『約束のネバーランド season2』のEDについて

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本編の映像的な暗さ、暗澹たるストーリーラインを打ち消すよう描かれた今回のエンディング。壁の外へ希望を見出したエマたちと同様、格子の向こうに光をみるファーストカットから紡がれていくカットの多くは、そんな希望的観測に満ち溢れた質感を携えていました。特に顕著だったのはそのライティング。くっきりと明暗を分かつ陽(ひ)と影の存在は、まるで "こんな世界でも生きていくこと" を強く後押ししているように感じました。

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この辺りのカットも同様です。低い明度の中ではありますが、それは良くないことへの暗示に満ちた本編の流れを汲めば必然で。そんな中であっても "私たちは此処に居る" と云わんばかりの存在感を示すコントラストのつけ方や色味には、やはりグッと胸を締めつけられます。鬼ごっこのような、かくれんぼのような見方も出来るこの物語を踏まえれば、草葉の陰で木漏れ日(月の光)を浴びるというのも非常に感傷的で素敵です。また鬼の象徴として描かれ続けた "人間" とは少し違う手足の質感をこうも柔らかく見えるよう演出していたことには強い感動を覚えました。

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それこそ、season2の1話終盤で描かれた鬼と称される二人の手足の見せ方と対比すれば、それも一目瞭然のような気がします。暗がりの中にぼやっと映し出される鬼の象徴。おどろおどろしい劇伴や見せ方も影響していますが、恐怖の対象としてすら映し描いてきたものを直後のエンディングで翻す意味はやはり大きく、だからこそ前述したように柔らかく描かれた鬼の足のカットを観てあれほどまでに感動できたのだとも思います。

 

もちろんエンディングでの見せ方が意図して1話終盤のカットと対比的になったのかは分かりませんが、それがたとえ偶発的なものであったとしても、そう見えたことはやはり感情を大きく揺さぶられる理由としてとても大きなものでした。

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ロードムービー的な見せ方。あくまで鬼である彼女たちも "人と同じである" ことを匂わせてくれる質感と温かみある色の調和。背景も含めた作画の良さもさることながら映像を構成するあらゆる要素が一つになり、圧倒的な絵としての素晴らしさと世界観を強く感じさせてくれます。その後に描かれるフラッシュバック的な描写も合わせ、まだ本編では決して語られていないものを既に我々受け手が知ったかのよう錯覚させてくれる映像の強さ。歌詞との合致。物語性。遠くを見つめるムジカの視線になにか言い知れぬ感情が去来するのも、すべてそういったものへと結びついていくのだと思います。

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そうした映像の中、特に素敵だなと感じたのがこのカットでした。これまでふれてきたような色味やライティングによって構築される世界観の素晴らしさを強く感じたカットであることは言わずもがな、一歩踏みしめる度にヒールへとそそがれる光のあたり方、その質感があまりに感傷的だったのです。なぜなら、その一歩を踏みしめ進んでいくことに意味を見出してきた本作にあって、そこへ少しばかりの陽が差すというのはこの世界で生きる者たちへ送られる祝福に他ならないと感じたからです。

 

それこそ、赤い葉か花弁か*1。その上をゆっくりと踏みしめ歩く姿には懸命に生きようとしてきたエマたちの姿を重ねずにはいられませんでした。それは、生を感じさせる揺れ靡くスカートの裾の速度、その道の先に少しばかり想いを馳せることのできるレイアウトなども同じこと。そのすべてが本当にこれまで描かれてきた物語と相まっていて、強く感動させられました。

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そして最初に描かれた窓と同じものなのかどうか、冒頭での閉塞感とは逆の解放感、青さ、そして時の経過を感じさせてくれるカットがとても情緒的であり、物語的で。振り返りまた歩き出すムジカの微笑みや空に抜けていく締め方も含め、フィルムの最後まで強く希望を抱かせてくれる流れ。些細な、けれど確かに刻まれていく明日への道導足る一つ一つの描写が本当に素敵でした。エンディング主題歌であるMyukさんの楽曲も素晴らしく、「物語を終わらせたくはない」「この夜を越えて行け」などのフレースが映像とマッチしていく過程など、もう大好きです。

 

そして、このエンディングのコンテ演出、作画、背景、仕上げ*2までを担当されたのが紺野大樹さん。以前担当されていた『炎炎ノ消防隊』のエンディングでも感動したのを覚えていますが、本作の映像も素晴らしく、その全てのカットにとても惹かれました。重ね重ねになりますが、撮影の良さも含め色味や世界観、なにより絵の力強さが素晴らしく、ムジカたちの物語にも必然と目と耳を傾けたくなる、そんな素敵なフィルムだったと思います。本編の話ももちろんですが、その中でこれからこのエンディングがどう影響し、また違った見え方をしていくのか。そういった部分も今からとても楽しみです。ですが、一先ずはこんなにも素敵なエンディングに出会えたことに今は感謝をしたいなと思います。

*1:本作ではこれまで命の象徴としても描かれてきた

*2:仕上げ協力に古橋聡さん