『小林さんちのメイドラゴン』2話の演出について

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誰がなにを見つめていて、そこにどんな想いが託されているのか。そんな数多くの情報をしっかり汲み取ってくれる京都アニメーションの作劇はだからこそ人間味に溢れ、感情的なフィルムへと昇華されていくのでしょう。トールの手を小林さんが引いていくシークエンスはまさにその象徴だったように思います。

 

言葉数少なく歩いていく二人をじっくりフォローしていくカメラワーク。初めは遠巻きにロングショットを挟みながら静観するのも凄く情緒的。けれど、それぞれが抱くものを想起できる機微ある表情にはしっかりそのレンズを寄せ、ちょっとした力みや瞼の動きなどの感情的な仕草を本作は決して見逃そうとはしません。だからこそ、言葉は交わさずとも彼女たちの感情は映像を通してこちら側に伝わってくる。「この手しばらく洗わない」と語られたモノローグも立ち位置的にはむしろ決定打でしかなくて、そう決意した “彼女の心情” はそれより以前のシーンにおいて既に語られていたはずです。

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同じような構成だったのがカンナとのやり取りを描いたシーン。この場面においても「私、小林さんを好きになって良かった」と心の内で語るトールの心情の理由をその言葉より前の映像で全て物語ってくれていたように思います。

 

演出的には一話におけるトールとの一連のシーンを思い出す武本さんらしいカッティングで、互いの表情を交互に繋げづつ、その表情にじっくり寄せていくことで内面を掘り下げていく見せ方。不安を募らせるカンナの言葉に同調するよう矢継ぎ早に繋げられるフィルムという印象でしたが、小林さんの手がカンナの頭に触れると、彼女の言葉がそのままカンナに流れ込むようにシームレスなカッティングへと印象が変化していきます。シリアスな話になると場の雰囲気と照らし合わせるように撮影・色のつき方が天候に関わらずじわっと変わるのも一話と通じていて良いです。ここは演出の領分でもあると思いますが、その点で言えば一話の藤田さんとは(やっていることは同じ=コンテ指示?ですが)少し質感が違って面白いなという印象も受けます。

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カンナの涙で溜めて、またポンポンとカットを繋いでいく。二人の仲が少し前に進んだところでカメラも見守るよう何歩か後ろに下がる。内面を映すために近寄っていたカメラが少しその距離を空けることで“彼女たちが纏う空気や関係性を捉えること”にその目的をシフトしていく。なにより、そんな一連のカッティングと二人の姿を目の当たりにすることで私たちは感じてしまうのだと思います。小林さんの温もりや、曇りのない眼差し、そこから垣間見ることの出来る彼女の人間性と安堵感を。

 

まただからこそ、その後に続くトールの言葉が痛烈に刺さる。「小林さんを好きでよかった」。彼女がそう言うならそうなんだろう、ではなくて、彼女がそう語る理由を知っているから納得できるという物語と映像のロジック。

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そして、二人の心が通い合ったことを契機に想定線を越える。越えるというより、ここでトールの視点になるのがまた凄く素敵な見せ方だなと感じます。それはまるで二人の心の通いが、「小林さんならきっとそうしてくれる」と信じていたであろうトールの視線とリンクしたように思えたからです。

 

そして、それは紛れもなく本作が大切に描いていたであろう “誰かの視線” に他ならないのだろうと思います。誰かが見つめていて、誰かを見つめていて、その視線の先に感情が在る。相手のことを知りたいだとか、私のことを知って欲しいだとか、つまりはそんな単純だけどとても大切なことをこの作品はどこまでも優しく丁寧に描いてくれているのでしょう。なによりそれは、京都アニメーションが長年に渡り根本的な部分で培い続けてきた “人の心を描く” ということなのだろうと思います。言い換えれば家族観や家族愛。少なくとも、この作品は本物の家族であっても疑似家族であっても、彼女たちの関係性が持つ温もりを映像で捉えることをとても大切に扱っていると思います。

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顕著だったのは上記のカット。これ程までに家族観を直接的に感じられるカットを私は知りません。そう言い切れるほどにこれらのカットは本話の中軸にすら成り得ているように思えますし、だからこそそこに至るまでの演出は非常に大切であったのだろうと感じます。

 

その点を鑑みれば特靴が玄関に並ぶカットへの映像運びは秀逸で、これも京都アニメーションらしい拍を置いた距離の取り方で凄く良かったと思います。一話で言えばBパート終わりでBGカットを繋げていた感じに近いでしょうか。三人を映していたカメラが居間から移動し、廊下、玄関へと遠ざかるカット運び。ラストカットには川の字に並ぶ三人の靴をモチーフとして捉える。芝生で寝転ぶカットへ向けた原点的なカットでもあって、この辺りの映像運びには本当に感動させられました。

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あとはこの辺りのカットが凄い良かったと思います。構図的には本作のお茶目なシーンや、『らき☆すた』のイメージ背景を使ったコメディチックなカットなどでよく見られたようなものに近いですが、向かう視線の先を空(BG)にすることでとても感情的でアンニュイなカットにその印象を変えています。

 

特に空は本作においてドラゴンとの親和性を強く感じさせている場所ですから、そこに視線を向けるというのはある意味、凄く示唆的だなと思います。 “彼女がなにを・誰を想い空をみつめているのか” という問い掛けに対しての一つの応えがこの挿話にはしっかりと込められていたような気がしていますし、だからこそ以降の挿話でも同じようなレイアウトや構図が観られた時には色々と感慨深げに微笑んでしまうような気が今はしています。

 

二話連続で武本監督がコンテを切っていたのはかなり驚きましたが、それだけに素晴らしい挿話だったと思います。演出は澤真平さん。演出助手で『響け!ユーフォニアム2』に参加されていましたが演出として参加されたのはこれが初めてのようです。陽だまりや青空と比較的、温かい色合い・印象の画面で構成されていて、その辺りかなりアンニュイ方向(寒色系?)の色合いを好むイメージのある藤田さんの画面作りとは違った印象を受けます。もちろん武本さんの手も入ってはいるのだはと思いますが、これから期待して追い掛けていきたい方です。

『小林さんちのメイドラゴン』1話の演出と武本康弘さんについて

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ドラゴンの少女トールが小林さんの家に訪問してからの一連のシークエンス。上手側に小林さんを置くことで物語は彼女を主体に据えるところから始まります。つまりトールを自分の家で雇うかどうかの選択によってこの物語は始まっていくといことです。逆にトールが下手側に立つことで彼女が小林さんにとっての試練であるかのような印象も受けます。扉が上手く被さる(少し家を出たところで止まっている)ことで、自身のパーソナルエリアを守るようなイメージも合わさり、彼女の来訪が小林さんにとっていかに突飛であったかということが強調されているようで面白いです。自宅に入ってからもどこか視線を外したりと芝居が丁寧。

 

小林さんが「無理なものは無理」と断ってからの見せ方も凄く良くて、天候がガラッと変ったかのように室内の明度・彩度を落として、陰影でキャラクターの感情やその場の雰囲気を表現する(画面をアンニュイにする)のは武本さんらしくもあり、また演出である藤田さんの力もしっかりと加味されている感じがしました。

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目を見張るのはトールの去り際のカットバック。小林さんの「このままでいいのか」という感情のほつれと緊張感が目一杯滲み出ていました。スローも合わせて遣うことでより迷いが浮き彫りになり、非常に感情に寄せたフィルムだと思います。

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一番グッときたのはここでした。アバンでの立ち位置の逆転が起こります。今度はトールが物語の主体となり、小林さんの願いを受けるかどうかの選択を委ねられるわけですが、答えはもちろん決まっていましたね。回転するハイライトも含めこの辺りのシークエンスは非常に緻密に練られた演出という感じで感動させられました。もちろん、小林さんにとっても先が見えない選択で最初に断った時も心苦しい部分はあったのだと思いますが、“相手にも心がある”ということを改めて突き付けられることで彼女の感情が揺らぐというのは、とても京都アニメーションらしいなと感じさせられます。

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以降は終始、下手が小林さん、上手がトールの構図で描かれていたと思います。メイドの教育を受けるトールが常に学ぶ側に立つというか、物語の主体的な意味で言えば彼女が小林さんの日常に踏み込んだ側になっていました。もちろん、その他多くのカットを同様の位置関係にしていることの全てに上下(かみしも)の意味合いが込められているわけではないのかも知れませんが、この序盤や終盤、二人が就寝につく辺りのシーンにまでことが及んでいるのを観ると、この一話においてはかなりそういった二人の関係性を意識しながら画面を構築していたのではないかと感じます。

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OPでもその辺りへの意識は垣間見ることができました。上手側から小林さんを望むトール。小林さんを懸命に追い掛ける彼女のひた向きさ、実直さが伺えて一番好きなカットです。またここもカットバックで描かれていて、武本さんはカットバックで見せるのが結構好きなのかなとちょっと思ってしまいました。以下例。

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甘城ブリリアントパーク』一話。コンテ演出武本康弘。監督も務めているこの作品ですが、ここは感情的というよりは緊迫感のあるシーンです。カットバックの王道的な遣い方という感じがします。

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『日常』八話。コンテ演出。マルチエピソード型の作品ですが、短編としてこういう話も盛り込んでくる。エレベーターに閉じ込められる話です。フレーム内フレームで区切るのも話の内容そのままに閉鎖感があって非常に面白いんですが、ここでも該当の演出を遣うことでコメディ寄りの映像になっていて、こういうパターンもあるのかという気持ちにさせられます。じわじわ寄っていきながら交互に見せていくのが効いてますね。カットバックも色々だなと、はっとさせられます。

 

小林さんちのメイドラゴン』の話に戻りますが、もう一つ良いなと感じたのは家族を見守るような温かい視線の存在でした。この作品に“京都アニメーションらしい家族観”を感じたのもそれが一番大きな要因です。特にAパートや、Bパートの終わり際。それぞれ小林さんが帰宅した場面のカットと、二人が就寝する前後の締めのカットですが、一気にカメラが引きロングショットになっています。そこにはどこか二人が暮らす場所を遠くから見守るような視線があり、特にBパートのBG(背景)カットの連続は話の締め方としてとても良かったなと感じました。

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憶測ですが、小林さんが住むマンション、近場の交差点(T字路?)、さらに離れた場所、上空からの俯瞰という順番でしょうか。どんどんカメラが彼女たちから離れていくのが分かります。最終的にブラックアウトして終わっていくのも合わさり、二人の眠りに合わせるよう、まるで映像そのものが眠りにつくような印象さえありました。見守る視線というのも非常に抽象的かなとは思いますが、ようは二人の関係を邪魔しないようにそっとその暮らしを覗いている感じ、とでも言えばいいのでしょうか。もちろん、コメディ色の強い作品ではありましたが、ふとした瞬間に感情に寄り添うようなコンテワーク・演出はこの物語に対し非常に感情的で情緒のある視点を与えているのではないかと思います。

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同様の見せ方では『らき☆すた』六話(武本監督、コンテ演出回)などが同じ演出を用いています。BG・登場人物たちとは関わりのない風景による雰囲気の切り替え。それまで騒がしかった登場人物たちの喧騒を搔き消すような遣われ方で、この辺りは直近の京都アニメーション作品である『響け!ユーフォニアム』などでもよく遣われていた印象があります。場面の転換点にワンカットだけ風景を挟んだりするのは色々な作品でよく見られる手法だとは思うのですが、小林さん一話のものも含め4カット連続のBGで雰囲気を作る、というのは中々ないのではないかなとも感じました。ただ、それこそこういった見せ方に関しては、先程挙げたように他の京アニ作品でも見られましたから、武本さんがどうこうと言うよりは京アニ的な映像運びに帰するものの方が大きいような気はしています。

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また作品的には被写界深度を浅めにそれぞれの登場人物の物語(画面)に焦点を当てていた作品群とは少し違い、どちらかと言えば『らき☆すた』や『日常』のようなコメディ寄りのテンポと映像、パンフォーカスでの見せ方をしているなという印象がありました。それこそ女性同士の、現状では恋愛には発展しなさそうな雰囲気を眺めていると同監督の『らき☆すた』はやはり掠めますし、今回のようなコメディからアットホームへの流れを鑑みれば、武本さんが担当された『日常』十六話に収録されている「ゆっこが東雲家に行く話」などはやはり連想してしまいます。奇しくもあれは“ロボットと少女の心が通う話”。ああいう話は本当に好きなので、以降の話でも是非色々やってくれればいいなと思います。

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余談ですが、武本さんの担当された回を観返していくとこういった広角の構図・レイアウトが多く見られます。監督をされている『氷菓』の一話もそうですし、特に『AIR』三話はかなり凄いです。今作でも、こういった格好良いレイアウトに出会えるでしょうか。武本さんが監督をやっているので担当回は一話以降なかなか出て来ないとは思いますが、期待しながら観ていきたいところです。

話数単位で選ぶ、2016年TVアニメ10選

今年のアニメを振り返る意味も兼ね、今回もこちらの企画に参加させて頂きます。

・2015年1月1日~12月31日までに放送されたTVアニメ(再放送を除く)から選定。

・1作品につき上限1話。

・順位は付けない。

集計ブログ様:「話数単位で選ぶ、2016年TVアニメ10選」参加サイト一覧: 新米小僧の見習日記

選出基準の方は例年と同じく特に面白かったもの、感動させてくれた挿話を選定させて頂きました。それ以外は上記のルール通り、順不同、選出順等に他意はありません。敬称略で表記している箇所もありますが、その辺りはご容赦を。

 

 

無彩限のファントムワールド 11話 「ちびっ子晴彦くん」

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脚本:吉田玲子 絵コンテ:石立太一 演出:石立太一 作画監督:植野千世子

 

京都アニメーションの家族観。そんな枠組みのなか、石立太一さんで思い出されるのは『CLANNAD』14話。一ノ瀬ことみの回を彷彿とさせる要素も本話ではあったように感じます。レイアウトの中心に人物置くのではなく画面に余白を持たせていたのが印象的。他にも引きや窓越しにカメラを置くことで、より母親や家族の温かさというものを表現しながら見守るための視線を大事にしていたように思います。舞先輩の母親としての立ち姿には感動を覚えますし、むしろこの挿話を軸にすれば本作は彼女の成長記としても捉えることが出来るのだから面白いですね。柔らかい表情、舞先輩を母親として描こうとする優しいタッチなど、舞お母さんの母性と巧みな演出が沁みる本当に素敵な挿話だったと思います。

 


 

この素晴らしい世界に祝福を! 9話 「この素晴らしい店に祝福を!」

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脚本:朱白あおい 絵コンテ:亜嵐墨石 演出:久保太郎 総作画監督菊田幸一 作画監督:中澤勇一、木下ゆうき、清水勝祐

 

骨盤周りの肉づけと駆動が変態過ぎます。一々股間に手を当てる。身体を撫で回す。まるでなにもつけてないかのように胸が揺れる。その全てが本作の醍醐味です。ただ性欲にひた走りながら観るのも善し、菊田さんの作画を堪能して観るのも善しで、こんなにも観返し涯のある挿話も中々ないのではないかと思います。影づけ、線の妙味もあり、性欲、食欲に加え作画欲まで満たされるまさに至極の挿話だと思います。出来れば二期もこんなノリでお願いしたいところですが、果たして。

 


 

GO!プリンセスプリキュア 48話 「迫る絶望…!絶体絶命のプリンセス!」

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脚本:香村純子 コンテ:佐々木憲世 演出:岩井隆央 作画監督:渡邊巧大

 

プリキュア最後の闘いの前哨を描いた本話ですが、作画監督である渡邊巧大さんの魅力が存分に引き出された回になっていたと思います。瞳がくりっとしていて、睫毛部分の線が太く非常に可愛らしい表情のデザイン。最近だとタイガーマスクW4話(これも候補でした)でその良さが存分に生かされていました。アクションも凄いんですが、どちらかと言えば表情寄りの作画が素晴らしく、最終戦を前に控えたはるかたちや絶望へ必死に抵抗するゆいたちの決意を克明に描いてくれました。演出的にも敵幹部であったシャットが抱く葛藤の見せ方が本当に巧く、カットバック的に逐一彼の表情が差し込まれるので凄く緊張感があります。寝返るシャット。観ていると自然に彼への愛が強まるのもこの回の強みですね。

 


 

ポケットモンスターXY&Z 16話 「マスタークラスの試練! どうするセレナ!?」

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脚本:面出明美 絵コンテ:高橋知也 演出:高橋知也 作画監督:松田真路 作画監督補佐:松永香苗、小山知洋

 

マスタークラスを賭けた最後の闘いに挑むセレナの渾身のパフォーマンスが力強いアニメーションで表現された素晴らしい回。Aパートでは特に競技前の緊張感が描かれていましたが、彼女の優しさ溢れるポケモンとの触れ合いに身を浸していると、Bパートからは怒涛の演技。躍動感溢れるステップシークエンスを回り込み風に描き、さらにその周囲をポケモンが駆け回るというハイカロリーな作画を素晴らしいクオリティで実現しています。感動の余り呆然と見蕩れ涙を目尻に溜めながら観ていましたし、私にとって作画で感動するってこういうことでもあるんです。彼女たちの最高のパフォーマンスに応えるため最高のリソースを割く。エフェクトの活力。縦横無尽のカメラワーク。その後はただただ演技に魅了されていたような気がします。序盤、ヤンチャムが金田ポーズっぽいのをやるのも自然と涙を誘ったり。試合後の見せ方、構図、撮影処理なんかも凄く良かったですね。

 


 

キズナイーバー 7話 「七分の一の痛みの、そのまた七倍の正体に触れる戦い」

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脚本:岡田麿里 コンテ:宮島善博、小林寛 演出:宮島善博 作画監督長谷川哲也、岩崎将大

 

本作の登場人物である牧穂乃果に焦点を当てた、旧友との回想劇と彼女のこれからを巧みな演出で力強く描いた傑作回。決して心だけで通じ合うことは出来ないのだということを訴えた本作にあって、「それでも私たちはきっと何処かで繋がっているのだ」という希望的観測にも似た言葉を投げ掛けてくれた辺りは鋭く胸に突き刺さりました。傘や雨、眼鏡といったモチーフを使い示唆的に彼女の閉塞性や心の弱さを描いてくれたのも、とても情感に訴えかけるものがあり良かったと思います。分割、フレーム内フレーム、影分断など彼女たちの心情にリンクさせようとする演出も冴え渡り、コンテ段階での作り込みも伺える強さがありました。繊細なタッチの作画も相まり非常にエモーショナル。最後には背動まで。本当に感情的で凄まじい挿話です。

参考記事:赤い傘、心の壁、牧穂乃果曰く / 『キズナイーバー』 7話 - Parad_ism

 


 

アイカツスターズ! 35話  「選ばれし星たち」

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脚本:柿原優子 コンテ:米田光宏 演出:米田光宏 作画監督:三橋桜子

 

自分自身の行方に悩みを抱えていたゆめの心情を追った素晴らしい挿話。この話単体ではまだゆめの決心に区切りはつきませんが、彼女の強い想いと、彼女を支える人たちの強い願いが映像として鮮明に表現されていて何度観ても涙腺を刺激されます。海辺でのローラとのやり取りも大変素晴らしいです。余りにも美しい横構図からの想定線越えなど、米田光宏さんらしい今話の感傷的な演出は氏が担当されたその他のゆめ回(どれも傑作回)を凌ぐ凄まじい極まりっぷりだったと思います。序盤からレイアウトも凄い切れ切れで、観ていると嬉しさと苦しさの混じった溜息がつい口を突いてしまいます。虹野ゆめに米田光宏あり。スタッフ的にその辺りは以降も引き続き気にしながら観ていきたいところです。

 


 

フリップフラッパーズ 6話 「ピュアプレイ」

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脚本:綾奈ゆにこ コンテ:立川譲 演出:博史池畠 作画監督:田中志穂、鶴窪久子

 

心象世界を描くかのようなピュアイリュージョンの最たる表現。色合いを活かし幻想的な空間を創り上げるのは以前の話でもやっていましたが、それらを生かした二極の感情表現は非常に切実な心の変遷を描き切っていたように思います。誰の心象風景なのかというのを最後まで直接的に描かないのも叙述的で胸に迫るものがあります。苦しい世界の中になんらかの希望を見出す立川さんのドラマチックな見せ方と、それを受け最大限の表現を追求してくれた池畠さんのタッグにより最高のフィルムになったのではと思います。立川譲さんコンテ回と分かった上でこの挿話を観ると、SAO7話を思い出すところなんかもあったりして懐かしいです。

 


 

バーナード嬢曰く。 9話 「バス停」

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シナリオ:内堀優一 コンテ:空久保美貴 演出:空久保美貴 作画監督:なつのはむと

 

読書家あるあると自虐ネタを構成の軸としていた本作ですが、ここにきて急速にフィルムを感情に寄せてきたことにまず驚きました。寒風に靡く髪とマフラー、スカートのプリーツ。悴んだ指先からはどこか孤独さとアンニュイな雰囲気が漂い、文学少女ステレオタイプ的なシルエットをそこに強く浮かび上がらせてくれます。けれど、誰かと好きなことについて語らう時間の幸福もある。オタクであることに自覚的であるからこそ我々は自分の世界に浸り、時にその世界について良き友人と言葉を交し合うのです。馴れ合いでもなければ、付き合いでもない。好きなことについてあなたと話す時間が楽しいから。そのことを改めてこの挿話には教えてもらったような気がしています。

 


 

舟を編む 6話 「共振」

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脚本:根元歳三 コンテ:長屋誠志郎 演出:長屋誠志郎 作画監督浅野直之

 

徹底した仕草、感情芝居にエモーショナルなカット。存在感の強いレイアウト。全てが高次元で噛み合ったまさに本年度最高峰の挿話です。言葉に対し真摯に向き合う馬締と、その直向きさが宿る恋文に彼の誠実さを感じ取った香具矢さんが出した応えには涙が止め処なく零れてしまいました。同僚の西岡が初めて周囲に見せた感情の起伏、希少な香具矢さんの茶目っ気ある赤面など、表情を含めた彼らの一挙手一投足からはもはや一秒すらも目を離すことができません。それこそアバン、エンディングへの入り方まで含めこれ程までに感動したのは、これまで生きてきた中でもそう多くはないでしょう。まさに年に何度出会えるかどうか。生涯語り継いでいきたい名話です。

 

また本話を担当された長屋さんは同じく同作で活躍されていた稲津辰宣さんと同時期に数年前原画デビューされた方。監督の黒柳トシマサさんの監修も入ってはいるのでしょうが、それにしても長屋さんの担当された回は総じて素晴らしい挿話ばかりでした。以降、注目していきたい方筆頭です。

参考記事:『舟を編む』6話の芝居と共振 - Parad_ism

 


 

響け!ユーフォニアム2 10話 「ほうかごオブリガート

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脚本:花田十輝 コンテ:山村卓也 演出:山村卓也 作画監督池田和美

 

久美子の姉である麻美子とのやり取り、あすか先輩に向け投げ掛けられた熱の込もる言葉。黒沢さんの演技もさることながら、久美子たちの感情や言葉を出来るだけ強く相手に伝えられるよう下支えされた演出とカメラワークが本当に秀逸で、その余りに強烈な情感の持っていき方と秀麗な映像美にただただ私は涙を流すことしか出来ませんでした。モチーフを巧みに使いつつ、全てを開放的に語る訳ではない京都アニメーションらしいフィルム。劇的な撮影の効果も相まって、非常にセンチな心持ちになってしまいます。色々な経験を積んできたからこそ姉の感情が伝わる。姉との話があったからあすか先輩に語り掛けることが出来る。全てがシームレスに繋がっている辺りも感動に拍車を掛けているように思います。並ぶユーフォニアムと反射光のラストカットも感慨深く素敵です。私にとっても生涯忘れることの出来ない挿話となったように感じています。

参考記事:『響け!ユーフォニアム2』10話 心の屋根とカメラワーク、そして零れ出す感情の光 - Parad_ism

 

 

 

以上が、本年度選出した挿話になります。

 

出来れば『ジョーカー・ゲーム』5話、『灼熱の卓球娘』10話、『Re:ゼロから始める異世界生活』18話などは入れたかったのですが、仕方ないですね。他にも今回選出できなかった挿話はたくさんありますし、諸事情により上半期は余り多くは観れていないのですが、それでも非常に充実したアニメライフを今年も送れたように感じています。ですので、毎年のことながら今回の選出にも十分満足していますし、今年も一年、素敵な作品にたくさん出会え関わった方々には心から感謝しております。本当にありがとうございました。来年もたくさんの素敵なアニメとの出会いがあることを願って。健やかなアニメライフを送っていきたいなと思います。