今年のアニメを振り返る意味も兼ね、今回もこちらの企画に参加させて頂きます。
・2021年1月1日~12月31日までに放送されたTVアニメ(再放送を除く)から選定。
・1作品につき上限1話。
・順位は付けない。
集計ブログ様:「話数単位で選ぶ、2021年TVアニメ10選」参加サイト一覧
選出基準は例年と同じく特に面白かったもの、感動させて頂いた話を選定させて頂きました。それ以外は上記のルール通り、放映季順、他選出順に他意はありません。敬称略で表記している箇所もありますが、その辺りはご容赦を。
ゆるキャン△ SEASON2 8話 「ひとりのキャンプ」
脚本:田中仁 絵コンテ:金子伸吾 演出:相澤伽月 総作画監督:佐々木睦美
作画監督:近藤律子、北島勇樹、堤谷典子、遠藤大輔
ファーストカットが良い話数はそれだけで印象に残る、というのが個人的な指針の一つになってたりするのですが、この回もそんな例に漏れず素晴らしいカットを冒頭から見せてくれました。なでしこにとっては初めてのソロキャン。その門出を見送るよう彼女の踏み出す足とそのバックショットを捉えていた意味は余りに大きいものであったはずです。トンネルを抜ける、というのもモチーフ的で、新たな世界に飛び立とうとしている彼女を見守る様な風合いさえそこにはありました。中盤まで描かれる各々のフラットな旅の様子、けれどなでしこのことが心配になりキャンプ場まで赴いてしまうリンと桜の感情の動きまで含め、淀みなく流れる物語の行方がとても心地よかったです。"ソロキャン" などではなく、敢えて『ひとりのキャンプ』と題した意味。ひとりで居ることの詫び寂びと、それでも決して独りではないんだなと感じられる温かさ。一人で居るからこその内省的な情緒感まで含め、その全てがラストシーンに詰まっていたと思います。リンからなでしこへ、なでしこからキャンプ場で出会った少女へと "やりたいこと" が繋がっていくのも本当に良いなと。本作の素晴らしさが何一つ余すことなく詰まった挿話だったなと思います。
ウマ娘 プリティーダービー Season2 13話 「夢をかける」
演出:成田巧、及川啓、吉川志我津、にしづきあらた、佃泰佑
作画監督:中島順、ハニュー、福田佳太、桐谷真咲、坂本俊太、辻智子、鍋田香代子
かつて競馬に魅せられたきっかけが何だったかというのは朧げにしか覚えていませんが、一番最初に好きになった競走馬の名前は今尚しっかりとこの胸に刻まれています。その名前はトウカイテイオー。愛してやまない、私のヒーローです。だからこそこの作品に関して言えばもはや選択肢などありませんでした。物語の感情曲線や演出的なものを考えるのなら10話を選ぶのが自分の中での筋。それでも、どうしようもない程に抗えないドラマがこの話数にはあったのです。貴方の勇姿をまた観れて良かった。貴女の勇姿を見届けられて本当に嬉しかったのだと。私にとっては "その名" に二人目のヒーローが宿った瞬間。奇跡の復活は、二度差す。本話を観てテレビの前で泣きじゃくったあの日の感動は決して忘れません。
SSSS.DYNAZENON 10話 「思い残した記憶って、なに? 」
脚本:長谷川圭一 絵コンテ:五十嵐海 演出:佐竹秀幸 総作画監督:坂本勝
作画監督:五十嵐海
自身の過去と向き合うため精神世界へ飛び込んでいく、という本話における舞台設定が特異的なアニメーション (あるいはアニメーターの個性) と合致し、完璧な世界観を織りなしていた話数。『SSSS.GRIDMAN』9話に続き、以前からファンであった五十嵐海さんのアニメーションやその雰囲気を存分に味わえたこと、またそれがストーリーに対しても強烈に機能していたことが本当に嬉しく、終始ワクワクさせられました。物語的にも夢芽の過去との清算が描かれていたりとターニングポイントとなっていた本話。知恵の輪に仮託された姉妹の関係性がとても素敵で、ようやく外すことが出来たものを再度結び直すまでの過程は、そのまま本作のテーマ性と大よそ同じ輪郭をもって重ねることが出来るのだろうと思います。最終話で夢芽が語った「ずっと消えない跡になるといいね」という言葉。それを言葉ではなく寡黙に、しかし雄弁に先述していたのが今話最大の見せ場だったのでしょう。本年のベストエピソードを一つ選ぶとするなら私はおそらくーー。何度観返しても胸に迫るものがあるエピソードです。
のんのんびより のんすとっぷ 10話 「寒くなったりあったかくなったりした」
脚本:吉田玲子 絵コンテ:二瓶勇一 演出:福多潤 総作画監督:大塚舞
作画監督:井本由紀、石田誠也、鈴木FALCO、竹森由加、原口渉、ビート、松井京介
Aパートの思わず吹き出しそうになってしまうような面白さ。冴え渡るひか姉の突っ込みとシュールなコント。どちらかと言えばやっていることは完全にコメディ寄りなんですが、出来るだけ彼女たちが体感している時間感覚をそのまま映像に落とし込んでいたのは、さすがの一言でした。余計にカットを割らないことで作り出される臨場感、リアルタイムさはもはや本作の十八番とも言えますね。一方、Bパートは万感の想いを込めたようなシーンの連続でした。言葉にせずとも溢れ出してしまう感情もあれば、きちんと言葉にすることで伝わる想いもある。ラストカットにおける「今度はちゃんと、さよなら言えたのん」というあのれんげの言葉は、まさしくそういった本話の代名詞足る台詞にすら成り得ていました。そして、その言葉を受けしばし長回しで映され続ける青空はまるできちんと言葉にすることが出来たれんげへの祝福の様にも映っていましたし、あの間尺こそが本話の良さをさらに一段上へと引き上げていたことは、まず間違いありません。そんな風にAパートとBパートの心的な、物語的な寒暖差がサブタイトルでしっかりと表現されていたのも本当に素敵でした。
スライム倒して300年、知らないうちにレベルMAXになってました 10話 「吟遊詩人が来た 」
脚本:安永豊 絵コンテ:富井ななせ 演出:富井ななせ
吟遊詩人としての大成と、自分らしく居ることの両立。そんな岐路が目前に立ちはだかるからこそ生じてしまう迷いと選択の連続、そして失敗。私だってそんな器用に人生を立ち回ることが出来たのならどんなに良かっただろうーーと、きっとククもフラットルテも痛感していたのだろうと思います。けれど迷えたからこそ "今が在る" し、出会えた人たちが居る。だから、今この場所に居る "間違え続けてきたあなたは、決して間違いではないんだよ" と語るストーリーラインが本当にどうしようもなく胸に刺さりました。家族としての描き方をとても大切にしてきた本作らしい見せ方・レイアウトも素晴らしく、ライブシーンに至ってはどこまでも直情的でエモーショナル。ライティングが織りなす感情の起伏を音楽でなだらかにしていく手つきが素晴らしく、グッときました。ラストシーンにおけるフラットルテの芝居と付けPANのカメラワークは本話においてのベストカットでしょう。彼女の感情の機微、その心にまるで映像が同期していくような。そんな質感を観返すたびに強く感じてしまいます。
参考記事:『スライム倒して300年、知らないうちにレベルMAXになってました』10話の演出について - Paradism
かげきしょうじょ!! 11話 「4/40」
脚本:森下直 絵コンテ:森田宏幸 演出:安藤貴史 総作画監督:今岡律之、牧孝雄、村木智彦
作画監督:門智昭、度会竜司、塚本歩、住本悦子、茂木海渡、日高真由美
オーディションを前にした各々の想いを描いた挿話ですが、そんな多岐に渡る心情を細やかな生活芝居や表情から汲み取り、丁寧に描いていたのがとても素晴らしかったです。特に本作は役者としての物語を描いた作品。だからこそ、彼女たちの一挙手一投足がより一人ひとりの想いに反映されるよう意味を帯びていくし、その芝居の質感がそれぞれの実在感や役者としての才能の有無にまで直結していく。故に、それを作画や演出の側面から高い強度で支え続けていたことが本当に素敵だと思えるのです。それこそ愛のオーディションでの演技に私が心を奪われてしまったのだって、メタ的に、元を正せばその際の芝居作画の秀麗さに見惚れてしまったというそれだけの話。でも、それが良いんですよね。そこに物語が乗る。それがそのまま愛の "役者としての技量に見入ってしまった" ということに結びついていく。むしろそういう瞬間こそを観るために、私はアニメを観ているのかも知れません。
参考記事:『かげきしょうじょ!!』11話の表情と芝居について - Paradism
小林さんちのメイドラゴンS 10話 「カンナの夏休み
脚本:西川昌志 絵コンテ:小川太一 演出:小川太一 総作画監督:丸木宣明
作画監督:引山佳代、熊野誠也
「小林と喧嘩した」というカンナのモノローグから始まるのが叙述的で求心力のあった本話。蓋を開けてみればその本質は "帰る場所があることの温かさ" とその大切さにこそありました。何があっても笑顔で受け入れてくれる人が居るということ。そんな家族的な価値観を群像的に、新たな出会いによって改めてカンナが実感するというストーリーラインがとても素敵でした。また本作はある種の生活アニメであるという個人的な主張の裏づけとして提示したくなるBパートの生活描写は言葉にならないほど素晴らしく、この普遍的に思える時間こそが彼女たちの関係性と実在感を揺るぎないものにしていました。雨上がりの正午。バックショットと繋がる手から溢れ出る家族の在り様はまさに京都アニメーションの系譜。夏の質感、カンナの瞳に映る小林の姿まで含め、最高の幕切れだったなと思います。ライティングやレイアウト、カメラワークも冴え渡っていて、大好きな小川太一さんの演出回としてもベストエピソードとして挙げたくなるような挿話。観終える度に深く溜息をついてしまうような。そんな感無量さに満ち溢れていました。
SELECTION PROJECT 2話 「明日へ旅立つ少女たち」
脚本:高橋悠也 絵コンテ:原口浩 演出:原口浩 総作画監督:杉田まるみ
オーディションの忙しなさから幾日か開けたある日の出来事。ある種、小休止的な。物語が進んでいく回というよりは物語が一度立ち止まるような雰囲気さえ感じられた本話ですが、そこで描かれていたのは鈴音が自らの想いと覚悟を再度自覚するための分岐路に他なりませんでした。あらゆるものと彼女が向き合い、今の立ち位置を自認していくシークエンスが幾度となく描かれていたのもその証左です。そしてそれは演出的な側面からも同様に表現されていました。向き合うことを強いる横構図。二人で一つのベンチに腰掛ける関係性の発露と、カメラワーク、木漏れ日の質感まで含め、そういった映像の支えがより彼女たちの心情を前面に表出させていたことは、まず間違いないでしょう。それこそ振り返れば本作はずっとそうでしたよね。それは物語的にも、演出的にも。何かあれば向き合い、語り合い、一歩一歩前に進んできた。だからこそ、ここでは本話を選びたかったというか。その足掛けとなり、物語と演出の基盤となった本話がやはりどの話数より印象的で、心に残りました。
参考記事:『SELECTION PROJECT』2話の演出、向き合うことについて - Paradism
やくならマグカップも 二番窯 17話 「どうしたの?十子先輩」
脚本:荒川稔久 絵コンテ:神谷純、前田薫平、市村仁弥 演出:前田薫平
兼ねてからふれられていた十子先輩と祖父の関係性。それを深堀りし、向き合い、改めて彼女の内面にもう一歩踏み込んでいった情感溢れる回。柔らかい表情や芝居の豊かさも素晴らしく、それらが十子先輩の心情を次第に浮き彫りにしていく過程まで含め、観ていてとても心動かされるものがありました。下校時の川辺の夕景シーンの良さは筆舌に尽くせず、いつもキリッと姿勢正しく居る先輩がどこか童心に帰る瞬間が描かれているのがとても好きでした。撮影の質感も素晴らしく、画面に映える光の塩梅はまさしく彼女の心そのもの。皆でお買い物にいくパートでは一期の主題歌が流れたりとスペシャル感があったことも記憶に強く残る一因となりました。
古見さんは、コミュ症です。1話 「喋りたいんです。」
脚本:赤尾でこ 絵コンテ:川越一生 演出:川越一生
まるで穏やかな青春がこれから始まっていくような質感さえ伴っていたアバンでしたが、その実、本話が提示した物語の馴れ初めはとてもナイーブであり情緒的で、触れれば今にも壊れてしまいそうな感傷性を大きく伴っていました。想いを言葉にすることが出来ない古見さんの性格と、それとは裏腹に向けられる羨望の眼差し。そのギャップに痛みを感じてしまうほどに、後半における彼女の "言葉" が吐露されていくシーンは圧巻でした。けれど、だからこそ只野君が同じように "言葉" を発した*1あの瞬間、古見さんは喜びや驚きが入り混じった言い知れぬ感情を抱いたのだと思います。時折り起こる光のハレーションはそんな彼女の感情そのものだったのでしょう。序盤は零れ落ちる涙の様にも見えたチョークの粉が、二人の会話を祝福する桜の花弁のように見えてくる変遷も素晴らしく、あの空間で起こり描かれるすべての事象がもはや古見さんの感情に沿っているとまで思えたことが、なんだかとても嬉しかったです。OPへの入りも完璧で、あれがあって初めて完成する挿話といっても過言ではないでしょう。コメディタッチのパートも濃すぎずあっさりし過ぎずと、とても良い塩梅。もうこのままこの物語が終わってしまっても良いと思えたほどに、衝撃と感動を受けた挿話でした。
以上が、本年度選出した挿話になります。
今年もかなり悩みましたが、最終的には自分らしい選択ができたように感じています。どの話数も自信をもって大好きですと言い切れる挿話ばかりです。今年も本当に多くの素敵な作品に出会えました。関わったすべての制作スタッフ・関係者の皆様に大きな感謝を。本当にありがとうございました。来年もたくさんの素敵なアニメとの出会いがあることを願いつつ。また一年、健やかなアニメライフを送ることができればいいなと思います。
*1:チョークで黒板に音を立てた