話数単位で選ぶ、2020年TVアニメ10選

今年のアニメを振り返る意味も兼ね、今回もこちらの企画に参加させて頂きます。

・2020年1月1日~12月31日までに放送されたTVアニメ(再放送を除く)から選定。

・1作品につき上限1話。

・順位は付けない。

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選出基準は例年と同じく特に面白かったもの、感動させて頂いた話を選定させて頂きました。それ以外は上記のルール通り、放映季順、他選出順に他意はありません。敬称略で表記している箇所もありますが、その辺りはご容赦を。

 

 

22/7 7話 「ハッピー☆ジェット☆コースター

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脚本:大西雄仁 絵コンテ:森大貴 演出:森大貴 総作画監督:まじろ

作画監督:三井麻未、田川裕子、川村幸祐、木藤貴之、りお、凌空凛、飯野雄大

 

二人の少女を象る影と光の物語。どこまでも内省的で、感傷的で、その内側から見える光がどれほど彼女にとって眩しいものだったのかを克明に記す挿話でした。ライティングの一つ一つ、モチーフの一つ一つが彼女の心根にふれるようで、初めて観たときは胸に迫るものの大きさにただただ圧倒され、泣いてしまいました。特に彼女の過去を踏まえてのラストシーンは素晴らしく、無事でいてくれた仲間/友人たちへの想いを詰め込むコンテワークと、ジュンの感情が滲む芝居には胸を締めつけられます。多くのカットが彼女の心象風景そのもののような、そんな風にさえ思える力強い数々のカットが今も尚、脳裏に焼きついて離れません。

参考記事:青空の似合う貴方へ――『22/7』7話の演出について - Paradism

 

Fate/Grand Order -絶対魔獣戦線バビロニア- 18話 「原初の星、見上げる空

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脚本:桜井光 絵コンテ:温泉中也 演出:温泉中也 総作画監督高瀬智章

アクション作画監督:温泉中也 作画監督:Moaang、川上大志、温泉中也

 

圧巻のアクション作画、情感的な芝居。そのすべてが物語の終わりへ向け音を立て収束していく様は、あまりに気高く、美しく、とても感動的でした。各々が抱える想いや信念が作画に宿る瞬間というものはやはり、とくと素晴らしいのだと改めて思い知らされたような気がします。エンディングへの入りも完璧で、まさに一本の映画を観終えたような気分にさせられる挿話でした。またアクションはもちろんですが、特に好きだったのは序盤、マシュとイシュタルが二人で会話する場面。浮かぶ星々を人々の輝きに見立て続けた本作の代名詞とも呼べるシーンでした。「遥かな過去、遥かな時代に輝いた誰かの人生。それを何千年も経った今、受け取る」。そしてこの時代に生きた彼ら/彼女たちの想いもまた未来へときっと繋がっていくのだろうと。冴え渡るエモーショナルな演出、サブタイトルまで含め、そんな風に思えたことがとても嬉しかったです。そして、その物語を遥か未来の今を生きる人々がアニメーションとして描きだす奇跡をも合わせ、非常に感慨深い挿話となりました。個人的に2020年の一番好きな作画回と言えばこの回だと言い切れます。

 

映像研には手を出すな! 8話 「大芝浜祭! 」

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脚本:湯浅政明 絵コンテ:長屋誠志郎 演出:長屋誠志郎 総作画監督浅野直之 

作画監督:木下絵李、河本零王、寺尾憲治

 

より湯浅監督らしさを感じる前半のコミカルなシーンから、よりパーソナルな部分にスポットを当てていく文化祭での上映パート。そして、展開される水崎ツバメと家族の話。アニメーション/作画に恋焦がれる少女が、自らの手で道を切り拓いていたことへの両親の理解と "それを支える演出の凄み" も合わさり、非常に万感の想い溢れる話になっていたように感じます。中でも、木漏れ日のなか水崎家が家族三人で話しをするシーンは息を吞む秀麗さ。役者もアニメーターも同じように、なにかを生み出すことへの衝動は果てがないのだと語る演出、台詞回しがとてもクレバーでいて熱の込もるものになっていました。どこか深淵を見つめるような憂いも情緒があり、良いですね。この作品に関しては、特に3話と7話、いずれかの話数を選ぶかでかなり悩みましたが、7話でのツバメの台詞が具現化された8話は多岐に渡りアニメーションの魅力を寡黙に説いていたように思えて大好きです。

 

ランウェイで笑って 3話 「ランウェイで笑って」

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脚本:待田堂子 絵コンテ:長山延好 演出:住石亜蘭、渋谷亮介

総作画監督:金子美咲、中山和子

作画監督:杉浦久雪、Studio EverGreen、Synod

 

「服を引き立てるためモデルはランウェイでは笑ってはいけない」という前提の中、本作がタイトルとして「笑って」という言葉を冠に置く意味はなんなのか。その本懐の一片を味わうことが出来る非常に劇的な挿話です。育人と千雪、そして新沼文世の物語が交わり描かれる群像劇が素晴らしく、スピード感あふれるコンテワークの中、感情曲線が描く放物線の美しさにはただただ見惚れました。世の中うまくいかないことも多いけれど、それでも本当にやりたいと思うのならやりたいことをやればいい。好きなことを好きと、やりたいことをやりたいと叫べばいい。その姿こそが誰かの胸を打ち、また誰かの "やりたいこと" に繋がっていくのかもしれない。そんな未来への希望を見出すまでがきっとこの挿話の主題でもあるのでしょう。好きなことを好きだと胸を張り言えることを、「ランウェイで笑う」ことに繋げたまさに秀逸な回。フィルムを彩る撮影、感情を誘導する視線描写の良さもあり、観ていて非常に心に刺さるエピソードでした。

 

イエスタデイをうたって 2話 「袋小路」

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脚本:藤原佳幸 絵コンテ:伊藤良太 演出:牛嶋新一郎 総作画監督谷口淳一郎

作画監督:武藤幹、矢野桃子、長尾圭吾、寿門堂、菊永千里、菊池政芳、海保仁美

菅原美智代、上野沙弥佳、池添優子、乘富梓

 

あらゆるモチーフや舞台装置を使い境界や隔たりを構築する演出の妙。主人公とヒロイン二人の関係性や感情をうまくレイアウトに落とし込んでいたのが、あまりに絶妙でした。どちらかと言えば地に足の着いた現実感の強い作風。しかしだからこそ、ふだんのさりげない芝居や仕草が生きるのがこの作品の素晴らしいところで、特にこの回はそういった見せ方が顕著だったように感じます。観終わった後には思わず溜め息をついてしまうほどに強く惹き込まれた挿話。遠景やそれを彩る色味、撮影の良さなども含めとても胸を打たれたエピソードです。

参考記事:『イエスタデイをうたって』2話の境界、演出について - Paradism

 

魔王学院の不適合者 〜史上最強の魔王の始祖、転生して子孫たちの学校へ通う〜 4話 「十五の誕生日」

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脚本:田中仁 絵コンテ:田村正文 演出:関根侑佑 総作画監督:山吉一幸、平田和也

作画監督:大槻南雄、古谷梨絵、船越麻友美、水﨑健太、久松沙紀、竹森由加

 

本来ならば存在するはずのない姉妹。けれど貴方が居たからここまで生きて来れたように、貴方が居なければきっと "今の私は居ない"。だからこそと自らの命を賭し、感情を押し殺し、ただ一人大切な人を救おうとする真っ直ぐな想いがどこまでも眩しく、輝き続けた挿話でした。印象的な演出も冴えわたりますが、向き合う瞬間は彼女たちと真っ直ぐ向き合ってくれる見せ方が本当に素敵で、ついぞ涙を誘われました。アクションも良く、劇的で直情な映像の流れにはとても引き込まれました。加えて総監督として関わる大沼心さんの過去作を思い出す映像表現には思わず膝を叩きましたが、中でも嘘をつくと目にその態度が現れるというのがまた堪らず。偶然だとは思いますが、ここで『ef』を重ねられた体験は、私にとって今後とても大切なものになっていくのだろうと思います。

 

かくしごと 12話 「ひめごと

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脚本:あおしまたかし 絵コンテ:村野佑太 演出:村野佑太

総作画監督:山本周平西岡夕樹、遠藤江美子

作画監督:玉利和枝、sataりすく、山本周平、西岡夕樹、遠藤江美子

 

これまでの挿話の中で描かれた一つ一つのピースが繋がった最終回。アンニュイな雰囲気が根幹にある中、「あなたのためなら」と全力で駆け出す姫の姿、その疾走感の素晴らしさに思わず涙してしまいました。記憶を失っても尚、娘に捧げ続けた無償の愛。それが翻り、父に捧げる無償の愛へと変遷していく過程があまりにもドラマチックでした。親子二人のバックショットで終わるのも堪りませんね。エンディングと対になっているような。エモーショナルなカットも多く、とても胸に残る挿話だったと思います。

 

ストライクウィッチーズ ROAD to BERLIN 8話 「ザ・フォッグ

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脚本:村上深夜 絵コンテ:川崎芳樹 演出:川崎芳樹、亀井隆広

総作画監督:サトウミチオ、小野田将人 作画監督:柴田和紀、牛島希、重本和佳子

 

エイラとサーニャの関係性は言わずもがな。けれど、前作から10年経った今だからこそ、もう一度二人の関係を見つめ直そうとする物語の在り方がとても素敵でした。霧がかる空が舞台というのも乙で、あらゆる状況が重なり視界が狭まる中、"なにを信じるのか" ということを問いかけるストリーラインも秀逸。晴れ渡る空に二人という本作らしい締めがとても美しく映りました。相も変わらずな中学生男子感を見せるエイラ。その横で微笑むサーニャという構図だけでもう眼福ですね。どの話数を選ぶかでとても迷った本作ですが、作画もドライブ感溢れるコンテワークも素晴らしく、なにより一番好きな二人の絆の話。振り返ってみればやはりこの回なんだよな、と思いました。

 

ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会 5話 「今しかできないことを」

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脚本:伊藤陸美 絵コンテ:長友孝和 演出:横手颯太

総作画監督:横田拓己、冨岡寛、渡邊敬介 作画監督:鐘文山、山内尚樹

 

ライティング光る印象的なファーストカットから始まった本話ですが、あのアバンの演出がみせた "凄いことになるかも知れない" という予感は、今思えば意図的だったのだろうと思います。横構図や光と影の映像表現がもたらすエマと果林の関係性、心情描写はその幕切れまで連なり続け、もはや一本のフィルムを構成する根幹にすら成り得ていました。等身大の気持ちや悩みを描き続けた本作にあって、向き合うことをどこまでも中心に据えたフィルム。劇中歌に至るラストシーンはまさにその極地だと思います。手を指し伸ばす芝居の濃度も高く、その積み重ねが果林の想いを振り向かせたのだろうと感じられるラストカットが最高でした。横構図を描き続けた中、最後が正面カットっていうのが本当堪らないです。

参考記事:『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』5話の演出について - Paradism

 

アサルトリリィ BOUQUET 5話 「ヒスイカズラ

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脚本:佐伯昭志 絵コンテ:長原圭太 演出:長原圭太

総作画監督:潮月一也、崎本さゆり、常盤健太郎

作画監督:高野晃久、佐藤隼也、秋葉徹

 

梨璃の誕生日を控え、プレゼントに頭を悩ませ奔走する夢結と、その一日を描いた挿話。コメディタッチに描かれる中、誕生日当日になるにつれシームレスにアンニュイな雰囲気へ移ろいでいく演出、閑静で情緒的な見せ方にとても引き込まれました。なにより、足を運んだ梨璃の故郷でその景色や色、匂いまでをも彼女が感じているように映ったのはきっと気のせいではないのでしょう。そっと口元に運ばれるラムネの発泡音やビー玉の音色まで、そうした全ての一瞬に梨璃と夢結の繋がりが深まっていく実感を得られることがきっと本話においては大切であったはずです。"相手をよりよく知る" ことを描く先で、自分が今抱いている感情が本物なのかを問われる幕切れも秀逸。自らがお姉さまに抱く感情とそれは同じ類のものなのか、それともーー。同時進行で描かれた梅と鶴紗の話も踏まえ、どこまでも繊細に関係性を描きだした素晴らしいエピソードでした。

 

 

以上が、本年度選出した挿話になります。

 

今年もかなり悩みました。最後まで悩んだのは『彼女、お借りします』7話、『乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…』11話など。その他にも初期段階で候補に挙げた話数もありましたが、最終的には自分らしい選択ができたように感じています。どの話数も自信をもって大好きですと言い切れる挿話ばかりです。

 

今年も本当に多くの素敵な作品に出会えました。関わったすべての制作スタッフ・関係者の皆様に大きな感謝を。本当にありがとうございました。来年もたくさんの素敵なアニメとの出会いがあることを願いつつ。また一年、健やかなアニメライフを送ることができればいいなと思います。