最近観たアニメの気になったこととか2

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前回の続き。『薄明の翼』7話。1話のリフレイン的な導入からさらにその先へ進んでいくようなイメージショットの数々。その中で、一番印象に残ったのがこのカットでした。これまで『薄明の翼』では光と影の境を穿つようなレイアウト、ライティングが強く生かされていて、それが物語的にも一寸先にある光明のような役目を果たしていたと思うんですが、このカットはそういったシーンの集積のように感じられてすごく感動しました。

 

空のイメージショットや靡きとかは、この前のシーンで描かれたアーマーガアに乗って空を飛ぶシーンの解放感、世界の広がりに由来している部分も大きいのだとは思いますが、ここで影がほぼつかない順光になることにはやはりこれまで描かれてきた7話分の物語へのアプローチを感じずにはいられないというか。迷って、悩んで、考えて。そうやってポケモンたちと寄り添い、自分自身と向き合いながら歩んできた一人ひとりの物語がこのジョンのカットに仮託されていたような印象を受けました。世界はこんなにも広くて、自由なんだっていう。そんな気づきを祝福するように青空が彼を支えるっていう構成。それが他の話数ではライティングとかハレーションとか、月灯りとかで表現されていたなあという。

 

もちろんそれはジョンにとってもそうで、ずっと病院に居た彼が描写的にも初めて敷地外へ出たシーンでもあったので。あとそういうシーンに至るまでのポケモンバトルを、ああいう自由度の高い、世界の奥行きを感じられるアニメーションで描いてくれていたことには一層のこと感動しました。自分が作画といものに没頭するようになった理由の一つでもあって。たった一つの動きが、芝居が、描写が、こんなにも作品世界の奥深いところにまで導いてくれるんだっていう。あの気持ちを改めて強く実感させてくれたような気もしていて、そういう意味も含めすごく大好きな作品になったと思います。山下清悟さん的には『夜桜四重奏ハナノウタ』10話とか。あれを当時観たときの感動とすごく似ていたのも自分的には大切な体験だったなと思います。

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カット単位で言えばリザードンが最初の一歩を踏みしめるカット。話の展開とか、カッティングも大きく寄与しているのでこのカットだけでというわけでは決してないのですが、それでもこの一歩の巨体感、ぐっと前に出る印象をカメラワークでも盛りつけていて、T.BとPANでより大きく見せているのがすごく雄大で良いんですよね。前景で掘り起こされ跳ね上がる地面とか。なんか無性に感動できる。あと音楽と音のつけ方が最高で、そういうのも合わさってこのカットくらいから少し泣き出してしまいました。主人公のジョンにとってもこの場所に立ち、ここから見る風景をどう捉えるかっていうのが一つ主題になっていたと思うので、POV的なイメージを追加している意味でもこのカットの意図ってすごく大きかったんじゃないかなと思います。たぶん。

 

※Weilin Zhangさんはこのカットの後に、リザードンが炎を吐き出す辺りを担当しているようです。ご指摘ありがとうございます、訂正します。

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『それを愛と呼ぶだけ』。フィルムの質感、切り取られていく日常へのアプローチ、繊細な芝居がめちゃくちゃ良かったです。青春って感じの映像なんですが、青くはなくて、淡い。気怠さもあって、(果実的な意味で)青々しさがあるというか。いや、無理に言葉にする必要はないんですが、でもとにかく良い…っていう。こういうカットとか一つとってもすごく良いんですよね。あと柱時計のカットとか。撮影、色味。映像そのものが持つ情感とか、フィルムの表情って言うのはこういう何気ないBGのカットにこそ宿ることがたくさんあるんだなっていうのを再確認させられました。あと黒板のとこですごく『リズと青い鳥』を意識しました。あの作品に黒板をフューチャーしたシーンがあったかと言われれば微妙ですが、みぞれが音大受けることを優子たちに希美が言ってしまう場面とか、なのかな。たぶん色味とかは全然違うと思うんですけど、あくまで自分の中の印象の話です。*2
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光をフィルムの中に自然に落とし込むため(光を差し込みたい)なのかアイレベルの低いカットや、煽りのカットが多かった印象もあります。あまり俯瞰的にしない、というのは映像のコンセプト的にもそうなのですが、物語的に彼女たちを余り客観視し過ぎない映像にするためでもあったのかなとかは感じました。MVということも含め、めちゃくちゃ余白のある映像でもあったと思うので。もちろん、真俯瞰のカットとかもあるので、それ以上にこういうカットが印象に残る、という話なのかも知れませんが。あと単純に足元くらいの位置から撮るレイアウトって良いよねっていう。階段昇る芝居のとことか、あれは芝居もすごく良かったです...。

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こういうカットとかも。煽り気味に余白を撮るカット。めちゃくちゃ良いです...。あと昨年、『羅小黒戦記』観たときとかも思ったんですけど、色味の良いアニメって本当に良いなっていう。最近だと『22/7』7話とか、『SSSS.GRIDMAN』9話とか。もちろん撮影の良さっていう話にも直結していくものなのだと思いますが。こういう映像を観れた時の幸福感が、もう本当に堪らないです。

 

*1:サムネ参考画像:

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*2:一応、この作品を担当されたちなさんは、以前ヤマノススメ10話の演出をされた時に山田尚子さんの演出に影響を受けていた(作業当時は『リズと青い鳥』未公開時)という旨、ファンボックスに書かれているので、そこからの繋がりもあることを踏まえての印象です。興味のある方、読みたい方はちなさんのファンボックスに入ると良いと思います。