありますが、今回の話はそれが特に顕著でのめり込みました。

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そしてアカネにより語られる「それが本来の形だから、私を好きになるためにつくられたんだから」という言葉。現実と理想のギャップ。晴天から曇天の雨に繋ぐカットの意味性、そして画面のコントラスト。ある種、ここまで予感が散りばめられていたフィルム*1であったものが、彼女のこの言葉とこの場面に至るまでの繋ぎによってグッと収束していく構成には息を飲みました。

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まただからこそ、それまで以上にグリッドマンは克明にアカネの世界に映り込み、もう一つの世界の存在を強烈にフィルムへと刻み込むことが出来たのだと思います。僅かな予感の集積とアカネの言葉による収束。メタ的に見れば “ここが本来居るべき場所ではない” ということへの気づきが映像として明らかにされ始めたからこそ、こことは違う場所へと向かうベクトルをより顕著に描き始めることが出来たということなのでしょう。それはアカネの呼びかけにより一度裕太が彼女に意識を傾けた*2あとに、再度グリッドマンがスクリーンに浮かび上がったことと同様の流れであり、平たく言ってしまえば 「一度何かがおかしい」 という予感を与えてしまった場合、 “そのまま” で済ますことはとても難しくなる、ということなのです。それは裕太の視点に立った物語においても、物語の映像構成としても同列なのだと思います。

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けれど、だからこそアカネはそうした元の世界へと向かうベクトルに流されないようただ懸命に走り、幾度となく映る別世界のフレームも意に介さずその流れに逆らおうとしたのでしょう。勿論、その行動の内にはまだ明かされていない物語の謎や彼女の想いが多く仮託されているのだとは思いますが、詳細な心情を描写せずともこういったエモーショナルなカットを入れることにより、今回の話が “ただアカネの見せる夢から抜け出すための物語ではない” ことを知らせていたのは本話の凄味と感傷性をまた一段上へと押し上げていたはずです。

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明度のコントラスト。初めて見るようなアカネの表情。ここでも未だ明かされないアカネの心情に寄せたショットで、青空が映された中盤のシーンとも非常に対比的になっています。それでも彼女へ掛けられるのは「ずっと忘れてる気がする」という無常な言葉で、その一連のやり取りをぽっかりと墓地の空いたカットのfixで撮り続けていたのがとても印象に残りました。アカネにとっても、裕太にとっても “ぽっかりと” という言葉が当て嵌まるからこそ、どちらの意味でも感傷的になれてしまう上に、そうしたどちらの視点にも立てるフィルムであったことがまた今回の話を決してシンプルではない複雑なものに仕立て上げていたと思います。

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そして話は分岐点へ。再び画面は境界によってそのフレームを二分されます。二つの世界。二つの感情。ここまで描いてきたことを再度突き付けるレイアウトです。けれどこれまでと違うのは「(忘れていることが)アカネにとって大事なこと」だという裕太の台詞とそれに呼応するようアカネを飛び越え、もう一つの境界の向こう側に裕太が立つ意味なのです。自分とアカネの間にある境界を破り、アカネの創る世界を受け入れるわけでもなく、その向こう側に立つということ。それはこの話で初めて描かれた彼の選択であり、それを裏付ける映像の運びに他なりません。

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そしてそれは六花にとっても同じだったのだと思います。自分と彼女を分け隔てる境界と、それにより二分される二人の世界。けれど六花が見つめていたのはさらにその先にあるグリッドマンの姿であり、もう一つ向こう側の世界でした。これまで率先して戦うこと、誰かの居場所が “無かったことにされてしまう” 怖さから足を踏み出せなかった彼女がその一歩をもう一つ踏み出した瞬間。バスから飛び降りるというのも、行き先は自分で決める、ということと同じ輪郭をもって語ることの出来る彼女なりの決断であったはずです。

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そして想定線を越える裕太とアカネの関係性。「俺はそっちには行けない」と、彼女の創り出す世界への拒絶がそのまま映像・モチーフとして現出します。けれど、アカネ自身を拒絶した訳ではない、というのがきっとこの先の物語では要になってくるのでしょう。残されたアカネと背景密度、そしてぽっかりと空いた青空は、序盤でも触れたセル密度故の情報量の多い画面と同列に語ることの出来るもの。細かな情報量の裏に隠された本当にアカネが欲したもの、その消失が非常に辛く映る画面です。

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自らが愛したものに加え、アカネをも置き去りにせざるを得なかった内海にとってもそれは同様です。少年少女が決断し、自ら踏み出しその道を駆け出すということ。むしろそれはこの作品が主軸に置くテーマの一つなのかも知れません。

 

アカネに至っては先程の裕太とのシーン同様、密度感あるものに囲まれていてもまるで満たされていないと語り掛けるようなカットが感傷を誘います。どこか隙間が空いていて、そこに彼女の感情が溢れ出していくような。「欲しいものはこれじゃないんだ」と語り掛けるカットをここに残した意味はその額面から感じ取れるもの以上にとても大きいものであったはずで、裕太たちの進むべき道をフォローしていく一方で、必ずアカネに寄り添うフィルムとしても繋いでくれていたことに強く胸を打たれました。

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大きなうねりを上げて収束していく物語と映像。ここまでクロスカッティングで描かれてきた各々の話がここから一気に同じ方向へと向かい始める快感は筆舌に尽くせませんでした。本話にとっては大きな存在であった踏切を越えるファーストカット。ロングショットフォローによる三人の走り作画*3、カッティングの良さ、劇伴・台詞の高揚感、そして物語 (彼らのバックボーン) が音を立てて動き出す瞬間を背景動画で描く意味。そういった全ての要素が噛み合い描かれていたことに本当に感動してしまい、ついぞ泣かされてしまいました。

 

背景動画時のT.Bも物凄く決まっていて、これから立ち向かうものの強大さを裏付けるようなカメラワークであった反面、それでも必死に足掻き手を伸ばすことに意味を見出すアクションづけであったこと。ここから彼らの新しく険しい道が始まっていくことを感覚として頭の内側に焼きつける力強さで溢れていたことが堪りませんでした。

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アクションが終ると、遮断機が上がり、警報器は鳴りを潜め、ファーストシーンとは違い怪獣とキャリバーたちの立ち位置が入れ替わります。アバンとは翻り、夢の終わりを告げるモチーフとして機能しているのが面白いですが、今話における踏切と境界の関係性を鑑みれば、消失した境界の先に本作が想い描いているものはもしかすれば新条アカネへと続く道なのかも知れません。勿論、その先に何があるのかはまだ分かりませんが、今回の話・映像を観てしまえばそう思わざるを得ないというのは、やはり仕方がないのかなとも思います。

 

なにより、戦闘を終えた後にも関わらずアンニュイさが払拭されないラストシーン。陰影に寄る分断。残るしこりと「まだ一人、目覚めさせなければならない人間がいる」、「聞いて欲しい話がある」というそれぞれの言葉。はっきりとは明言せずに映像の側面からあらゆることを訴えてきた本話においては、もうそれだけで十分な気が今はしています。

 

ラストカットまで抜かりなく。謎は謎のまま突き通すミステリアスなフィルムの質感と劇的なシークエンスの緩急。本当にとてつもないものを観てしまったという気持ちばかりが今も沸き続けています。絵コンテは今回初めてのコンテ担当となる五十嵐海さん。演出を金子祥之さん。作画、音響、色指定、撮影などあらゆるセクションの賜物であるということは重々承知した上で、この話数を設計し、完成に導いたお二方の手腕にもとても驚かされました。五十嵐さんが手掛ける作画に関してはこれまでも長らく追い続けてきましたが、今後は演出面でも見逃せない方となりそうです。本当に素晴らしい挿話をありがとうございましたと、心から。

SSSS.GRIDMAN 第3巻 [Blu-ray]
 

*1:時折り差し込まれるグリッドマンの影や、カッティングによる間の置き方、印象的なカットなど

*2:もう一つの世界の存在を彼女によって上書きされてしまった

*3:ここをロングショットにしているのが本当に良い